お嫁騒動
「お、お父様ッ!い、い、い、言っていい事とッ!悪い事がありますッ!」
「うむ?……あ。我やっちゃったか?」
「やっちゃいましたね〜、リュートさんは聞こえてない……なんてオチ無いですよね〜」
祐奈が恐る恐る俺の方を見る。
勿論聞こえていた。
サリアは妖精王に向かって恨みがましい視線を向ける。
「まぁ、やってしまったものは仕方がなかろう!サリアよ!ファイトだ!ヌハハハ!」
大笑いしながら妖精王は逃走した。
ヌハハハ!と言いながらドスドスと床を踏みしめて全力疾走している。
相当サリアの視線が怖かったらしい。
「リュート……?サリアがどうかしたの……?」
アクアよ、お前は状況を把握する能力をつけような?
空気を読んでくれ。頼むから。
「は、はぁっ……。リュ、リュート様っ。わ、私の気持ちを……聞いて頂けますか?」
「あ、は、はい」
サリアの言葉に俺は短く答える。
正直言ってこの世界の常識が俺の常識と合っていないのだ。
俺は一夫多妻が許されるこの世界の常識が本当によく分からない。
確かに魅力的ではある。俺も男だ。昔はハーレムを夢見たものだ。
しかし……、2人目の妻を迎えた時のアクアの反応を想像すると俺はとてもじゃないがそんな事は出来そうに無い。
いや、でもアクアがそんなしおらしい反応をするだろうか?うーむ、分からん。
「リュート様……。初めてお会いした時、貴方の男らしいお姿に心を奪われました……。勇敢に敵へと立ち向かうその凛々しいお姿に私は恋をしてしまいました……。コレは父に命令されたのではなく、私自身の意志です。どうか、どうか私を……貴方の妻にして頂け無いでしょうか……?」
サリアはゆっくりと自身の想いを吐露した。
その場にいた全員が黙っていた。
俺の答えは……、勿論決まっていた。
「悪い。気持ちは嬉しいけど……俺、サリアの気持ちには答えられない。アクアが好きなんだ」
「そう……ですか……」
「ごめん」
「い、いえっ。そんな、リュート様が謝ることなんて……」
サリアの瞳から一筋の涙が流れる。
「あ、あれっ……。私、泣くつもりなんて……無かったんですけれど……」
「サリア……」
リーシャがサリアの肩を抱いた。
今俺がサリアを慰めるのは間違えているだろう。今は、リーシャに任せておく。
アギレラが松葉杖をつきながら隣にくる。
「リュート……」
「何も言うな、アギレラ。俺だって別にサリアが嫌いな訳じゃ無いさ。でも、2人も妻を持つのは……なんか違うだろ」
「いいや、違う。リュート。お前はサリアが嫌いじゃ無いかもしれんが、好きでも無いんだ」
「何だと?」
俺はアギレラの言葉に眉をひそめる。
俺は仲間はみんな好きだが、何を言いたいのかさっぱりだ。
「お前が女性として愛しているのはアクアだけなのさ。もし、アクア以外に女性として愛する者が現れた時、お前の意見は変わるかもな」
「はぁ……。変わるわけねえだろ」
そんな事になるわけがない。
俺が2人目の妻を迎えるなんてそんな事があってたまるか。
「申し訳ありません、リュート様……。申し訳……ありません……」
「すまん」
「ちょっと落ち着くまで私が相手するわ」
「頼む」
リーシャとルーナがサリアと共に広間を出て行った。
それを見届けると次はデウスエクス・マキナが俺の前で跪いた。
『マスター、私もマスターに求婚する。マスターの命令になら何でも従う。どんなニッチなプレイにでも対応可能。マスター、結婚して』
「お前はいっつも話をややこしくするなぁ‼︎ちょっと黙っててくれ!」
『了解』
一言言ってデウスエクス・マキナが黙り込んだ。俺の『ちょっと黙っててくれ!』と言う命令を受け入れたらしい。
「リュート……、良かったの……?」
アクアが少し心配そうな表情で問いかけてくる。
「良いんだよ。それに、お前は俺がサリアを妻にして良かったのか?」
「……、嫌……かも……」
「だったらそれで良いだろ?」
「うん……」
俺はアクアの肩を抱いて歩き始める。
一応少しの間滞在してから魔界へと向かう予定なのだ。
さっさと部屋で休もう。此処は少し気まずい。
「ねえねえ、おにーさん!私もお嫁さんにしてくれる?」
「カ、カレンっ?」
カレンが俺の服をグイグイ引っ張りながら無邪気に言った。
俺は後ろを振り向けなくなった。背後に鬼がいる。いや、鬼という表現すら生ぬるい。
悪魔だ悪魔。お父さんと言う名の悪魔がいる。
「何だと……、リュート……貴様、そんな小さな子を……?ブチ殺すぞ……」
「フフフ、カレンもませたことを言う歳になったんだな……。どうした?アギレラ。可愛いじゃないか」
「フェリア!お前は平気なのか⁉︎娘があんなことを言っているのだぞ⁉︎しかも妻帯者の男に!」
「一夫多妻はありふれているじゃないか。それに、リュートにならカレンをやっても良いぞ?私は」
「ぬぐぐぐ……だがダメだ!ダメだダメだッ!」
あかん。
後ろで鬼のような形相のアギレラが手に持った松葉杖を握りしめて砕いていた。
そしてフェリアは何故そんなにも乗り気なんだ。
年齢差に突っ込んでくれ。頼むから。
「あのなぁ、俺とカレンは8個も歳離れてるんだぞ?」
「あれ、私とリュートさんも8個離れてますよね?」
「そうだったな……」
「じゃあお嫁さんにしてくれる?」
祐奈が余計なことを言ったせいで俺の逃げ場が減った。
小さな子供は思い込みが激しいから迂闊なことを言うべきではない。
此処は適当に誤魔化しておくべきだろう。
「うーん……、カレンが大っきくなったら考える……かな?」
「本当⁉︎」
やっべ、選択肢ミスった。
カレンが瞳を輝かせている。
すぐに軌道修正をせねば。
「あー、いや、カレンもその内好きな人出来るだろうし……、まぁ、とにかく今はダメだ」
「分かった!私が16歳になったらお嫁さんにしてね?」
「え……あー……うーん……」
やべぇ、逃げ場が本当に無い。
なんて言ったら良いのかわからん。
「うえぇぇぇ……、ふぇぇ……!」
その時、アルバが泣き始めた。
俺はそれを天啓とばかりにダシにして逃げ出す事にした。
「あ、アルバが泣き始めた!部屋行くか!」
「うん……、行く」
俺は子供達連れてアクアと共に部屋へと向かう。
アギレラ一家とは別々だ。
「お嫁さんにしてねー!きっとだよー!」
もう知らん。
俺は聞こえていないふりをする事にした。この調子では明日も同じ話題になるだろう。
なんで俺こんなにもモテモテなの?
「それではカレンとアギレラは私とこちらだ」
「はーい」
「うむ、そしてリュートには後で話がある」
知るか。俺は今日は絶対に部屋から出ねえぞ。絶対にだ。
結局俺はその場を誤魔化す事に成功し、その日を終えるのだった。
その日は久し振りにハッスルした。人の家だったのに。
だって俺の嫁可愛いんだもん。仕方無いさ。
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次の日、少し気まずかったのだが、サリアに会いに言った。
すると、サリアはリーシャにぴったりくっ付いていた。
俺は意を決して口を開く。
「よう、気分はどうだ?」
「はい、お姉様のおかげで大分……」
「こら、サリア、やめて」
「は、はいっ」
お姉様……だと……?
気のせいか……?いや、でもなんだか妙にツヤツヤしてるし……。え、マジ……?
まさか、リーシャってそっちの気があったのか?
サリアの新しい扉開いちゃったのか?
しかし、俺は怖くて聞けなかった。
あら^〜