転生者
「あぁ〜、アッタマ痛ぇ……。吐きそ……」
昨日は調子に乗って飲みすぎた。
こんなことは前世でも中々やらなかったのに俺とした事が……。
「ふひゅー、うぅん……」
「エマ?」
俺の頭にしがみついて愛娘が可愛らしい寝息を立てていた。
今俺の息はめちゃくちゃ酒臭いのだが……。
そしてふと隣に目をやる。
「アク……ア?あれ?」
ベッドから起き上がり隣を見たらアクアがいないのだ。不審にも思おうものだ。
何故だろう。いつも一緒に寝ているのに。起こすまで絶対起きないのに。
更にはジンとアルバもいない。
「あ、リュート。……起きた」
と、その時、寝室の外からアクアが声をかけて来た。
どうやら今起こしに来たようだ。
俺がアクアに起こされるとは……、もしかして今ヤバい時間なんじゃ……。
「もうお昼過ぎだよ?」
「うそん」
寝過ぎた。
俺は頭からエマを引き剥がして伸びをする。
ところでここはどこなのだろうか。
そうだ。確か昨日は酒を飲みすぎてぶっ倒れてしまったのだ。
「……昨日はロウルが運んでくれたって」
「後で謝っとかねえとな……」
俺はガリガリと頭を掻きながら立ち上がり、エマの額のあたりを撫でた。
よく寝ている。エマはイマイチ俺に懐いていないと思っていたのだが思い過ごしかもしれないな。
「ご飯……食べる?」
「おぅ、悪いな」
そうと決まればさっさと飯食いに行くか。
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「フハハハハハ!飲めい飲めい!フハハハハハ!」
酒盛りしていた。
何やってんだこのバカども。
「くかー」
祐奈も飲んでしまったらしい。
一杯飲んだら潰れると自分で言っていたのだ。しっかりと酔いつぶれて眠っている。
昼間っから。
「酒を持てい!祝い酒だ!フハハハハハ!」
「クハハハ!おぅリュートよ!お主も飲め!」
ジャードとヴィシャスが2人揃って寝起きで二日酔いの俺に酒を勧めてくる。
もちろん飲むつもりは全くない。
というかいつまでお祝いしてやがるんだこのバカは。
「も、もう飲めません……」
「カイリ、大丈夫〜?お水だよ〜」
「あ、ありがとうマイル……」
海王の2人も飲んだらしい。
いや、飲まされた、が正しいか。
「しかしリーシャよ!貴様はよく飲むな!余と飲み比べをしてまだ潰れんとは!」
「ふっ、私は生まれてこのかた一回も酔いつぶれたことないわよ」
「ほぅ、面白いではないか」
「なによ、やるっての?」
リーシャどジャードが張り合って酒をがぶ飲みする。
酒豪の血が騒ぐのか飲み比べがすでに始まっていた。
多分今日と明日はコイツら役に立たないだろうな。
今日は宴会。明日は二日酔いだ。
「よし、ほっとこ。行こうぜアクア」
「……うん」
俺は止めるのもバカらしくなったので放置することにした。
飯は……もう良いや。面倒臭い。
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その後直接厨房を訪ねて飯をたかったあとレヴィアの部屋へと向かった。
どうやらそこでジンとアルバが遊んでいるらしい。
エマは俺の頭から離れなかったので置いて来たとのことだ。
取り敢えず他人の部屋だしノックは必要だろう。
「レヴィア、いるか?」
「あ、リュートくん?入って入ってー」
中からレヴィアの声がしたので入室。
なんだか女の子趣味全開の部屋だった。
全体的に淡い色を基調とした壁で覆われている。小物類も多い。
レヴィアはもっとガサツなタイプだと思っていたが、認識を改める必要があるのかもしれない。
「ぱぱ」
「ジンー」
俺は手を止めてこちらへやって来たジンを抱き上げた。
どうやらジンは本を読んでいたらしい。
「読めるのか?」
「ぱぱ、くさい」
抱き上げた途端にジンが顔をしかめる。そういえば俺は昨日飲み過ぎたんだった。
「悪い悪い」
俺はそう言って足元に目をやった。先ほどまでジンが読んでいた本がある。
拾い上げるとそれは懐かしの『6級魔道書』だった。
確か俺も昔これを読んでいたなぁ……。あの時は8歳だったか……。
って、ジンはまだ3歳にもなってないんだぞ⁉︎
「ジン、これ読んでるのか?」
ジンは答えない。
代わりにレヴィアが口を開いた。
「分かんないわよ。でも本を読ませたら興味津々だったわよ?ペラペラページめくるし」
そういえばジンは歩き始めるのも喋り始めるのもエマより早かった。
そして俺たちの意図を完璧に把握している節も見せる。その上天性の才能を持っている。
時折見せる子供らしからぬ行動。
頭の中に『転生者』の文字が過ぎる。
いや、考え過ぎか……?
「そうかー、ジンは天才だなー!将来は学者か?」
取り敢えず親バカ発言で俺の疑念を誤魔化しておく。
それに、ジンが転生者でも関係無い。ジンは俺の子だ。昔も似たようなことを考えたが、関係無い。
俺はそこで意識を切り替えた。
「アルバは何してんだ?」
「お絵描きしてるわ。お父さんとお母さんかな」
アルバの描いた絵は三人の人……に見えなくも無い絵だった。
殴り書きされているが、背格好からしてジルとメイとアルバだろう。
アルバも両親がいなくて寂しいのだ。
「ごめんな、アルバ」
「うー?」
俺は居た堪れなくなってアルバを抱きしめた。
アルバは訳がわかっていないのか素っ頓狂な声を出した。
帰らねばならない。
早くジル達を見つけ出さねばならない。
「アクア、戻ろうか。妖精界でアギレラ達が待ってる」
「……うん、分かった」
短い時間だったが、俺はここで獣人界を後にすることを決めた。
それはそうと頭が割れそうに痛い。二日酔いは辛いので二度とバカ飲みはしないと誓った。