酒盛り
「はいはい〜、並んで下さいね〜!お代わりもありますからね〜!」
俺たちが城へと戻ると完全に炊き出しが始まっていた。
ホッコリした顔で兵士達がしっかりと列を作っている。
かなりの量を作ったのだろう。お代わりもあるらしい。このバカみたいな人数の兵士にお代わりがあるとは……恐ろしい手際の良さだ。
偏に祐奈の皮剥きの速度が一躍買っていると言えるだろう。
それに、アクアもリーシャもマイルも料理上手で手際も良い。
「いやぁ!美味い!」「あぁ〜疲れた体に染み渡る……」「最高だ!結婚してくれ!」「何て暖かいんだ……」「お代わり!」「俺も!」
なんて兵士が口々に言う。
結婚してくれ!って言ったやつ。場合によっちゃブチ殺すぞ。
リーシャとかマイルに行ってるのなら許す。
アクア?論外だ。俺の嫁だぞ。
祐奈?バカめ、貴様のような馬の骨に祐奈をやるか。
何だか娘を持った父親の気分だ。俺には本当にエマという娘がいるのだが……何だか祐奈は他人という感じがしないのだ。何故だろうか。
「あ、リュート!おかえり、食べな食べな。熱々だよ」
「おう、ありがとな。あっつ!」
「わぁ、さっすがぁ〜」
「フム、美味そうなのである」
俺たちもお椀を受け取る。
ん?コレって……。
「そ!リュートが昔作ってくれたナベって食べ物。美味しいよ?」
「へぇ」
俺はそう言ってズズ……っと汁をすする。
うん、美味い。
流石はリーシャだ。かなり美味い。具体的には何が美味いのかよく分からんが。俺は舌バカなのだ。
この肉やら野菜やらがまた良い味出している。
うん、食レポド下手な男は黙るとしよう。
「フム、美味いのである。味付けが濃い目にしてあるのは兵士の疲れた体に良いようにしたのだな。よく考えられているのである」
「私が皮剥いたんですよー。美味しいですか?」
「味付けはお前じゃ無いんだろうが。威張るな」
少し素っ気ない言い方だが、調子に寄らせて良いことなどない。
「あら、祐奈の皮剥きがなかったらこんな量作れなかったわよ」
「いえいえ〜それ程でも〜」
「ま、役に立ててよかったじゃねーか」
戦いでしか役に立た無いと思っていたのだが、祐奈には意外な技能があったのだ。
「リュート、どう?」
「めっちゃ美味い。流石は俺の嫁」
「……もっと褒める」
「流石過ぎる!超美味い!お前のような嫁をもらって俺は幸せだ!」
「……ちょっと、照れる……」
「言わせんなよ恥ずかしい……」
「はいはい、イチャイチャは夜にやってね〜」
リーシャが手をヒラヒラ振りながら割って入ってきた。
幸せをおすそ分けしてあげたい。
しかし、イチャつくにしても自分の家でやりたい。残念だが今夜はお預けだ。本当に残念だが。
しっかしリーシャはいつまでたっても良い人見つかんねえな。
「はいそこー、余計なお世話」
「何で心の声聞こえてんだよ、エスパーか」
怖。付き合いの長いのも考えものだな。
「で、ミドのやつは?」
「あそこ」
リーシャの指差した場所ではミドが眠っていた。
地面に寝転がって寝ていた。
「え……、なんで?」
「ヴィシャスさんと酒盛りをし始めたんだけどミドさんってお酒弱いんだね。一瞬でゴロ寝したわよ」
「うっそだろお前……」
俺は唖然とした声を出す。
神様なのにこんなにも酒に弱いのか……。結局鍋食ってないし。
「まぁ放っておけば良いか」
「すまぬ、リュート。こんなにも弱いと思わなかったのである」
「いやいや、おっさんは悪くねえよ。俺も知らなかったしな」
ゴガァーー!ゴガァーー!と大いびきをかいている。女性としてどうなのだろうか。
アレでも最強の神様の一角である龍神、ミドガルズオルムだというのに……。
何だかロマンというものを破壊してくれる神様だった。
「祐奈は飲まないのか?」
「私死ぬほどお酒弱いんですよー。メイにも禁止されてるんです」
「そうなのか」
聞くところによると、どうやら昔に酒を飲んだらたった一杯で潰れてしまった経験があるらしい。
対してメイは尋常じゃないほどにお酒に強い。ジルも強いのだがそのジルを飲み比べで潰してしまったのだ。
仲間内ではダントツに強いだろう。実はフェリアとリーシャも強いのだ。
リーシャは長いこと一緒にいるからな、俺もよく知っている。
エルフってのはお酒に強い生き物なのだろうか?
「ルーナも小さいからダメって言われてて……。そしたらメイは真面目だから自分も飲まないっていうでしょ?それで私たち三人で旅してる時は全然お酒には縁がなかったんですよね」
「だから酒に強くなる機会もないと」
「あ、でも私が最初にお酒に酔って潰れちゃった時には一緒に飲んでた人の相手をメイが1人でしたって言ってましたよ?」
「素質あったんだな……」
生まれながらのザルだった訳だ。
俺はというと前世ではかなりお酒好きだった。付き合いでも飲むし1人でも飲む。
しかし、転生してからは味覚が変わったのかあまり酒を美味いと思わなくなってしまったのだ。
しかし、それは子供の頃の話だ。今は味覚が元に戻っているのかもしれない。
「リュートォ!飲め飲め!余が直々に酒を注いでやろう!」
「お、おぅ、悪いな」
「はい、イッキ!イッキ!」
「イッキコールやめい」
しかし俺もノリは悪くない。と、自負している。
イッキコールを受けたのだ。イッキするしかあるまい。
俺は酒を一気に煽った。
「ぷはぁっ」
「良い飲みっぷりであるぞ!」
「男前です!」
「はっはっはっ!どうだ!」
何だかテンション上がってきた。
しかし美味い。まだまだ飲めるぞこれなら。味覚が戻っていてよかった。
意外にも俺は前世よりも酒に強くなっているらしい。ガンガン飲める。
「アクアも飲むか?」
「……ちょっとだけ」
チビチビとアクアも酒を飲む。
俺はガブガブと飲む。ジャードと一緒になって調子に乗って浴びるように飲む。
こんなにも酒を飲むのは久しぶりだ。何年ぶりだろう。
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それからどれほど飲んだだろうか。
ジャードやヴィシャスと共にガブガブと酒を飲みまくった。アクアも少しずつだが結構な量を飲んでいる。
小さい頃は苦手だったからな。多分久し振りに酒が飲めるということが嬉しかったのだろう。俺は止まらなかった。
「リーシャは飲まねぇのかよー」
「酔ってるわねリュート。酒臭いわよ。何杯飲んだの?」
「しらねー」
何杯飲んだかなんてわからないがそこらに酒瓶が何本も転がっている。
鍋食って魚食って酒飲んでって……なんだろ、飲み会っていうよりも……鍋パーティーみたいだ。
「りゅーと……」
俺にトロンとした瞳を向けてくるアクア。
どうやら酔いが回ってきたらしい。かくいう俺も同様だ。
「ん……」
まるで昔のように俺の腕の中に潜り込み、俺の胸に顔を埋めてくる。
今も大して変わっていないが。
「どうしたんだよ?」
「最近ずぅっと離れ離れだったから……ぎゅっとして……?」
「……ッ!」
何だこの可愛い生物は。
俺の嫁だ。
俺はほぼノータイムでアクアを抱きしめた。
力を込め過ぎると折れてしまいそうなぐらいに細いその身体を。
というか子供をほったらかしにして俺たちは何をしてるんだ。
どうせ過保護なルシファーや子供好きなレヴィア辺りが面倒を見てくれているだろうが、親である俺たちが面倒を見なくてどうする。
「……りゅーと……、好き」
アクアの甘えきった声にゴクリと生唾を吞み下す。
ちょっとだけなら……、ちょっとだけなら子供達も許してくれるのではないだろうか?
そもそも何故俺は我慢しているのだろうか。この女は俺の嫁なのだ。我慢などする必要はない。
いや、確かに相手の気持ちを尊重する必要はある。しかし、今のアクアは完全にウェルカムだろう。ならば我慢する必要はない。うん、全く無い。
この三段論法にはどこにも隙はない。これが三段論法では無いと言う意見もあるがそれは却下する。
さぁ、論破出来るものならやってみろ。
よし、我慢やめた。
「俺も大好きだぞっ」
取り敢えず抱きしめたままアクアの豊満な胸を揉みしだく。
「あっ……んんっ……」
理性の軛がどこかへ行ってしまった。
すぐさま俺はアクアの首筋にキスをしながらイケナイところへも手を伸ばし……、
「くおら」
「痛い」
リーシャにペシッ!と頭を叩かれた。
「自重しな。ここをどこだと思ってんのよ。公衆の面前でしかも屋外よ?」
「青姦上等!」
「黙れ。酔ってるわね。しかもどうしようもないほど」
「りゅーと……が、したいなら……いいよ?」
「ほら、アクアもこう言ってるし」
「2人とも黙りな。取り敢えず落ち着きなさい」
何を言っているんだこいつは。俺の邪魔をするんじゃない。
しかしよく見たらリーシャもおっぱい大きいな。揉んでやろうか。
「揉んだら殺すからね」
「はい」
俺はワキワキと動かしていた手を止めて真面目な声を出した。
底冷えするような冷たい声だった。リーシャは昔から怒らせると怖いのだ。
「りゅー……と……、ん……」
「もぅ、アクアも下戸じゃないけどこれはあんまり飲ませないほうがいいわね。無防備すぎるわ」
「絶対に俺がいないところでは飲ませないぞ」
こんなに可愛いアクアを他の男に見せてたまるか。
「フハハハハハ!はがはっは!はがぁっ!イデデ……、ヴィシャスよ!懐かしいな!こうして酒を飲むのは!」
「本当に久しぶりである。昔を思い出す」
ジャードは顎が外れるのも構わず大笑いしている。
やはり昔は仲が良かったらしい。
「ところでリュートよ!レヴィアを妻に娶らんか⁉︎お前は見込みがあるからやっても良いぞ!」
「あー、いらんいらん。俺もう結婚してるし。それに大体な、今時本人の意思を無視するのは流行らねえよ」
「え、私は構わないけど?アクアちゃんと一緒に居られるし!ジンとエマとアルバと一緒に居られるし!」
俺とジャードの会話を聞きつけたレヴィアがこちらへやってきた。
レヴィアがエマをルシファーがジンとアルバを抱いている。
「悪いが結構だ。それに、アルバは俺の子じゃねえ」
「ちぇー、まぁいいけど」
「ですよねー、リュートさん驚くほどにアクアさんにしか興味無いですからねー」
祐奈が言う。
祐奈は全く飲んで居ないのでシラフだ。
「俺のこと好きになってくれる奴なんてアクアぐらいしか居ねえよ。この物好きめ」
「んん……りゅー……と……」
すっかり眠ってしまったアクアのサラサラした髪を撫でる。
可愛すぎか。
「私はリュートさんのこと好きですよ?」
「はいはい、俺もお前のこと好きだぞ」
「もう、本当に……リュートさんは……」
「何か言ったか?」
祐奈が何か言って居たが小声すぎてよく聞こえなかった。
「ならばリュート、我の娘はどうであるか?」
「アンタの娘っていくつだよ?」
「もうすぐ10歳である」
「小さいわ!」
カレンと対して歳変わらねえじゃねえか。そんなガキと結婚できるか。
「カイリ!マイル!お前達もこちらへ来い!酌をせよ!」
「はいはい、人使いの荒い人ですね……」
「良いですよ〜」
呼ばれて2人がこちらへやってきた。
これだけ飲んでもまだ飲むらしい。
トポトポと2人が俺とジャードに酌をする。
どうやら俺も飲まねばならないらしい。
「ちょっと、体壊すよ?」
「俺の体が壊れるか!限界まで飲んでやるぜ!」
「フハハハ!その意気やよし!フハハハハハ!はがぁっ」
顎を止めて笑っていたのに……最後まで頑張って欲しかった。
もうテンションがおかしくなっている俺たちは誰に止められようともこの酒瓶をすべてからにするまで止まらない。いや、止まれないのだ。
「うおおおお!」
俺は全くその必要もないのに叫びながら酒を一気に煽る。
飲みすぎて喉が灼けつくようだ。
「ぶはぁっ!良い飲みっぷりだ!もっとつげい!」
「はぁ……、大丈夫なのですか?二日酔いで明日起きられませんよ?」
「余は二日酔いになどならぬ!」
「俺もだ!」
適当なこと言いながらさらに飲む。
リーシャ達はすでに止める気も失せたようで何も言わない。
ヴィシャスは理性的な大人な上、王様としての自覚を持ち合わせているので二日酔いになるような分量は飲まない。
その為こんなにバカみたいな量の酒をガブガブ飲んでいるのは俺とジャードだけだ。
もう人としてどうかと思うレベル。
「まだまだぁ……!」
流石に俺はぶっ倒れた。
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そして次の日、
案の定二日酔いで頭が割れそうだった。
私も飲みすぎたことがあります。酒にはかなりつよいつもりだったので調子に乗りました。
それ以来お酒は自重するようになりました。二日酔いの時の気分の悪さは異常。