釣りの釣果は
「リーシャ、ちょっと釣りに行ってくる」
「分かった。ご飯できたら『音信』するわ」
「おう、悪いな」
「あー!私も行きます!」
祐奈が作業をそっちのけにしてこちらへと首を出して来た。
「お前は皮剥いてろ」
「え〜」
「はいはい、ユーナはコレの皮剥いてくれる?」
「はーい」
リーシャに渡された玉ねぎのような食材の皮むきに駆り出される祐奈。
「あ、子供は?」
「釣りしながらでも面倒ぐらい見れるさ」
「まぁ、ヴィシャスさんやジャードさんもいるし大丈夫か」
「フハハハ!任せよ!」
顎を抑えながらジャードが請け合う。
まぁ、特に危険はないだろう。
「魔王様、お供を……」
「いらんいらん、釣りに行くだけだから」
「しかし!」
ルシファーが食い下がる。
こうなったらこっそり付いてくるだろう。
それなら普通に付いて来てもらったほうがいい。
「あー、じゃあこの三人が危険な目に合わないように見守っといてくれ。一応俺が見とくけど……監視の目は多いに越したことはないしな」
「はっ!」
そしてルシファーがその場から消えた。
何故消える。普通に付いてこれば良いものを。
『マスター、私も行く』
「お前は頼むからここにいろ!」
付いてこようとするデウスエクス・マキナをその場に置いて俺たちは釣りに向かった。
正直行って体の所々から煙を吐き出している機械を連れて行く気にはならない。
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「フム、ここにするのである」
そう言ってヴィシャスは川べりに腰かけた。
釣り道具といっても前世に比べると非常に簡素なものだ。
というか、完全に『ボロのつりざお』である。
木の棒に糸がひっついており、糸の先に餌がくっついている。
「場所の良し悪しがわかるの?おじさま」
「フム、適当である。釣れる時はどこでも釣れるのである。連れない時はどこでやっても同じである」
「成る程なぁ」
取り敢えず川べりは危ないので少し離れた場所に布をレジャーシートのように敷いておく。
バイタリティに溢れる子供達がどこかへ行かないようにしっかりと見張りをしておかねばならない。
「リュートさん餌つけてー」
「自分でつけろよ面倒臭い」
「だって、手が汚れるしー」
「ぶっ飛ばすぞお前」
それぐらい自分でやれ。俺は忙しいんだ。
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「全く釣れんではないか!」
開始2分程でジャードが文句を言いだす。
もうちょい我慢しろよ。
「釣りとは忍耐が必要なのである。お主の性格では相性が悪かったのであるかな?」
「だろうな。陸のおっさんは我慢出来なさそうだ」
俺はこう見えてぼんやりと川を眺めるだけでも良い。
釣れなくてもこうしてぼーっと出来るのは良いことだ。
子供の面倒は一応俺が見ている。
ジンは何だか大人しくしてくれているのでエマとアルバを膝に乗せての釣りだ。
ジンは一応ルシファーが相手をしている。
「エマちゃーん、レヴィお姉ちゃんですよ〜」
「ねーたん?」
「そう!お姉ちゃん!」
「何だか祐奈が増えたみたいだ……」
釣りそっちのけでエマと戯れ始めるレヴィア。
本当に祐奈と思考回路が似ていると思う。実は前からの知り合いなんじゃ無いだろうな?
「ぬぅおおおおお!釣れぬぅ!全く釣れぬぞぉぉ!」
「フム、10匹目である」
「何で二、三分しか経ってないのにそんなに釣れてるんだ⁉︎」
「入れ食いである」
何だこのトリ頭野郎。何でこんなに釣れるんだ?
かくいう俺もジャード同様全く釣れない。
「アルバ、持ってみるか?」
「ん」
そう言うとアルバが俺の手元に手をやって軽く力を込める。
俺が支えてやらないと竿が水没してしまうのでしっかりと支えておく。
レヴィアは完全に竿を地面に置いてエマと遊び始めた。まぁ釣りってのは好みがあるからな。
「お、あ!」
「ん?」
アルバが感嘆の声を上げる。
ピクピクと竿の先が動いている。当たりだ。
「よし、任せとけアルバ!」
俺がグイッと竿を引っ張る。
しかし、向こうもかなりの力だ。これは大物だぞ。
「おらぁぁぁぁっ!」
ザバァッ!と言う音とともに出てきたのは……、
靴だった。
「そんなベタな……」
「ブッ……!プククク……あはははは!お、おらぁぁぁぁっ!って言ってたのに……ぷっ……!フルフッ……ゲホゲホゲホ……!」
「わ、笑うな!」
レヴィアが笑い過ぎてむせ返っていた。
「ぬぅぁぁぁぁ!全然釣れぬではないか!もう良い!余は帰る!」
「もうちょい我慢しろよ……」
「まぁそう言うな。彼奴はすぐに成果を求める奴なのである。放っておくのである」
付き合いの長いヴィシャスが言うのだからまぁいいが。
正直言ってもう少し釣りたいところなのだが、レヴィアはそもそも釣り糸を一度もたらしてないし、俺は靴しか釣ってない。
「まぁ気長に待つことである。あ、引いたのである」
「またかよ⁉︎」
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釣りを開始してから大体3時間ほどが経過した。
完全に飽きたのかそれとも疲れたのか子供三人とレヴィアは眠ってしまっていた。ジャードに至ってはとっくの昔に帰った。
ルシファーは周囲に気を配っている。
俺はあれから小さな川魚を数匹釣っただけ。ヴィシャスは5分に約10匹というハイペースで釣り続けた。
よくそんなに魚がいたものだ。
『リュート、ご飯できたから帰ってきな』
「おう、分かった」
その時俺の元へとリーシャから『音信』が飛んで来た。
「おっさん、帰ろうぜー。飯が出来たってよ」
「フム、了解したのである。行こうか」
そう言ってヴィシャスは泰然と腰を上げた。
勿論後ろで寝ているガキ4人を起こさねばならないだろう。
「あと五分〜」
「いや、子供三人は抱いて行くとしてだな、お前は起きろ」
遅刻する直前の学生のようなことを言い始めたレヴィアの頭をペシペシと叩いて起こす。
「もうちょい……」
「いい加減にしろ」
俺のウンザリした声と共にレヴィアがゆっくりと起き上がった。
「ん〜、よく寝た〜〜」
「お姫様が人前で寝るのはいいのかよ?はしたないとか言われないか?」
「あっ」
レヴィアが完全にアウトな声を出した。
やっぱダメなのかよ。
確かにあの場にはジャードがいなかった。気が抜けてしまったのだろう。お姫様ってのは常に気張ってるものなのだろう。
レヴィアが本当に常に気を使っているかは甚だ疑問だが。
ヴィシャスがジト目を向けていたような気がしたがあれは気のせいじゃなかったのか。
「レヴィア。ジャードには黙っておいてやるのである」
「ありがとうおじさまぁ!」
「さてと、戻るか。子供も寝ちまったし、俺も任務完了だろ」
「で、あるな」
戻ったらどんな料理が出来上がっているのだろうか。
楽しみだ。
戦闘シーンの描写は難しいので当分書きたくない。と言いつつもまた性懲りも無く書くのだろう、と自己分析