炊き出し
「リュート……!」
「ア、アクア様!」
俺が城へと戻るとルシファーの制止を振り切ってアクアが俺の胸へと飛び込んできた。
「アクア……。心配かけてすまなかったな」
「……怪我してない?」
「おぅ、この通りだ」
俺はおどけて両腕を掲げる。
俺の体は再生能力のおかげで傷ひとつない。
普通の人間なら死ぬほどの怪我をしたなんて口が裂けても言えない。
しかし、俺のそんな思惑を察しのいい嫁は看破していた。
「……大嘘」
「うっ……」
何故バレるし。
「……どうせまた大怪我したんでしょ」
「悪い。その通りだ……。お前には何もかもバレてんのか?」
「……そう。全部お見通し」
「こりゃ参った」
俺は軽口を叩きながらアクアの肩を軽く叩いた。
「俺は怪我しても死なねえって知ってるだろ?」
「それとこれとは別」
「今度から出来るだけ怪我しないようにするから。許せ」
「……出来るだけって……。どうせ出来ないんでしょ?知ってるもん」
「うーん……。そんな気も……する……な。うん」
俺の返事は煮え切らないものだった。
どうせまた大怪我するというアクアの意見には自分ながらも大賛成だ。
いつかは手痛いしっぺ返しを食らうかもしれない。
「リュート様!」
「ぱあぱー」
「るしはー!るしはー!」
「うぅぅ……ふぇぁ」
ルシファーが3人の子供を抱えてこちらへ走ってきた。
どうやらアクアに押し付けられていたらしい。なんだか保父さんみたいだ。
ジンは俺を呼び、手を伸ばして。
エマはルシファーの名前を呼びながらルシファーの頭をビシビシと叩いていた。
アルバは横で2人の子供が騒がしくしているのでなんだか泣きそうだ。
「ジン、エマ、アルバ」
俺は3人を抱きしめた。
そう言えばアルバの顔をマジマジと見るのは久し振りだ。
本当にジルによく似てやがる。
「あうっ」
ぺちっ、と俺の頰へと手をやった。本当にジルによく似てやがる。
そう言えばメイの特徴であるネコミミや赤髪を受け継いでいない事をメイが嘆いていたな。
というかアルバはまるっきりミニチュアのジルだ。
「みんなが無事で良かったですよー」
「ユーナも、ありがとね。リュートを守ってくれて」
「いえいえ〜当然のことをしたまでですよぉ〜」
「調子に乗るな」
「あうっ」
ニヤニヤ顔がニンマリ顔になって来たのでしっかりと祐奈の脳天にチョップを決めておく。
「なんですかっ、あんなに褒めてくれたのにっ!さっきはあんなにも激しく……」
「やめろ。なんだその言い方」
あんなにも激しく……って文句は誤解されるときの常套句だからな。
頼むからやめてくれ。
「リュート。無事……よね?」
「おぅ、お前にも心配かけたな」
「そうよ。自重してくれる?」
「無理」
リーシャはいつものように軽い調子で俺の肩口をビシッ!と叩いた。
少し痛かったが文句は言わない。心配させてしまったのだからこれぐらいは甘んじて受けよう。
「アンタは昔っから無鉄砲で……、保護者の身にもなってくれる?」
「誰が保護者か」
「あら、ご挨拶ね。森の中で行き倒れていた8歳の子供拾ってあげたのはどこの誰かしら?」
「はいはい、リーシャさんですよ。ありがとうございましたね」
俺は投げやりに礼を言う。
あの時は狼に全身を食われまくって自分の体に絶望していたのだ。
その時に目の前に現れたリーシャはまるで女神のようだった。
ついでに触った胸の感触も忘れられないな。あの時は何をしてもだいたい許された。
しかし、相変わらずの爆乳だ。エルフにしては珍しく。
たまには昔に戻りたいもんだな。いやぁ、眼福眼福。
「……リュート。リーシャを見る目がエッチ……」
「正直すまんかった」
悪気はないんだ。男ならば仕方がないことなんだ。
俺は妻一筋だ、信じてくれ。
と、冗談は置いておいて、先ずは俺と祐奈のせいで機嫌を損ねてしまったミドのご機嫌とりだ。
あの女、ヘソ曲げすぎて俺と顔も合わせようとしない。
「さてと、ミドのご機嫌とりも兼ねてなんか美味いものでも食うか」
「それ、余の奢りではないのか?」
当たり前だろうが。俺は金も持ってないのに。
やはり持つべきものは金持ちの知り合いだ。
「ここは王の甲斐症の見せ所であるぞ」
「そうよ?パパ」
レヴィアとヴィシャスが口を揃えて言う。
「ぬぅ、そう言われては王たるもの引き下がれぬ!ロウルよ!」
「はっ」
ジャードの声と共にサッと現れるロウル。
ルシファーみたいだな。ルシファーの方が早いけど。
「今すぐ料理人に大量の料理を作るよう言いつけよ!」
「料理人は避難しておりますので、現在城にはおりません」
「ぬぅあにぃぃぃ!」
オウマイガァ!といった様子で頭を抱えるジャード。
そりゃあ仕方がないが、どうしようか。
と、その時カイリが一つの提案をした。
「じゃあこの場のメンツで作りますか」
「だね〜。でもカイリって料理出来な……むぐっ」
「出来ますとも!私だって成長してるんですから!だからマイルは余計なことを言わないでくださいお願いします!」
なんだか料理を作ることになった。
俺の記憶が正しければカイリって生活力皆無の戦闘能力全振り女だったような気がするんだが……。
「……私も手伝う」
「そう言うことなら私も腕を振るわないとね♪」
「皮剥きなら任せてください!」
ウチの女三人衆が進みでる。
祐奈よ、『皮剥きなら』って言うのは成人した女として良いのか?お前は。
いや、お前が良いのなら俺も構わないんだが……。
「私も皮剥きぐらいできます」
「お願いだからカイリはそこで待ってて〜?美味しいの作るから〜」
「私が手伝うと不味くなると言うのですか!」
「いや、カイリが手伝うと不味くなるっていうか〜、食べられないっていうか〜」
マイルは必死でカイリを止めている。
どうやら壊滅的に料理が出来ないらしい。
まぁ、放っておいても良いだろう。リーシャとアクアとマイルの料理の腕は俺の舌が太鼓判を押している。
祐奈とカイリは……うん、頑張ってくれ。
「じゃ、頼んだ」
「こら」
「ぐぇっ」
俺が踵を返して子供を抱き上げるとリーシャに襟首を掴まれる。
なんだかケツに爆竹突っ込まれたカエルの様な声が出た。
「何だよ……」
「あんたも手伝いな。折角だからお城のお庭で食べましょう。頑張って戦ってくれた兵隊さん達にも作ってあげなくちゃ」
「尚更料理人に任せたほうがいいだろ……」
お人好しここに極まれりだな。そんな面倒なこと使用人に任せればいいのに。
炊き出しでもやるつもりかよ。
「何作るんだ?豚汁でもやんのか?」
この世界に豚汁があるのか知らんがな。
「豚汁ですか?豚汁なら得意ですよ!」
祐奈が調子よく適当なことを口走る。
「嘘こけお前、芋の皮剥きしかできねえだろ」
「玉ねぎもできますー!」
「皮剥きを否定して欲しかった」
本当に皮剥きしかできないんじゃないだろうな?
そんな俺たちの声を聞きつけたのか兵達が傷ついた体を引きずってこちらにやって来た。
食う気満々である。
「しゃあねぇな……。じゃあ城からデッカい調理器具を……」
「お持ちしました」
「仕事早すぎィ!」
俺の思考を先回りした様にルシファーが大量の巨大調理器具を持って来ていた。
更には大量の食器もある。どうやら城の台所からパクって来たらしい。
「じゃあ俺は何をすれば良いんだ?」
「おっきいテーブルでも用意してくれるかしら?」
「おう、任せ……」
「テーブルならコレで良いか⁉︎」
「で、あるか⁉︎」
「…………」
ノリノリの陸王と空王が巨大な木造テーブルを自作していた。
何この置いてけぼり感。
「じゃあ……うーん、でもあんたの料理はねぇ……男らしすぎるって言うかダイナミックと言うか……」
「素直に役立たずと言え」
「子供がうるさくしない様に相手しといてくれる?」
「任せろ」
それならば……、まぁ、大得意と言うわけではないが、好きな事だからな。
俺は二歳児の自分の双子と一歳児の友人の子供に向けて変顔をしてみた。
「どーだ?」
「きゃはははは!」
エマが俺の顔を指差して笑っている。
そんなに面白かったかな。
しかし、ジンとアルバは微動だにしない。
「ジン、アルバ。面白くなかったか?」
コクリと頷くジン。
詰まらなかったらしい。
アルバは俺を無視してエマの髪の毛をいじり始めた。まぁ一歳児だしな。
「ねぇ、どれぐらい入れるのかな」
「さぁ?適当でいいでしょ。こんなのアバウトでいいのよ」
「……これくらい……、かな」
任せて大丈夫……だよな?
料理できる奴は分量はかなりアバウトでやるらしいが……、本当か?
城の食料庫から調達して来たのか大量の食材を大型の鍋にぶち込む。
祐奈は包丁を『神聖勇剣』状態に移行させ、食材の皮だけ切り裂くという曲芸を行なっている。
普通に皮むくよりはるかに早い。というより目にも止まらない速さだ。
そして料理上手のアクア、リーシャ、マイルの調理の手際は驚くほどに良い。
焼肉しか作れない俺とは大違いだ。あれは調理と呼ぶのなら、の話だが。
「フハハハハ!お主の妻は良妻だな!料理が出来るはな!」
顎を抑えながらジャードとヴィシャスとレヴィアがこちらへやって来た。
「おっさんとこは出来ねえのか」
「余の妻は温室育ちの貴族の娘だからな!余が愛しておればそれで良いのだ!フハハハハ!はがぁっ」
「いい加減にするのである、ジャード。所でレヴィアよ。お主は料理はせぬのであるか?」
「嫌ですわおじさま。私が出来るわけないじゃないですか。オホホ」
「お前目上の人にはそう言うキャラなのか」
ヴィシャスにはおじさまと言う呼称が割とよく似合う。
「リュートさんは出来るの?」
「焼肉なら出来る」
「それくらい私も出来るわよ!」
そう言えばアクア達の話ではウサギ焼きを作ったと言っていたな。
まぁ、焼肉なんて誰にでも出来るよな。
「ふむ、香ばしい匂いが漂って来たのである」
「フハハハハハ!楽しみだな!庶民の料理というものにも興味が尽きんぞ!」
「庶民の料理とはお主が戦場でよく食っている簡素な料理であるぞ。お主は普段から食しているのである」
「なにぃ⁉︎」
知らなかったのかよ。バカだな。
「フム、アレか。アレは嫌いでは無いので良いぞ!」
「あっそ」
興味ねーよ。
「もう少し時間がかかるようであるな。我は酒の肴でも取ってこよう。こう見えて釣りは趣味なのだ」
「付き合うぜ、おっさん」
「ならば余も行こう!釣りなどやった事ないがな!フハハハハハ!はがぁっ」
「じゃあ私も行く!面白そうだし!」
俺、ヴィシャス、ジャード、レヴィアの4人で釣りに行くことになった。
正確には七人か。一応ガキのお守りを任されているので三人の子供も連れて行かねばならない。
(淫夢要素は)ないです。
信じて下さい!何でもしますから!(何でもするとは言っていない)