魔王 リュート・エステリオの旅立ち
ジェイドさんマジかっけえ
---魔王side---
俺とアクアとジェイドの三人は先ず市場に向かった。
「なんで市場?」
「実はな……道中には盗賊が出るんだよ……」
ジェイドは小さく言った。
盗賊が出るのも何か関係があるのか?
「ふんふん、それで?」
「盗賊は基本的に命までは獲りゃあしねぇが、金目のもんがなけりゃ何するか分かんねぇだろ?
だから、安全に見逃して貰うために金目のもんを買っとくんだよ。襲われなかったら向こうで換金できるしな。」
そう言いながらジェイドは宝石商の所へ向かった。
「へぇ……盗賊なんて出るのか……」
「兄ちゃんは見た事ねぇか。この辺は少ねえがな……ちょっと外れまで行くと、うじゃうじゃいやがるんだ」
「それって、魔王城があったから?」
この辺の治安が割と良かったのはやっぱり魔王城が抑止力になってたのかな。
「そりゃあそうだろうなぁ……今思えば、魔王城ありきの治安だったんだなぁ……」
そう言いながらジェイドは宝石を幾つか手に取った。
「でも、なんで宝石にするの?別にお金のままで良いじゃん」
「宝石にすりゃあな、実際の価値より高く見えんだよ……そしたら、奴らは気を良くするって寸法よ。アイツ等はキラキラしたもんが大好きなんだ」
「成る程……考えてるんだね……」
幾つか宝石を見繕ったジェイドは俺たちを振り返り、茶色い短髪の頭をガリガリ掻きながら服屋へ向かった。
「さて、次は嬢ちゃんと兄ちゃんの服だな」
「服?なんで?」
「私……このままでも……良いよ……?」
ジェイドは豪快に笑いながら俺の背中をバシバシ叩いた。
痛い。
「バカだなぁ、兄ちゃんは。そんな格好で行ったら死んじまうぜ?ちゃんとした上着を買わねぇとな。昼間は日光から肌を守ってくれるし、夜は寒さから守ってくれるスグレモノなんだぜ?」
「え……そんな砂漠みたいな……」
「砂漠じゃあねぇけど、割と気候はそんなもんだぞ?しっかり準備しねぇと干からびちまうぞ」
「……旅……コワイ……」
アクアは顔を青白くしてカタカタ震えていた。暑いのとか寒いのが苦手なのか。
俺もアクアも初めての外出なんだ。
これは、俺たち2人で旅に出てたら確実に死んでたな。
ジェイドさん、ありがとう。
俺は長いフード付きのマントを、アクアは外套みたいなやつを買ってもらった。
自分達で金を出そうとしたら「良いんだよ」って笑いながら買ってくれた。やっぱり良い人だ。
「もう食料は買ってあるが……兄ちゃんの分はあるか?なんなら買い足すぜ?」
なんだかんだ言ってジェイドは面倒見が良い。
でもそんな所までお世話になるのも忍びない。
それに、食料はそこそこ持ってるじゃないか。全部保存食だけど。
「ううん、いいよ。保存食しか無いけど量はあるんだ。それに水はいっぱいあるからね」
「水?そんなもん何処にあんだ?」
ジェイドは訝しげに首をかしげる。
そりゃそうだ。俺たちはどう見ても水を持ち歩いてるようには見えないだろう。
「アクア」
俺はニヒルに指ぱっちんした。
「…………?」
アクアさんは訳がわからない御様子。
「いやいやいや、そこは水魔法で水を出せるところを見せるんだよ!何で空気読んでくれないの?俺がタダのイタイ子になってんじゃん!」
「成る程……」
一悶着あったが、アクアが水魔法で水を出して見せた。
ジェイドは目を剥いて驚いた。
「コイツは凄ぇ……嬢ちゃん、その年で魔法を使えんのかい?」
「うん……水魔法は……得意……」
ジェイドは感心しきりだ。
この世界の常識ではこんな小さい子は魔法を使えないのか……。
これから行動を共にするジェイドは良いとしても、他の人には注意しないとな……。
「僕も使えるんだよ?」
「そっか……兄ちゃんと嬢ちゃんは天才兄妹なんだなぁ……」
ジェイドがしみじみ呟く。
「いや〜、それほどでも〜」
某嵐を呼ぶ幼稚園児の真似をしてみたが誰も反応してくれない。悲しい。
クネクネする俺を無視してジェイドは荷物の整理をし始めた。
「俺は商人の子供だから魔法はあんまり得意じゃねぇな。でも、読み書き算数は得意なんだぜ?」
「僕も得意だよ!」
ふふふ、教育の行き届いた日本で育った俺を舐めるなよ……。
「私……算数は……苦手……」
アクアは算数が苦手らしい。この世界の常識がイマイチ分からんが、読み書き出来るだけで大したもんなんじゃないのか?
すふと、ジェイドが笑いながらアクアに声を掛けた。
「嬢ちゃん、算数なら道中にでも教えてやろうか?」
「本当……⁉︎」
アクアが目を輝かせた。俺に出来るのに自分が出来ないのが気に入らないんだろうか。
てかジェイドさんマジカッコ良いな、なんで結婚してないんだろ。
まぁ何にせよ、アクアが算数を覚えてた方が何かと都合が良いだろうな。
微積分なんて出来る必要はないが、計算くらいは出来ないとお使いも頼めない。
俺達はジェイドの荷物整理の手伝いをした。
子供にだって出来る仕事だ。要するに「お手伝い」って感じだな。
そして、最後の荷物を載せ終わった。
「うしっ!準備もできたし、行くか!」
「出発!」
「……おー……」
俺たち一行は勇み足で出発した。
俺とアクアにとってら初めての外の世界だ。
楽しみだなぁ……。
なんだか気分がウキウキしてきたぞ……。
と言うところでジェイドがジロリと俺を見てきた。
「……兄ちゃん、浮かれてんじゃねぇぞ?これは遠足じゃあねぇんだからな?」
「アッハイ」
すいません、ちょっと遠足気分でした。
そんなこんなで俺たちの旅は始まった。
タイトルの前半がやたらと被ってるのでその内改題します。今は考え中