機械兵の侵攻
事態は突然にして急変した。
俺たちが獣人界に滞在してからたった三日後の出来事だった。
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「陸王様!我が国に何やら見慣れぬ敵影が!此方へ向かって高速で接近中です!」
「何、敵影……?」
ジャードは訝しんで小さく声を漏らす。
その時たまたま居合わせていた俺は確信した。
機械人形だと。
「おい、おっさん」
「何だ」
「俺の予想だが、これはほぼ当たりだと思って聞いてくれ……」
「承知した」
「多分向かってきてるのは機械人形だ……」
「成る程、予想はしていたが……早いな」
ジャードはそう言って顎に手を当てた。
しかし、その表情は険しいものではなく、大きな戦を前にしてまるで武者震いでもするかのように口の端を震わせていた。
「フハハハ……、これほどまでに早いとは……。しかし、都合がいいと言えるだろうな?リュートよ」
「あぁ、今ならな」
そう、今なら。
今ならば、戦力過多といっても過言ではないほどの力がこちらの陣営にはある。
三王会議からまだ三日しか経っていないのだ。つまり、まだこのリマ・シャルリアには三人の王が一同に会している。
ジャードは大きく息を吸い込んで叫ぶように近衛兵に言いつけた。
「鳥とカイリを呼んで参れ!そして皆の者!戦闘準備!我が国に入り込もうとしたことを命を以って後悔させてやるがよい!フハハハハハハ!はがぁっ!」
「締まらねえなオイ」
俺は嘆息しながら自室へと向かった。
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部屋に戻るとジンとエマとアルバと遊んでいたのは祐奈だった。
傍らにはアクアとリーシャもいる。
暇になったら俺の部屋に集まるの一体何故なのか問いたい。
「祐奈。仕事だ」
「あれ、びっくりするほど早いですね」
そういって祐奈は面倒臭そうに顔を上げた。
ジンとエマの様子を見ていると結構気に入られているらしい。子供と遊ぶのも祐奈は得意だ。
実はこの勇者、割とこう見えて何でもこなすのだ。生活力が皆無なだけで。
「リュート。気を付けてね……」
「あぁ、アクアも、危ないからここから動くなよ?リーシャは四人を頼む」
「ん、任せなさい!」
それだけ聞くと俺はさっさと踵を返して外へ行こうとした。
「ぱぱー」
「へっ、ジン!ありがとうな、パパ頑張ってくる!」
俺はそういってバタン!と扉を閉めて廊下を走り出した。
それに祐奈も続く。
「正直待ってたんですよ……。アクアさんやメイを酷い目に合わせたって奴らをボッコボコにすることが出来る日をね……」
「あぁ、それに……この国の奴らを危険な目に合わせるわけにはいかねえしな。好都合なことに狙いは俺たちだ。絶対に城の外にはいかせるな!」
「了解です!」
廊下では既に城の中の兵達が慌ただしく走り回っていた。
城内からの迎撃戦だからちゃんと持ち場ってのがあるんだろう。
しかし、今回の敵は普通の兵達では到底敵う相手ではない。ここは王が出張って行くことになるだろう。
「早く王様達のところへ戻りましょう!」
「だな」
するとその時、俺の背後に冷たい風が吹いた。
この風は……。
「魔王様!」
「ルシファーか!」
「はい、私も共に参ります!」
「正直アクア達の安全を最優先して欲しいところだが……」
俺は少し渋面を作る。
ルシファーという最大戦力をそぎ落としてしまってはそもそもの勝利確率が大きく落ち込んでしまう。
「魔王様、アクア様達が城内にいらっしゃるのなら一瞬で移動出来ます。ご心配には及びません。このルシファー、機械人形を相手取りながらでもアクア様達を完璧にお守りしてご覧に入れましょう」
「相変わらず規格外ですねー」
「頼もし過ぎるぜ……。だったらこのままでいいか。ルシファー、もしもの時は俺の事を放ってアクア達を助けろ!いいな⁉︎」
「承知致しました」
ルシファーは頷くと前方に睨みつけるように視線を向けている。
そうこうしているうちに王様達のいる部屋の中に入ろうとしたのだが、
「申し訳ありません!そこを通して頂けますか!」
「お、おぅ」
「へ、な、何ですか?」
中から数人の男達が慌ただしく出ていく。
戦闘準備が着々と整って行くようだ。
俺たちはゆっくりと部屋の中へと入っていった。
「おう、リュートよ!来たか!すぐに戦闘だ!奴らとの兵力差はないといってもよいだろう!後は余達が大将首を取るのみだ!」
「準備早すぎだろ……」
「獣人界は一応軍事国家と言える武闘派の国ですので当然と言えば当然なのですが……。コレには平伏する程の用意の早さです」
ルシファーがすかさず口添えをする。
知識の深いルシファーにしてもジャードは準備が良いようだ。
「今回の大将首であるが……。あの大きなクジラのようなモノであるか……?」
この中で最も鋭い視力を持つヴィシャスが敵影を眺めながら言う。
「クジラ……?アレはクジラと言うには幾分メカメカしいですが……」
「でも形はクジラというよりシャチみたいだね〜」
「そうですねー」
カイリ、マイル、祐奈が3人とも口を揃えていう。
というかお前ら目良いな。
「なぁシャードのおっさん。見えるか?」
「全く見えん!フハハハハハハ!」
ジャードが下顎を抑えながら笑う。
このおっさんだけが常識的な五感をしているのだろうか?
いや、そうではないだろう。このおっさんだって聴覚嗅覚、その他諸々は相当なものだろう。
つまり俺だけが……。
「魔王様。何をお気になされているのです?」
「あ、いや。俺だけなんかダメだなぁって……」
「種族差は如何ともし難いものです。しかし、魔王様は魔族の中では中々規格外の能力をお持ちです。人とは向き不向きがあるもの。いちいちお気になさらずとも良いのです」
「そうかぁ……?まぁ、そうか……。でも祐奈は凄いな。あいつ人族なのに」
「勇者ですからね!私が凄いのは当然ですよ!」
祐奈がドン!と胸を叩いた。
昔は無い胸とか思っていたが今はそうでも無い。
というか、高校生だった頃から比べると今は24歳の大人の女なので随分と大人らしくなったものだ。
「どうしたんですか?私に惚れました?」
「何言ってんだお前」
「ちょ、もうちょい狼狽とかして下さいよ!」
「悪いな。お前なんてガキにしか見えん」
「そんなぁ……」
流石にガキに見える、なんてのは嘘だ。
というか祐奈は俺の事を前世から知っているのでやたらと距離が近いのだ。
どうせ親戚の叔父さんのように扱っているのだろう。距離感が他人のそれでは無い。
「えぇ……、私こう見えても昔は冒険者の人に言い寄られたりしたんですよ……?」
「えぇ!いつ⁉︎どこで⁉︎だれに⁉︎」
「えぇ!めっちゃ食いつく!」
いや、だって気になるし。
「あ、いや……。なんかお前の浮いた話なんて初めて聞くし……。すまん」
「あ、いや、良いんですよ。それに振りましたし」
「勿体ねぇ……」
「まぁ、その時は好きな人がいたので……」
「へぇ、今は居ねえのか?」
「そうですね。居なくなりましたね」
「ふーん」
「もう興味なくしたんですか!」
祐奈がそう言ってまた剣をちゃきちゃきと鳴らす。
祐奈はどうやら貧乏ゆすりのように剣を揺するのがクセのようだ。
「おい!奴らが来たぞ!無駄話は終わりだ!」
「お、おう!」
「は、はいっ!」
戦闘直前だというのにすっかり無駄話に明け暮れて居た俺たちはなんとか居住まいを正しすのだった。
なんか短いし遅れるしで申し訳ない。