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転生魔王の異世界征服  作者: 星川 佑太郎
十章 獣人界編 其の二
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ウサギの肉

予告もなく一週間もお待たせして本当に申し訳ありませんでした


次の日。


アクア達の目が覚めた時、昨日助けた女の子は居なくなっていた。

服を布団がわりにして寝かせていたのだが、その服だけを残して忽然と姿を消していた。


「あれ……?」

「ま、私達は今の所追われてる身だし……。仕方ないわ」


大方逃げてしまったのだろう。リーシャはそう当たりをつけていたのであまり気にしていなかった。

自分達は追われている身で、捕まったら即死刑なのだ。そんな奴らと一緒にいる義理はないだろう。


助けた時に意識を失っていた女の子がその様な情報を仕入れてくるはずもないのだが、リーシャはそこまで頭が回っていなかった。

自分達が依然として危険な状況である事は変わらないからだ。

アクアはと言えば、別に見返りが欲しくて助けたわけでは無いので気にしていない様子だ。


ここで立ち止まって考え事をしていても仕方がない。さっさとこの街から出て行かなければ命が危ない。

アクアとリーシャはそう思い直し、子供達を振り返った。三人ともよく眠っている。


ぐぎゅる〜。


その時アクアのお腹が小さく音を立てた。

幼少期から変わらず腹の虫の行儀は良く無い。

少し顔を赤くしてアクアが顔を伏せる。男に見られているわけでは無いが恥ずかしいらしい。

リーシャはアクアの肩をポンと叩き、小さく笑いかけた。


「後で何か食べ物探しに行こっか。動物でもいればいいんだけど……」


そう言ってリーシャが思案顔で俯いた時、二人の背後から可愛らしい女の子の声が響いた。


「動物なら捕まえてきたわよ!」


ギョッとして二人が振り向くとそこには昨日助けた獣人族の女の子の姿が。


「昨日は助けてくれてありがとう。おかげで助かったわ」


すっかり元気になった様子の女の子が両手に死んだウサギを持ってニコリと微笑んでいた。

それは猟奇的でもあり何故か絵になる光景だったりした。顔にはしっかりと返り血がついている。せめて拭って欲しかった。


「それは……」

「朝イチで捕まえてきたの。お腹空いてると思ってね」

「あ、ありがと……」


ニッコリと笑いながら女の子は手に持ったウサギを差し出した。

アクアとリーシャは呆然として言葉も出ない。

昨日はあんなにも辛そうにして伏せっていたと言うのに既にケロッとした様子で狩りまでしてきたらしい。獣人族としてもかなりのタフネスだ。


「私はレヴィア・シャルリア。昨日は死ぬかと思ったわ。重ね重ねお礼を言うわ。本当にありがとう!」


レヴィアは見たところアクアと殆ど年は変わらない。

せいぜい16、7歳と言ったところだろうか。

頭から生えている猫耳といい、とてもメイと似ている。

髪の色は長めの金髪で切れ長の双眸がその意思の強さを滲ませている。


「……私はアクア……。この子達はジンとエマとアルバ」

「あ、私はリーシャ。よろしくね」

「アクアとリーシャね!よろしく!」


軽く挨拶を済ませるとレヴィアはその場に座り込んでウサギを解体し始めた。

かなり手馴れている様子である。


「ところで二人はなんでこんな所にいるのよ?見た所獣人族じゃないし……。観光?」

「うーん、色々あってね……」

「……もしかして……、不法侵入?」


ジトッと視線をリーシャに向けながらもレヴィアはウサギを解体する手を止めない。


「違っ……!いや、そうなんだけど……。ちょっと説明させて⁉︎」

「ああ、焦らなくていいわよ。恩人を売るような真似はしないわ」


どうやら下処理が終わったらしく、木を集めてアーチ状に木を組んだ。


「あ、火お願いしていいかしら。私どうも魔法は苦手でね」

「じゃあ、私が……」


アクアがレヴィアの要望に応え、軽い炎魔法で火をつける。

アクアは水魔法が得意だが、他の魔法も一通り使える。炎魔法は生活にとても便利なので必要に迫られて習得したのだ。


ボッ!


アクアの詠唱した炎魔法によってレヴィアの組んだ薪が一瞬にして赤々と炎を上げた。

リュートが初めて使った魔法である『炎弾(ファイアボール)』だ。


どうやらそのまま焼きらしく、無常にも木の先を爪で研いで尖らせた後、ウサギの腹部に躊躇なく突き刺した。血抜きが済んでいる様で血はほとんど出ない。

そして火の中に放り込む。


「いい感じになったら出しといて。じゃあ私は水汲んでくるわ!」

「あ、水なら魔法で出せるからいいわよ」


調子を取り戻したのかリーシャが普段のように余裕を滲ませる態度で言った。


「それは助かるわ!じゃあもうご飯の時間ね!でも、私赤ん坊の世話なんてしたことないから何食べさせればいいか分からないわ。どうしよ……」

「この子達なら同じものを食べて大丈夫……。アルバは……ちょっと無理かな……。そろそろ食べてもいいのかな……」


魔族の子供ならアクアにも勝手がわかるのだが、生憎竜人族であるアルバの事は細かいところまでは分からない。

まだアルバは生まれて半年も経っていない。普通に考えればまだミルクで育つ年だ。


「あ、竜人族の子供は歯と顎の発達が早いからそろそろ普通に食べても大丈夫よ。一応メイと一緒にアルバの世話はしてたしね」


と、リーシャが太鼓判を押した。


「それならこのままで問題ないわね!」


レヴィアはフフンと笑いながら火にかけているウサギの火加減を調節し始める。

レヴィアは高貴で絢爛豪華な服装をしているわりに手慣れた手つきで料理を開始する。


「レヴィアはどうして森の中にいたの?ちょっと庶民には見えないけど……」

「あー、実はパパと喧嘩してね……。家出同然に飛び出してきたの。でも森で魔物に襲われてね……」


と、頰を掻きながら応えるレヴィア。

レヴィアの話によるとどうやら実家のお屋敷はとても厳しく、勝手な外出は許されていないらしい。

しかし、レヴィアは森に行くのが好きだったのでそれを無視して勝手に屋敷を出歩いていた。

それがバレて怒られたのだが、あまりに説教が長くてレヴィアが逆ギレし、父親を散々罵倒した後屋敷を飛び出してきたらしい。

そして森で魔物に襲われ、撃退したところを雨に降られ、お腹が空いていたこともあって行き倒れていたらしい。


「レヴィア……。それって、お父さん心配してるんじゃない……?」

「そうね。でも心配させてやればいいのよ。あんな分からず屋!」


どうやらレヴィアは未だに父に対してご立腹の様子だ。

レヴィアは話をしながらもテキパキと料理を作り上げ、大きな葉の上に均等に切られたウサギの肉を並べた。


「ハイ出来上がり!どう?こう見えて料理は得意なのよ!」

「……美味しそうな匂い……。頂きます」


アクアは喉を鳴らしながら肉を頬張った。

こういう所は母親になっても子供の頃と変わらない。

お腹が空いているときのアクアは成長を感じさせない一面見せることが多いのだ。

後ろで眠っている子供もガン無視である。


「いやー、我ながらうまく焼けたわ!私って天才かも!」

「いい焼き加減ね。慣れてるの?」

「森にはよく来るから当然ね!屋敷では影で粗暴とか野蛮とか言われるけど知ったこっちゃないわ!これが私だもの!」


そう言いながらムシャムシャと肉を頬張るレヴィア。

このままではなくなってしまうのでリーシャも急いで肉を口に入れる。


「わっ、美味し……!」


ウサギの肉なんて初めて食べるがこれがなかなか柔らかくて美味しかった。


「あれ、リーシャってエルフじゃ無いの?」


エルフは菜食主義者ばかりの種族だ。

耳が長いリーシャももちろんエルフの血は混ざっている。

しかし、エルフは肉が食べられないわけでは無い。食べれるけど食べないのだ。

だから育ちが魔界のリーシャは菜食主義者としての習慣が身についていないので平気で肉を食うのだ。


その旨をリーシャがザッと説明するとレヴィアは両の目を見開いて驚いてみせた。


「嘘っ!じゃあリーシャは魔族の血が入ってるの?ヘェ〜、ハーフって初めて見たわ!」


と、どうやら何故か喜んでいる。

レヴィアは勝手に森を出歩くことはあるが、街からは一度も出たことがないので外のことに関しては殆ど知識がないというのだ。


「じゃあ人族とかも見たこと無いの?」

「うん。妖精族もエルフしか見たこと無いわ。魔界と竜人界はお隣だから流石に見たことあるけど……」


相当な箱入り娘のようだ。

リーシャは装飾品や服装からかなりの上流階級の娘である事は当たりをつけていたのだが、これもっていよいよ立場が怪しくなってきた。

リーシャの予想が正しければ相当な立場の人間である。


と、その時、森の奥から野太い大きな声が響き渡ってきた。


「レェェェェヴィアァァァァァァァァ‼︎」


ゴォォォッ!と一陣の風が吹くほどの轟音怒号。

あまりの声圧に風が吹き荒れ、木々が戦慄く。


そして一拍遅れてドドドド‼︎と地響きが。


「げ……!」


背後を振り返りながらレヴィアが嫌そうに声を漏らした。


「パパ……?」


リーシャは修羅場の予感を察知して早くもこの場から逃げ出したくなった。

アクアは気にせずウサギ肉を頬張っている。身に危険が迫っているという事実を認識しているのだろうか?


その時、バキバキと木々を折る音を立てながら一人の獣人族の男が姿を現した。


背丈は三メートル近くもある巨漢だ。

長いタテガミがツンツンと逆立っており、眉と眉の間には大きな亀裂が。眉間によっているシワが亀裂に見えるとは一体どういう事なのか。

その目は爛々と光っており、目の前にいるリーシャを射殺すような勢いだ。

口元にはぎらりと鋭い牙が並んでおり、どんなものでもこれで噛み砕けるだろう。

体の殆どが戦闘に特化した形態になっている。百獣の王、ライオンの獣人。

それが目の前にいる男だった。


「パパ……」

「レヴィア……」


二人は睨み合う。


張り詰めた雰囲気はまるで冷気のように周囲に伝搬し、まるで時が止まったかのように錯覚する。


そして、男が動いた。


「レヴィアァァァ!けっ、怪我はないか⁉︎無事か⁉︎」


眉間のシワはそのままに男はおもむろにレヴィアを抱きしめて涙ながらに声を漏らした。


「ちょっと、離れてよ……、暑い!」


どうやらこれが日常の風景のようだ。


二人の様子に安堵したリーシャはその場に声もなくへたり込んだ。

アクアは相変わらずぼーっとして二人の様子を気にも留めずに肉を食った次の野菜を食べる作業に取り掛かっていた。

言い訳は活動報告でしますのでよかったら聞いて下さい。反省はしてます

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