勇者 佐藤祐奈の旅立ち
また勇者回です
祐奈はゆっくりと王の間の扉を開けた。
ギィィィという音を立てながら向こうの景色が見える。
中には見知った顔の大臣や王宮魔法使いなどが何人もいた。
真ん中の玉座には王様っぽい人が鎮座している。
祐奈は打ち合わせ通り跪いて頭を下げた。
正直この姿勢は楽で良い。相手の顔を見なくても良いというのは祐奈的には助かるのだ。
別段コミュ障という訳ではないのだが、流石に相手が知らないおっさんというのならば話は別だ。
禿頭の大臣が進み出て王に呼びかける。
「王よ、この方が此度の勇者様です」
「あ、宜しくお願いします」
真面目な場面っぽかったので挨拶しておいた。
「急な召喚で気苦労も多かろう。面を上げい」
(え〜……)
正直顔を上げたくはなかったが、打ち合わせ通り上げておいた。
「現在、我が国は魔界の国家と戦争状態なのじゃ。それゆえ……(ry」
ちょっとの間真面目に話を聞いていた祐奈だったが、話が長すぎたのか祐奈はボーッとし始めた。
全然話が耳に入っていない。
王はそれに気づいてないのか話し続ける。何故魔族が悪なのかという話に差し掛かっていた。
禿頭の大臣が祐奈の様子に気付いて肘で祐奈を突つく。
祐奈は殆ど意識を手放しかけていたが、大臣のお陰で持ち直した。が、またカクンカクンと頭が船を漕ぎだす。
「シャトー殿……!ここで寝るのは大変マズイですぞ……!」
大臣がこっそり耳打ちしてきたが祐奈にはもう殆ど聞こえていなかった。
王はまだ気づいてない。
「……では魔王の件、頼んだぞ……勇者よ……行って参れ!」
丁度王の長話が終わったらしい。
結局最後まで王は気付かなかったが、祐奈が話を聞いていたのは最初の10分程である。
殆ど寝かかっていた祐奈は慌てて返事をした。
「……くか〜……ハッ!りょ、了解であります!」
「仰せのままに!という打ち合わせでしょう……!」
「お、仰せのままにッ‼︎」
「うむ、其方の健闘を祈っておるぞ」
話が終わったハズなのに退室し辛い。
ここの打ち合わせはどうだったか全く思い出せない。
………………。
「シャトー殿……!もう退室しても良いのですぞ……!」
「あ、そうなの?じゃ、失礼します!」
「はぁ……。王よ、私も失礼致します」
「うむ」
王に対して失礼がないか気が気ではなかった大臣は胃に穴が空きそうな思いだった。
外に出るとナーシャが出待ちしていた。
「ユーナ!お父様とのお話しどうだった?」
「話長すぎて半分以上寝てたかも……」
「あはは、仕方ないよ。お父様話長いのはいつもの事だしね。私もお父様の長話はつい寝ちゃうな〜」
(何だ、ナーシャも寝ちゃうのか……そりゃそうだよね)
王の目の前で居眠りかます奴なんてナーシャと祐奈位しか居ないことを祐奈が知るのはかなり後のことである。
(でも懐かしいな……長話聞いて居眠りなんて……)
祐奈は中学時代の校長先生の長話を思い出していた。あの時もよく居眠りしたものだ。
(明日になったらとうとう出発だ。今日はゆっくり休もう……)
そう思ってベッドに体を投げ出した祐奈だったのだが、夜になるとナーシャが部屋に来たので休むどころでは無かった。
結局夜遅くまでお伽話を聞かせていたせいで、あまり眠れなかった。
(まぁ、ナーシャはお伽話聞納めだもんね……)
---
翌日。
旅立ち当日。
「勇者様!行ってらっしゃいませ!」
「どうか、世界に平和を!」
「勇者様!お気をつけて!」
皆口々に別れの言葉を並べる。
ナーシャもお見送りに来てくれた。
「またね!ユーナ!絶対魔王を倒して帰ってきてね!魔王を倒してなくてもたまには帰ってきてね!」
「勿論!旅先での土産話をもってくるから、楽しみに待ってて」
最後に禿頭の大臣が進み出て言った。
「シャトー殿。貴女は少々危なっかしい点が目立ちますが、その戦闘能力があれば大した問題は起こらないでしょう。ご健闘を祈っておりますぞ」
「どうもありがとうございました。おじさんには色々お世話になっちゃったね」
「全くです。今度会うときは礼儀作法や食事のマナーを叩き込ませて頂きますぞ」
「げげ……それは勘弁……」
禿頭の大臣にはお世話になりっぱなしだ。いつか恩返しがしたいものだ。
「所で、忘れ物など御座いませんか?」
「大丈夫大丈夫!」
「ハンカチや歯ブラシもちゃんと入れましたか?」
「大丈夫だってば」
「何か問題が起こったら人に聞くのですよ。自分を過信してはなりませんよ」
「分かったって言ってんじゃん!あんたは私の母さんか!」
「む……では、お気をつけて……」
「それじゃっ!」
そう言って祐奈は走り出した。
流石は勇者。走るのも速い。
と思ったらすぐ戻ってきた。
「どうしたのです?」
「剣忘れた……」
「何故そのような大事なものを忘れるのですか……」
勇者佐藤祐奈の旅は前途多難であった……。
言い忘れてましたが携帯から投稿しているのでスペースが使いにくく、段落空けが雑です(というかほぼ段落を空けてない)