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転生魔王の異世界征服  作者: 星川 佑太郎
十章 獣人界編 其の二
149/220

リマ・シャルリア

投稿が遅れました


---アクアside---


時は1日前に遡る。


アクアはリーシャと子供達と共に獣人界のカイル村から転送魔法によって空間転移を果たした。


そして、転移によって移動した場所は……。


「一体何者だ!」


生まれてから最もといっても過言ではないほどに運悪く、無断侵入は即死刑の都市であるリマ・シャルリアの内部に、しかもシャルリア軍が駐屯していた森のど真ん中に転移してしまったのだ。


「……え……」


呆然としてアクアは小さく声を漏らす。

何が何だかわからない。


しかし、目の前の男たちはこちらに確かな殺気を向けてくる。どう考えても殺される雰囲気だ。

アクアはそれを一瞬で理解し、子供達をギュッと抱き寄せた。


せっかく機械人形から逃げ果せたというのにこんなところで殺されてなるものか、と。


「……リーシャ……!」

「分かってる……!『煙幕魔法(スクリーン)』!」


ボフン!とその場に大量の煙が発生した。この魔法は煙幕によって相手の視覚と嗅覚を大きく阻害する。

これによって敵と大きく距離を取ることができるはずだ。


「いくよアクア!アルバ貸して!」

「う、うん……!」


リーシャはアルバを、アクアはジンとエマを抱いてその場から離脱した。

2人は死に物狂いで走った。捕まったら殺される。一体どうすればいいのか見当もつかない。


2人は少し走ったところで大きな木のウロにたどり着いてそこで休憩する事にした。

ちょうど雨が降ってきたので雨宿りも兼ねて座り込む。

長時間の移動は子供達にも大きな負担となってしまう。


「ここって……、どこ……?」

「……さっきの奴……獣人族だった……。多分ここは獣人界……。でもどの辺りかまではわからない……」


苦しそうに息を吐きながらアクアは顔を俯かせた。

状況を把握しているのか子供達もぐずらずに大人しくしている。


「アクア、ジンを貸して。今日は一回もはなしてないでしょう?これ以上はアクアが危ないわ」

「ううん……、まだ大丈夫……。それに、今ジンが泣いたらそっちの方が危ないでしょ……?」

「そうかも知れないけど……」


リーシャはそこまで言ったところで黙り込んだ。アクアは結構頑固な所があるので言って聞かない場合は時間を空けた方がいいと分かっているのだ。

本当に危なくなったら奪い取ってでも休ませればいい。

リーシャはそう思いなおしてアルバの額を撫でた。

アルバは両親がいない事に気がついたのか少しずつぐずり始める。


「うぅ……」

「アルバ……。ごめんね……お父さんとお母さんはいないの……」

「うぇぇ……!」

「ごめんね……」


リーシャはアルバを無言で抱きしめることしか出来なかった。


「リーシャ……!ジンが……」

「まぁま……」


その時、ジルが前に機械人形の襲来を予測した時のように少し薄暗くなってきた森の奥を指差していた。


これは何かが来ると言う合図。


既にジンは一度だけだがこの予測を的中させている。警戒するに越したことはないだろう。


ザザザザッ!


そしてその予想は的中した。


まさにジンが茂みを指差した一瞬の後、茂みを揺さぶる音と共に獣人族の男が数人飛び出してきた。


「見つけたぞ!」


数は三人。どうやら手分けしてアクア達を探していたらしい。

敵の数が少なくなったのは僥倖と言えるだろう。しかし、それは不幸中の幸いというだけであって不幸には変わりない。


「しまった……!アクア……!」


そう、ジンの予測からあまりにタイムラグがなさすぎたのだ。

その為、リーシャの挙動が一瞬遅れてしまった。

アクアは両腕が子供を抱いていて塞がっている。普段通りのように高速で魔法を詠唱することが出来ない。


「『流水防壁(スプラッシュバリア)』!」

「はぁっ!」


なんとか巨大な水の防壁を展開したが、敵の鋭い爪が防壁を引き裂き一瞬で破壊されてしまう。

やはり大人の獣人族の膂力は相当なものだ。


しかし、


「うっ……⁉︎」


ガクン、と。


突然目の前の三人の獣人族の男達が地面に倒れ伏した。


「一体……何が起こっている……⁉︎」

「これって……、まさか……ジン⁉︎」

「まぁま……だいじょぶ……?」

「ジン……」


魂喰(ソウルイーター)』。

指定した対象の魔力を強制的に徴収する能力。

しかし、ジンは生まれつきこの能力を使用できる代償として無差別に魔力を奪ってしまうと言う欠点があった。


しかし、明らかにこれは普段とは違う。


陸の獣人族の魔力適正値はこの世界の種族の中で最低である。

にも関わらず獣人族の大人の男を昏倒させると言うことは一滴残らず魔力を奪い取る必要がある。

魔力が全くなければ幾ら魔力適正値が低くても満足に動くこともできない。


しかし、それほどまでの魔力を無差別に奪っていたとすればアクアが無事ですむはずがない。


つまり、ジンはこの一瞬のみに限って意識的に魔力を奪い取ったと言うことである。


「ジン……あなたがやったの……?」

「う〜」

「とにかく!逃げよう!ほらジン、こっちおいで!」


リーシャがジンとアルバを抱えて立ち上がった。


「わ、分かった……」


アクアもすかさずエマを抱いて走り出す。

何故かこの時だけはジンは泣かずに大人しくリーシャに抱かれていた。


---


どれだけの時間が経っただろうか。

二人とも、現在の自分たちの状況が完全には理解できていない。

何故殺されねばならないのか。


しかし、リーシャにはある程度予測がついていた。

リーシャは一人で旅をしていた時にこのように侵入者に対して過剰とも言える防衛反応を見せる都市を1つ知っていたのだ。

しかし、まだ確証はない。余所者であったリーシャはその街には寄り付いていなかったのだ。


「大丈夫?アクア……」

「う、うん……」


リーシャはアクアに声をかけながら上着を背中にかけた。

正直大丈夫とは言えないだろう。

雨の降りしきる中子供を三人連れて女2人での逃避行だ。

アクアは全身が疲労に包まれ、今すぐにでもこの場で眠りたい気分だった。


「ジン……交代する……」

「あ、ありがと……。ふぅ……」


ジルは少しずつだが魔力を奪い取る。

しかし長期的な目で見るとこれも中々バカにならない量の魔力を取られてしまう。


「これ……、祐奈の針。刺したら魔力が回復するから……」


祐奈からたくさん貰っていたジン専用魔力供給用の針を自分たちに使わねばならないほどに切羽詰まった状況であった。


「うん……、いつっ……。あぁ、何だかあったかいね」


リーシャが空に近くなっていた魔力を回復させる。

魔力適正値の高い妖精族であるリーシャは魔力の枯渇は死活問題だ。


「この子達寒いよね……。でもどうしよう……」

「困ったわね……」


決して大雨というわけではない。

しかし小ぶりでも雨は確実に子供達から体温を奪っていく。

傘などという気の利いたものなんて持っているはずもなく、アクア達は雨に濡れないように木のウロに身を隠し続けた。


「お腹空いたね……」

「この子達もずっと何も食べていないわ……。静かにしててくれるのも今だけかも……」

「私……、何か探してくる……」

「でも、危ないわ!」

「……でも、いつまでここにいる事になるか分からない……。ギリギリになって探しにいく方が辛いと思う……」


そう言ってアクアは腰を上げた。

リーシャは止めるべきかと思ったが、アクアの言い分ももっともだったので黙って引き下がるしかなかったのだ。


しかし、アクアが食事を探しにいくことはついぞ無かった。


何故なら、あるものを見つけてしまったからだ。


「リーシャ……、この人……」

「え……?」


アクアは静かに自分たちの座っていた木の裏側を指差した。


「人……?」


リーシャとアクアは黙って顔を見合わせた。

人が倒れていたのだ。

倒れていたのは獣人族の女の子。頭に生えている耳から察するにネコ科の獣人族だ。


しかし、身体中が雨に濡れ、カタカタと小刻みに震えている。意識も殆ど無いようで小さく身を丸めている。


「リーシャ……。この子……」


アクアはそれだけ言うとその女の子を引きずって自分たちの休んでいた木のウロの中に引き入れた。


「アクア……もう……!」


自分たちが危ない状況だと言うのに人助けをするアクアのお人好しな性格にリーシャは嘆息しながらもアクアの手助けをした。


「この子……怪我はしてない……?」

「診てみるわね……。うーん、怪我は無いけど多分風邪を引いてるわ……。長時間雨に打たれたからかも……。魔力が少なくなって危ない状況ね……」

「ん……」


リーシャの言葉を聞くや否やアクアは何の躊躇もなく持っていた魔力回復用の針を女の子の腕に突き刺した。


「ちょ、アクア……!それがなくなったらジンが……!」

「まだいくつか残ってる……。それに、この子は今すぐ使わないと死ぬかもしれない……」


それだけ言うとアクアは女の子の身体を自分の服の切れ端で吹き始めた。


「ごめん、私も手伝うわ」

「ありがと……」


結局アクアとリーシャは食べ物を探しに行かずに夜中の間ずっと女の子の介抱をしていたのだった。

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