天使との協定
回想終わり。ちなみに地球の航空母艦は空を飛びません。イメージは宇宙戦艦ヤマト
どれほどの時間が経っただろうか。
ジルとメイにとっては永遠にも等しい時間が流れていた。
精神は摩耗し、身体はボロボロ。ジルは既に限界を超えていた。
機械は死を恐れない。
まさか死を恐れずに向かって来る兵隊がここまで厄介なものだとは思いもしなかった。
「メイ……。逃げろ……」
「ジル。それ何回目?私、そのお願い事ばっかりは聞けないよ?」
メイも全身傷だらけだ。もう立ってることすら辛いはず。
だが、メイは気丈に立ち、澄ました様子で言葉を返す。
敵は数をいくら減らしても戦意が収まらない。士気が下がらない。
これが普通の人間を相手にした白兵戦ならば大将の首を早急にとって戦闘を速攻で終わらせることが出来るのだが、相手が機械ではそうもいかない。
人間相手の白兵戦でこの戦法が通じるのは大将の首を取られるとその部下達の士気が大きく下降するからだ。
そもそも士気が下がらない機械が相手では全く意味がない。統制が取れなくなるかどうかも疑問なところだ。
どうせ替えの指機官がいるに決まっている。
『強襲機。槍兵機。征ケ』
『了解』
追加投入される機械人形達。
これも見慣れた光景だ。既に絶望する段階は超えた。これをどう対処するか、だが……。
と、ジルが表情を強張らせたその時。
ギュイィィィィン……ズドドドドドォォンッ!!
チャージ音と破砕音。
轟音と共にジルとメイの目の前にいた機械人形達は全員消し飛んだ。
「なぁっ⁉︎」
しかし、驚いている場合ではない。
破壊の余波が2人の元にも迫ってきていたのだ。
「マズイッ!」
ジルはメイを抱えて横っ跳びに近場の木々の中に突っ込んだ。
そして、視線を音の主にやると……、
「殲滅機……」
そこには先程の絶望の具現。殲滅機の姿が。
「ジル!メイ!」
「ア、アギレラ!フェリア!無事だったか!」
少々怪我を負ってはいるが、一応無事な姿のアギレラとフェリアがジルの目の前にいた。
どうやらこの殲滅機はアギレラ達をひたすら追いかけていたようだ。
アギレラが殲滅機の攻撃を誘導して機械人形を一掃したらしい。
「お前、よく逃げられたな……」
「話は後だ!早くみんなの元へ!」
アギレラは少し焦った様子で走り出した。
それも無理もない。殲滅機は既に背後に迫っている。
何度も見ているが、あの全力砲撃を食らってしまうとジル達はひとたまりも無い。
「お、おう!準備は?」
「ほぼ完了している。あとは転送するだけだ!」
アギレラに負ぶられているフェリアにメイが声をかける。
「よ、よかった……無事で。心配したんだよ……?」
「すまない……、カレンは無事か?」
「勿論。今はアクアとリーシャに預けてる」
「すぐに向かうぞ!」
「ああ!」
4人は急いでアクア達の元へ向かう。
しかし、
ギュイィィィ……。
殲滅機はそれを許しはしない。
「来るぞ!避けろぉぉぉッ‼︎」
ズドドドドドドドドドォォッ!
殲滅機による無慈悲な対地砲撃が照射される。
既にカイル村の森は殆ど更地になっていた。
「どぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
なんとか回避する。
しかし、そう何度もかわせるような代物では無い。体力にも限界がある。
「走るしかねえ!ここまで来たんだ、犠牲なんて出して溜まるかぁぁあっ!」
そして、
「あっ!おとーさんとおかーさんだ!おねーさん見て見て!」
「……皆!……早く!」
アクアが叫ぶ。
その時、三度目のチャージ音が。
ギュイィィィィン……。
「嘘だろ……。一発撃つのにタイムラグが少な過ぎる……。あれほどの大魔力砲撃をこんな短時間で何発も……。」
「すぐに転送準備に入る!」
フェリアが魔法陣を展開する。
しかし、既に殲滅機のチャージは完了していた。
フェリアは魔法の予備動作で硬直している。避けられない。
「フェリアァァァッ!」
ドン!と、突き飛ばされるフェリア。
刹那。フェリアはアギレラの普段のようなニヤリとした笑いを見た。
「ア、アギレラ……。お前ッ!」
次の瞬間。フェリアの目の前でアギレラに殲滅機の砲撃が直撃した。
ズドドォォォォォォォッ‼︎
「ア、アギレラァァァァァッ!」
「いやっ……!おとーさぁぁぁぁんっ!」
カレンがアギレラの元へと走り出した。
「バカ!こっちに来るな!」
ジルが叫ぶ。
ジル達を追っているのは何も殲滅機だけでは無い。
普通の機械人形もいるのだ。先程の殲滅機の砲撃で消し飛んだのはほんの一部に過ぎない。
泣きながらアギレラにすがりつくカレンを鈍い光を放つ刃が襲う。
「カ、カレンッ!」
咄嗟にフェリアは自分を盾にしてカレンを庇った。
グサリと剣が肩口に突き刺さる。
「ぐうぅっ!」
しかし、フェリアはギロリと機械人形を睨みつけ、振り絞るように言った。
「貴様……私の娘に何をする……ッ!『瞬燐破裂』ッ!」
フェリアはまるで痛みを感じていないかのように一撃で機械人形を破裂させた。
「ハァッ……!ハァッ……!す、すぐに転送する……!皆、覚悟しておけよ……!」
フェリアが息も絶え絶えに左手を突き出し、魔法陣を明滅させた。
「『転送魔法』!」
そして、次の瞬間。
全員の視界が真っ白に染まった。
---リュートside---
「成る程……。それで、転送した結果バラバラに転送されちまったのか……」
「コンディションが悪かったのでしょう。大方、魔法陣が急造である事、そしてフェリア自身が大きな怪我を負っていたことが原因と考えられます」
ルシファーの言葉が多分事実なのだろう。フェリアと直接接触していたカレンとアギレラが同じ場所に転送されたと言う事だろう。
しかし、その殲滅機とか言う奴の砲撃を食らってもまだ生きてるんだからアギレラのタフネスには感服するばかりだ。
フェリアの怪我も深いが、まだ局所的な分治療はし易いはずだ。
だが、アギレラは……。
「ねぇ、おとーさん……死なないよね……?」
不安そうに俺に問いかけて来るカレンの頭を俺はクシャクシャと普段より強めに撫でた。
「死なねえよ」
俺はカレンが不安がらないように少し意識して柔らかめの表情で笑いかけた。
カレンは泣き腫らした瞳をこちらに向けながらも少し安心したように俺の膝のあたりに体を預けてきた。
一先ず安心したのだろうか。それともただ疲れていただけなのか、カレンは意識を失うように眠ってしまった。
俺はカレンの頭を撫でながらルシファーを振り返る。
「アクア達は無事だろうか……。カレンの話を聞く限りジルとメイは一緒に、そして子供達は全員アクアとリーシャの所にいると思っていいだろう」
「は、仰る通りかと思われます。これからの身の振り方を考えねばなりませんね……」
するとその時、先程までずっと黙っていた妖精王が口を開いた。
「リュートよ。やるべきことがあるのならば戻るが良い。お主らの話の中に出てきたローグとやらの事は頭に入れておこう。しかし、直接的な援助には限界がある。何せ我は一国の王なのだからな」
「悪い、妖精王のおっさん」
俺もここでボーッとしていられない理由が出来てしまった。
メイとジルが一緒にいるのなら2人は特に問題ないだろう。怪我もないらしいしな。
だが、アクア達は心配だ。アクアもリーシャも決して弱くないが流石に自力で歩くのも覚束ない子供を3人も抱えているのだ。何かあってからでは遅い。
「魔王よ。我々はお前達の仲間になるつもりはない。だが、一度だけだ。一度だけお前達の頼みを聞いてやる」
「素直でないな。ガブリエル。力を貸すと言えばいいというのに」
「ええい黙れ黙れ!早く言え!どんな願いでも聞くだけ聞いてやる!」
なにやら昔の様な関係に戻ったらしいルシファーとガブリエルは漫才の様な掛け合いをし始める。
だが、一時的とは言え天使が仲間になるのだ。これを有効に活用しない手はない。
「アクア達の居所を探ってくれ。もし見つけたら俺に教えてくれ。そして何かあったら助けてやってくれ。頼む」
「承知した」
俺の頼みを二つ返事で了承するガブリエル。
「おい、良いのかよ?よくよく考えたらその願い事って3つじゃね?」
「あっ」
ウリエルのツッコミに間抜けな声を出すガブリエル。
こいつポンコツか。バカだな。
「く……、し、しかたがない。天使に二言があってはいけないからな……。その3つの願いは確かに承った。だが、この願いを達成した暁には我々はまた敵同士となる。それを忘れるな」
「おう」
「ではな。さらばだ」
そう言うとガブリエルはウリエルを伴ってその場から消え去った。
「せっかちな奴だ……」
「昔からあんな感じなのか?ルシファー」
「ええ。ほとんど変わっておりません」
「リーダーがあんなんでよく熾天使は大丈夫だったな」
「全くです」
一応ジジイの話ではミカエルを殺したわけではないらしいし、妖精王もぶん殴っただけでラファエルを殺してはいないらしい。
つまり熾天使はまだ誰もかけていないと言うことだ。ま、ルシファーの元同僚が死んだりしなかったと言うことで納得しておこう。
俺は俺の膝枕で眠っているカレンの頭を撫でながら今後の自分たちの身の振り方を考えるのだった。