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転生魔王の異世界征服  作者: 星川 佑太郎
九章 妖精界編
143/220

ジルとメイ


「くっ、ジル!合わせろ!」

「チッ、しゃあねぇな!」


ジルとアギレラは急造のコンビではあるが、それでも流石の戦闘慣れした2人だ。

ぶっつけ本番でも息のあった戦闘を展開しており、効率的に機械人形を破壊している。


補助機(エイダー)白兵機(クローサー)ノ援助ヲ』

了解(アクセプト)


それにしても異常な数だ。

これが一体誰の差し金なのか、それは今のアギレラ達には知る由も無い。


ただ、明日を生きる為に目の前の敵を1人残らず壊す。


そう、それは家族の為に。


2人は確かな闘志を瞳に滾らせ拳を固く握った。


だが、


殲滅機(エクスキューショナー)。攻撃ヲ開始セヨ』

了解(アクセプト)


その時、突如空を黒い影が覆った。


「エクス……?」


ゴゥゥゥン……。


地響きのような音が空から鳴り響く。


「何だありゃあ……⁉︎く、クジラか……⁉︎」

「バカな!空にクジラがいるわけがなかろう!退避するぞ!」


その空に浮かぶその何か(・・)は強烈な威圧感を放っており、その異質な雰囲気は一瞬だけ2人を萎縮させた。

アギレラは先程殲滅機(エクスキューショナー)と呼ばれた機械人形の危険度を本能的に見抜き、撤退も決断した。


殲滅機(エクスキューショナー)の正体は正確な表現がリュートの元の世界である地球にはあった。


それは、航空母艦。


この世界の人々に対しては魔法以上の脅威となりうる最強の現代科学。


しかし、見た目が航空母艦なだけであって攻撃手段は実弾などではなかった。

機械人形が意思を持って動いているのだ。まさか実弾で攻撃してくるはずもなく。



ギュイィィィィン……。



不穏なチャージ音がジルの耳に入ってくる。

しかし、ジルにはそれが何の音なのか全く見当もつかない。

だが1つだけ分かることがある。


それは、ここにいると数秒後に必ず死ぬということ。


「逃げろおおぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」



ドドドドドドドドッ!



砲撃の様に魔法攻撃が容赦なく撃ち込まれる。

これは戦闘などではない。文字通り殲滅戦だ。

ただ敵が生き残っているから殺してしまうという暴力的な破壊。そこに何の感慨も意味も無い。

まるで幼児がアリを踏み潰す様な、そんな理不尽な攻撃力が地上を蹂躙した。


アギレラは止む無しと術式編纂中のフェリアを抱えて森の奥へと跳躍した。

そうしなければ数秒後にはフェリアは無残な焼死体となっていただろう。


「ア、アギレラ‼︎何故⁉︎」

「バカか!お前が死んでしまうだろう!これは仕方のない事だ!術式はすぐに作り直せばいい!アレと戦っても絶対に勝てん!今は逃げるんだ!」


『殲滅セヨ。殲滅セヨ殲滅セヨ。敵ハタダノ1人モ残スナ……』


「来やがるぞ……!走れぇぇぇぇッ!」


ジルの声に呼応する様にアギレラはフェリアを抱えたまま走った。


「下ろせ!私も走れる!」

「お前はここで転送魔法陣を編纂し続けてくれ!俺がお前を抱えて敵の攻撃を避け続ける!」

「おい、お前ら正気かよ……?」


術式編纂中はかなり無防備な状態になる。

いくらアギレラに背負われてとはいえ、危険度は通常時に比べて跳ね上がる。

それに、人を1人背負って機械人形の猛攻を回避する事もかなりの難易度だ。


「やるしかないだろう。ジル、お前はアクア達を守ってやってくれ……。フェリアの準備が出来たらそっちへ向かう!」

「わ、分かった……。てめぇ達、死ぬなよ……」

「ああ、行け!」


2人はその場で別れた。ジルはアクア達の元へ、アギレラ達はひたすら敵の攻撃を引きつけ、躱しながら術式を編纂する。


「正直言って、死ぬかもしれん……」

「カレンを残しては死ねんな……。アギレラ。必ずどちらかでも生き残るんだ。あの子の為にも……」


少し目を伏せてフェリアは静かに言った。

アギレラは自分を鼓舞する様に面を上げ、敵の機械人形の攻撃を回避する。


「すまない。いらない相談だったな。どちらも生き残る。それだけでいい……」

「ああ、無粋なことを言ったな。アギレラ、私の全てをお前に預けた」

「任せておけ」


ニヤリと牙を見せてアギレラは強く大地を踏みしめた。



---



「クソッ!敵が多過ぎる……!」


ジルは機械人形を蹴散らしながらアクア達の元へと到着した。


「ジル……!」


メイがアルバを抱いたままでジルに駆け寄る。


「お前達、怪我はないか?」

「一先ずはね……。少しずつ移動する?」

「いや、2人が来るまで待つしか無いだろう。こっちに寄って来るやつは俺がぶっ壊す。あのクジラみてえなやつじゃなきゃあ何とかなる」


ジルは不甲斐なさげに額に手を当てる。


「ねぇ、アギレラとフェリアはあそこにいるの?」


リーシャが殲滅機(エクスキューショナー)を指差して問い掛けた。

ジルを見つめる面々は皆不安げな表情だ。


「そうだ」


嘘をついても仕方がない。ジルは正直に話した。もちろんカレンにも聞こえてしまっただろう。


「嘘でしょ……?そんなところに2人を置いてきたの⁉︎」


リーシャはジルに詰め寄った。


「俺には!お前達を守るという義務がある!彼奴らは簡単に死ぬようなタマじゃねぇよ。俺たちはここで彼奴らの無事を祈るしかないんだ……。大体、てめえらだけであの人形にどうやって対処する気なんだ?ここにはガキもいるんだぞ?」

「うっ……、で、でもっ……!」

「これ以上は話し合っても無駄だ。俺はここを動く気は無い」


ジルは強引に議論を打ち切った。

ここにはがアギレラとフェリアの一人娘であるカレン。友人であるリュートとアクアの子供のジンとエマ。そして、自分の息子のアルバがいる。

ジルはここを離れるわけにはいかないのだ。


「カレン……」


ジルはカレンに何と言葉をかければいいか分からなかった。

自分の両親が2人して死地に赴いているのだ。まだ7歳の子供には酷な話だ。


「私、泣かないよっ」


ジルの予想に反してカレンは泣く事もなく、気丈にジルに笑いかけた。

口の端が少し引きつっているところを見ると無理矢理笑っているのが見て取れる。


「おい……無理しなくてもいいんだぞ……?」

「ううん、私無理なんてしてない。おとーさんとおかーさんは戻って来るって言ってたし。おとーさんはもう嘘つかないって約束してくれたし!」


今にも両親を失うかもしれないこの女の子は無理してでも大人の連中に心配をかけまいと気丈に振る舞っている。


「カレン……アクアとリーシャのとこ行ってろ。ここは危ない……」

「うん……!」


ジルは掛ける言葉が見つからなかった。

カレンはジルの言葉に元気よく頷きアクア達の元へと駆けて行った。


「……、うしっ!気合い入れますか!」


ジルが前を向くとそこにはまた機械人形の姿が。


「てめえらが何体いようが関係ねえよ。全員ぶっ壊してやる……!」

『排除スル。排除スル……。排除……スル!』


ガガガ……とネジの様な音がして機械人形はガタガタと揺れながらジルへと接近してきた。


「ちっ!数だけが頼りか!雑魚が!」


それを片端から破壊するジル。

首にあたる部分を引き千切り、胸のあたりを腕で穿ち、四肢を断ち、それでも捌き切れない敵は息炎(ブレス)で吹き飛ばした。


「ぬぁぁぁぁあっ!アギレラぁっ!まだかよ!」


誰もいない虚空へと声を上げる。

このままいつまでこの戦いは続くのだろうか。そんな事が一瞬頭をよぎる。


生きる為に、家族の為に戦う。

終わりの見えない戦いはジルの精神を摩耗させた。


ジルは心が折れそうになるたびに後ろに居る仲間の姿を想い、精神を奮い立たせた。


白兵機(クローサー)。追加投入』

「あ……?」


その時、不意にジルは自身の意思とは裏腹に宙を舞っていた。

追加投入された白兵機(クローサー)に吹き飛ばされたのだ。


「ぐぁぁっ!」


地面に倒れ伏し、敵の機械人形を見上げる。

数十いや、数百にも上る機械人形がジルを見下ろして銃口が狙いを定めている。


「く……そ……がぁっ……!」


息も絶え絶えに吐き捨てる様に声を絞り出した。


その時、


「ジルから……離れろっ!」


荒ぶる獣の爪撃がジルに群がる機械人形を一気に蹴散らした。


「あ……?」


ジルが背後に目をやるとそこには、なんとメイの姿があった。


「お前……なんで、こっち来てんだ……っ⁉︎」

「何でって……、何でそんなこと聞くの?私達……夫婦でしょう……?私には、貴方を見殺しにして逃げることなんてできないよ」


メイはジルの方に優しく手を置くと毅然とした態度で前へ目をやった。


「ジル……私も戦う」

「アルバは……」

「アクアとリーシャに見てもらってる。私だってアルバを置いていくのはどうかと思ったけどさ……、やっぱり貴方を放って置いてもし何かあったらと思うと……居ても立っても居られなかったの……!」


そう言ってメイはジルの腕を引っ張って体勢を起こした。

やはりというかなんというか、他の女性に比べると膂力は大したものだ。

これを面と向かって言うと怒るでもむくれるでもなく喜ぶのだから変わった女性である。


「ジル。貴方が私でも……こうしたでしょう……?」

「……ハッ、違いねぇ」


ジルはニヤリと牙を見せながらメイに笑いかけた。

メイもニヤリと牙を見せながらジルに笑いかける。


「取り敢えず、こいつらを全部ぶっ壊してゆっくり彼奴らを待つとしようか」

「だね!」


先程まで心が折れそうだったが、何故か隣にメイがいるだけで強くなった気がする。


これは、気がする……なんてものではない。

強くなっているのだ。


「惚れた女が隣に居るんだからな……」


ジルはメイに聞こえない様に独りごちた。


「ジル。聞こえてるからね」

「あれ、聞こえてたか。恥ずいな」


どうやら獣人族の聴覚では普通に聞こえていた様だ。


それだけ言うと、2人は機械の波の中に身を投じた。

この回想話が予想以上に長ったらしくなって来た。次回あたりに終わらせたいなぁと思ってます

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