旅立ちの前に
魔王と勇者の話を同時進行で書いてみました。その結果サブタイをつける作業が難航しました。
---魔王side---
「取り敢えず街に行こう」
「良いけど……ないよ……?街……」
「城下町じゃなくて!遠くの方!」
そう、勇者が全部ぶっ壊したのだ。
城だけでなく街も。
流石に住民全滅……なんてことは無いが、それでも街への被害は甚大だった。
コレでは人は住めないだろう。
もう、魔王もいないし、城もない。
街道沿いに街が滅茶苦茶になっている。
何でここまでされて伝令が来てなかったんだろう……。
(もしかして、俺の誕生日の所為か!)
皆浮かれていて情報の伝達が遅れたって事か……。だとしたら……。
俺に甘すぎて滅ぶとかお前ら……フォローし辛いんだけど……。
「はぁ…………」
俺はため息をついてしまった。不謹慎だけど。
「元気出して……リュートは悪くないよ……」
アクアは何か勘違いしたらしく、俺を慰めてくる。
「いや、別にそういう訳じゃ……」
と、答えようとしたところで、でかい魔獣を連れたおっさんに出くわした。
「でっか……」
「大っきいね……」
このおっさんは俺のことを知らないらしい。
そりゃそうだ、俺は殆ど城から出ねぇんだからな。
「んん?見ねえ顔だな……どうした坊主?」
俺は名探偵コ○ンの真似をして聞いてみた。
「この魔獣大っきいね〜。おじさん、どっかいくの?」
アクアはびっくりした様子で俺を見ていたが無視だ、無視。
「ああ、こいつはブラックホースって言ってな……速く走れる上にそりゃあ力のある馬なんだよ。
最近家が壊れちまってな。俺には家族もいねぇし、コイツに荷物括り付けて新天地に出発って訳よ。
ちなみに俺はおじさんじゃ無い。まだ36だ。」
成る程……そりゃあ勇者に襲撃されたんだし、どっかに逃げたいよな……。
あと、個人的な意見だが36はおじさんだと思う。
「何処まで行くの?」
「アストレアだ。ホラここ」
そう言いながらおっさんは地図の端の方を指差した。そこは魔界の最西端だった。
人間界が近いな……。だが、そこなら情報収集には困らんだろう。城も無いし、ここに留まる意味も無いな……。
俺はこそっとアクアに耳打ちした。
「アクア、これからの事だけどさ、俺が勝手に決めて良いか?」
「構わないよ……?私は……リュートに着いて行くだけ……」
「すまん、ありがとう」
俺はおっさんに再度話しかけた。
「人間界物凄く近いけど大丈夫なの?」
「ああ、アストレアはな、俺の故郷なんだ。中々良いところなんだぜ?」
「へぇ〜、そうなんだ」
「ああ、何つったってメシが美味えのよ」
「本当に⁉︎」
ちょっと食いついてしまった。冷静になれ。
よし、ここからちょっと急かもしれんが、頼んでみよう。
「実は僕達兄妹なんだけど、僕達もそこに行くんだ。おじさん、一緒に連れて行ってくれないかな?」
やはり兄妹という設定にしておいた方が良いよな。
いちいち俺たちが一緒にいる理由を説明しなくていいから楽だし……。
「いや、でもよ、危ないぜ?道中は辛いだろうし、命の保証はできねぇぞ?俺も自分の身を守るので手一杯だしよ。それに悪いけどよ、手持ちも大してねぇんだよ」
「大丈夫だよ!自分の身は自分で守れるし、お金もいっぱい持ってるよ。ホラ」
そう言って俺は袋から金貨を取り出して見せた。ボンボン舐めんなよ。
「な、こりゃあ大金じゃねえか!しまっとけしまっとけ。誰かに見られたら盗られちまうぞ……」
この大金を見て「しまっとけ」とは……このおっさん良い人だな……。
「ね、良いでしょ?おじさん」
俺が上目遣いで聞くととうとうおっさんは折れた。
「分ぁったよ。でも自分の身は自分で守るんだぞ?あと俺はおじさんじゃねぇ、ジェイドだ」
「僕はリュート、こっちは妹のアクア。宜しくね、ジェイドおじさん!」
「俺をおじさんと呼ぶな!ジェイドさんと呼べ!」
こうして、俺たちはジェイドというおっさんと一緒に旅をすることになった。
「ねぇ……その喋り方……何?」
「気にすんな」
○ナンの真似辞めようかな……
---勇者side---
祐奈の出発の日が近づいてきた。
魔王を倒しに行くのだから、旅に出ねばならないのは分かるが、何だか厄介払いされるみたいだ。
お金は大量に貰ったが。
これだけあれば一生遊んで暮らせるらしい。
(働くの辞めようかな……いや、ダメダメ、元の世界に帰るって決めたじゃん!)
こんな大金を目の前にしたら決意も揺らごうものだ。
今日出発という訳ではない。
最後に王に会ってなら行かねばならんらしい。
(謁見……だっけ……?面倒くさいなぁ……)
しかも勇者の格好をしなければならないから、鎧が邪魔なのだ(魔法のせいでそこまで重くはない)。
憂鬱になっていたところ、勝気そうな可愛らしい女の子が声をかけてきた。歳は11、2歳ってとこだろう。
「ユーナ!お父様のところに行くの?」
「ナーシャ!」
ナーシャは綺麗な黒髪の王女様で、何かと祐奈に声をかけてくる女の子だ。
人懐っこい性格でとても祐奈に懐いている。
祐奈もナーシャの事が大好きだった。
「お父様、面倒くさいけど……頑張ってね!」
(うぇ……面倒くさい人なのか……さらに行きたくなくなってきた……)
「まぁ、行ってくるわ。ナーシャ、後でね」
「また面白い話してね?」
「勿論!」
祐奈は夜になるとナーシャに日本の昔話を聞かせたりしていた。
ナーシャは正直言って笑いすぎだと思うくらいに笑うのだ。
何がそんなに面白いんだろうか。
祐奈は面倒くさがりながらも王の間へと向かった。