立ち塞がるは妖精王
---リュートside---
俺はすぐにアスタや祐奈と合流しようと思い、城をくまなく探し回った。
しかし見つからない。
激闘の中意外と周囲を破壊しながら移動していた上、この城が馬鹿でかいのでほとんど迷子に近い。
この城が半壊しているおかげで見晴らしはよくなっているし、最悪飛び上がって仕舞えばいいので普通の城に比べれば遥かに迷いにくいだろう。
「くっそ……。彼奴ら大丈夫なのか……?」
アスタや祐奈は無事なのだろうか?一瞬だけ、嫌な予感が俺の脳裏をよぎる。だが、すぐに俺はその思考を打ち消した。
取り越し苦労だ。アイツらがどうにかなるなんて考えられない。
と、その時、遠くから地響きと共にまた衝撃波がこちらを襲ってきた。
ズドドドドドドドドド‼︎
「うおおおおおっ⁉︎」
何とか防御出来たが、それでも俺の周囲はまた滅茶苦茶に破壊されてしまった。
もうここは再起不能なんじゃないだろうか?
多分今の攻撃は余波なのだろう。かなり威力が抑えられている。
「畜生。全然見つからねえじゃねえか……。大体、何でこんな壊してるんだ?まさか今のも祐奈がやったんじゃねえだろうな……?」
と、俺が独りごちたその時、
ボガァンッ!
轟音と共に壁を突き破って大きな肉の塊が目の前に現れた。
「ぬおお、リュート!ここにおったか!」
「リュート様!やっぱり無事だったんすね!」
「お、おう……。お前らか、無事で何よりだ……」
そう、アスタと妖精王である。
しかし、何故自分の家の壁を平気で破壊できるのだろうか?もうちょっと躊躇とか無いのだろうか?
どうやらアスタは怪我の具合が深刻な様子で妖精王に背負われている。
そして何故か敵であるはずのウリエルも背負っている。まぁ、妖精王のことだし何も考えずに連れてきたんだろう。
しかし、あのアスタがここまでボロボロにされるとは、天使ってのは本当にぶっ飛んだ奴らだ。
だがアスタか生きている。ウリエルは意識を失っている。そして、妖精王が無傷でガハハと笑っているところを見ると、どうやら勝負には勝ったらしい。
「こっちも何とかギリギリって感じだ。正直、ジジイがいなかったら負けてた……」
「俺もっす……。妖精王様がいなかったら殺されてたっす……」
俺とアスタは2人揃って少し暗くなってしまった。
「なぁに、生きておるのだ!まずはそれを喜ぶが良い!それに、お主らはまだまだ若い!精進せよ!」
「そ、そうだな。このままじゃあ、神の奴らと出会ったら殺されちまう……。どうにかして強くならねえと……」
とその時、遠くの方からまたもや地響きが。
ドドドド……!
「おいおい、またかよ……」
「ヌゥ?コレは……衝撃音ではなく人の足音ではないか?」
「言われてみりゃあそうっすね」
「前方を注視してみよ。さすれば見えるだろう」
俺たちは妖精王の言葉通りに少し目を凝らしてみた。
するとそこには、
「リュートさぁぁぁぁぁぁぁぁぁん‼︎見つけましたぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
何だか物凄い必死の形相で何かから逃げる祐奈の姿があった。
「ゆ、祐奈⁉︎」
「ム、一直線にこちらへ走ってくる」
「あの後ろのデカイの……なんすかね?」
そう、祐奈は何かから猛ダッシュで逃げているのだが、その正体が何なのか全く見当もつかない。
体がドロドロとした紫っぽい物質で構成されている上、龍のような首が九つも付いている。
こんなにも見た目だけでもこんなにヤバさが伝わってくる生き物もいないだろう。そもそも俺が生き物なのかどうか確証が持てない。
「何かわからんものは取り敢えず殴って確かめよ!」
「触ったらヤバそうな見た目してるんだが⁉︎」
「お、俺の『鋼質化』で何とかなりますかね……?」
「いやぁ、ありゃあ無理だろ……」
そうこうしているうちに敵の龍が周囲の壁を破壊しながらこちらにも首の数本を伸ばしてきた。
「やべえ!かわせ!」
「くっ!」
「ぬぅ!」
俺たちはすぐさま回避行動をとる。妖精王はアスタとウリエルを担いだままだったが、容易く敵の攻撃をかわしていた。その点はやはり流石といったところだ。
すると地面にぶつかって龍の頭は弾け飛んだ。
「な、何だ……、拍子抜けっすね……」
「いや、よく見てみよ」
妖精王の指差した方向に目をやると先ほど飛び散った毒の礫が一瞬で集まってきて再び龍の頭を再構成した。
「なっ、再生すんのかよ⁉︎」
「物理攻撃は効かぬと思って良いであろうな」
物理攻撃が効かないだけじゃない。再生の速度がとんでもなく早いのだ。再生能力の面倒臭さは自分が身を以て知っている。
しかし、その上で物理攻撃の無効化はやり過ぎだ。
くっそ、一体そんなのどうやって対処すりゃあいいんだよ⁉︎
俺がイラついて歯噛みしていると、俺の方向へ向かって叫び声とともに祐奈が飛んできた。
「きゃぁぁぁぁぁ‼︎」
「うおお!」
間一髪キャッチ。
相変わらず鍛錬を怠っていないようで引き締まった筋肉が服越しにも分かる。
流石は長いこと勇者をやっているだけはあるな。
っと、長時間こんな事してたらヤバイな。俺は妻子持ちだぞ。
なんだかいけない事をしている気分になってきたので早急に祐奈を離す。
どうやら先ほど俺たちを襲ったのとは別の首に攻撃され、衝撃でこちらへ吹っ飛んできたらしい。
まぁ、合流できて好都合だ。見た所怪我もないみたいだしな。
「大丈夫か?」
「あ、どうも……。一応目立って怪我はないですけど……。アレ、どうしましょう……。光魔法の攻撃も効かなくて……」
「魔法も効かねえのか……」
それって打つてないんじゃねえの?
幾ら何でも魔法攻撃物理攻撃共に無効化するようなバケモノに勝てる気なんてしねえよ。
ふと前方を見やると九つ首の龍と共に1人の男が歩いてきた。
ミカエルとの戦闘の前に見たな……。確か、ラファエル……だったか。
どうやらあの九つ首の龍はラファエルの能力によるものらしい。
ラファエルの能力は毒の能力。つまりあの龍は毒で構成されているということだ。コレで素手で触るのも無理だということがわかったな。無理ゲー要素が増えた。
「やぁ、君が魔王だね。まさか2人共やられてしまうなんて思っても見なかったよ」
そしてラファエルは妖精王に担がれているウリエルに冷ややかな視線を投げかけて言った。
「熾天使ともあろう者が情けない。やはり雑魚ではダメか。ミカエルもウリエルも緊張感が足りないからこうなるんだ。全く、雑魚は当てにならないね」
この野郎……。仲間に向かってよくそんなことが言えるぜ……。
「てめぇ、仲間じゃねえのかよ?」
「仲間だったよ。でも弱い奴は熾天使に必要無いんだよ。物のついでだ。僕がそいつも一緒に消し去ってやるよ……。いけ!『死毒神龍』‼︎」
そう言い放つと、ラファエルは先程の九つ首の龍をこちらへ放ってきた。
慌てて俺たちはその場から離脱する。
この『死毒神龍』という龍は全身がラファエルの毒で構成されており、触れることができない。
さらに物理攻撃を受けても瞬時に再生し、魔法攻撃は無効化するというチート性能を持っている。
しかも奇跡で動いているため、俺の『魂喰』で無力化することも出来ない。
って……!ほぼ万策尽きてんじゃねえか‼︎
どうする……?考えろ……!あのバケモノを倒す方法を……。
このままじゃあいつか俺たちの体力は尽きて『死毒神龍』に食われちまう。
「弱点とか無いのか?水が弱点だとか……、そういう目だった弱点ないのか?」
「いえ、私も分かりません……。どうしたらいいかわからなかったので縋る気持ちで逃げてきたんです……」
「成る程な。ま、その判断は正しいと思うけどな。どうせアレとタイマン張ったって勝てるわけがねぇ……」
逃げるしかねえのか……?
ルシファーはまだガブリエルと戦っている。
ここでこいつを逃したり、俺たちが負けて仕舞えばルシファーが危険な目に遭ってしまう。
ここでこいつは確実に倒しておく必要がある。
しかし、どうすりゃいいんだ……。
と、俺が頭を抱えそうになっていたその時。
1人だけ悲観するでも頭を悩ますでもなく、快活とした表情で敵の目の前に仁王立ちする男がいた。
そう、妖精王である。
「成る程。触れることも出来ず、魔法攻撃物理攻撃共に無効化するバケモノか……。ヌハハハハハ‼︎相手にとって不足なし‼︎」
「「「は?」」」
俺たちは同時に素っ頓狂な声を上げた。
このおっさんは……何も言ってるんだ……?
「このような強敵は何年ぶりだろうか‼︎ヌハハハハハ‼︎血湧き肉躍るわ‼︎」
このおっさんも狂戦士かよ。
しかも戦うことそのものを楽しんでる。
その上戦うだけで満足とかそんなことは微塵も考えていない。勝つ気満々だ。
いやいや、どうやって勝つ気なんだよ……?
妖精王の主な攻撃手段はその豪腕によるパンチだけのはず。
一応魔法も得意だそうだが、俺は妖精王が魔法をまともに使ってるところを一度も見たことがない。
「なぁにリュートよ。我を信じよ。我はこれでも一国の主ぞ?」
妖精王はニヤリと笑いながら振り返り、俺の顔を見つめて言った。
ゾクッと俺の背筋を謎の感覚が襲う。
何故だろう。このおっさんの言葉には何の根拠もないのに説得力の様なものがある。
この人ならやれるかもしれない、と。
「王の力……、とくと見せようぞ!さぁて、怪物退治に洒落込むとしよう!」
これから見せるのが本気だとばかりに、妖精王の全身から弾けるように魔力が迸る。
「妖精王……。いくら貴方でも勝てないよ……。この『死毒神龍』にはね!」
しかし、ラファエルのその言葉にも意に介することなく妖精王は不敵に笑うのみだった。
最強のおっさん。始動