信頼
「さぁてと、アスタよ!無事か⁉︎」
腕をグルングルン回しながらアスタに無事を問いかける。
アスタはウリエルから深手を負ってはいたが、別に死ぬほどではない。妖精王がいなければ死んでいた可能性は高いが。
「ぶ、無事っす……。ってか、相変わらずデタラメっすね……。アンタ……」
「ヌハハハ‼︎よく言われるわ!あ、アスタよ、そこの其奴だが、運んでやってくれい。死ぬ程の攻撃はしておらんつもりであったからな。少し寝ておれば回復するだろう!」
「え、コイツ殺さないんすか?」
「ヌハハハハハ!何も殺すことはあるまい!歯向かえばまた殴れば良いのだ!ヌハハハハハ!」
豪快に笑い飛ばす妖精王。
こよ物凄い器の広さもこの戦闘能力故だろう。
「ハハ……、まぁ、妖精王様がそういうなら良いっすけど……」
「ヌハハハ!ならば良し!行くぞ!」
「え、ちょ、どこいくんすか……⁉︎」
「次の敵を探しに行くのだ!ヌハハハ!黙って付いて来い!」
「あ、はい……、わかりましたっす……」
妖精王は豪快に笑いながらズンズンと大股で歩き出す。
アスタは嘆息しながら気絶したウリエルを担いで妖精王のあとを追うのだった。
---祐奈side---
「くっ、『神聖勇波』‼︎」
「『死毒霧』」
祐奈の放った光の束はラファエルの作り出した毒の霧の前に阻まれてしまった。
かなりの時間この拮抗した戦闘が続いている。
「クソッ!『神聖勇衝』‼︎」
祐奈の剣が一瞬ブレたかと思うと次の瞬間に不可視の剣状の衝撃が放たれた。
「『死毒導』」
しかし、その衝撃波はラファエルには当たらず、空を切った。
城のありとあらゆる場所に飛び散った毒の中を往き来出来るらしく、ラファエルは神出鬼没だ。
祐奈の攻撃がまともに当たらないのだ。
ラファエルの『死毒導』は自身の発生させた毒溜まり同士を異空間で繋いで往き来するという能力だ。
その効果によってラファエルは自身の毒の飛び散っている場所であれば瞬間移動にも近い移動能力を持っているのだ。
対して祐奈の能力は純粋な攻撃タイプ。
特殊な力の使い方などない。ただ前方に広範囲の放出する。
ただそれだけなのだが、祐奈の圧倒的な神聖力から繰り出されるだけでそれは異常な威力を秘めた必殺の攻撃となり得る。
しかしそれも当たらなければ意味がない。
「くっ、厄介ねそれ……」
「フッ、僕の移動術は目で追えるようなものではないよ?この城の壁や床には至る所に僕の毒がくっ付いている……。君に見切ることはできないさ」
「成る程ね……」
祐奈は身構えた。
敵の攻撃に備えてのことではない。
もう考えるのが面倒臭くなったのだ。
祐奈はキッと前方を睨みつけ、剣を振りかぶり光を集めた。
「あーもう面倒!私の敵はいっつもこんなのばっかり!私はね、アンタみたいなやつには迷ったら絶対こうするって決めてる事があんのよね……」
「何だって……?何か秘策が……?」
祐奈の言葉に訝るラファエル。
「秘策なんて格好良いモンじゃないわよ。ただ全部ぶっ飛ばすだけ」
「え……」
「考えるの面倒臭いし。私がずっと全力を出してたと思う?ココ友達と妹の家だし、遠慮してたのよ」
祐奈は静かな、だが弾けるような雰囲気を纏い、ユラリと立つ。
「全部、吹き飛ばす……。『神聖勇皇』‼︎」
「なっ……」
祐奈の剣撃は衝撃波を発生させながら祐奈を中心に円状に周囲を破壊した。
圧倒的破壊力。
祐奈の持つ攻撃の中でも最強レベルの攻撃。
波の敵では跡形もなく木っ端微塵になる事だろう。
祐奈は破壊した眼前の景色を一瞥すると手に持っていた剣を鞘に戻して一息ついた。
「任務完了っと……」
---
「よしっ、やり過ぎたけど勝った!早くリュートさんと合流しよ……」
そう、一言呟いて一歩踏み出そうとしたその時、
「待て」
「ッ⁉︎」
背後から声が響いた。
バラバラになった城壁に反響し、妙にこもった声が。
祐奈はゆっくりと振り向く。
そこにはゆらりと幽鬼のように立つラファエルの姿が。
「生きて……ッ⁉︎」
「間一髪回避できたよ……。全く、まさかここまでするとは……。仲間が心配じゃないのかい?下手をすると仲間も死んでいたよ?」
祐奈は少しの間驚愕し、固まっていたが、すぐに普段のように冷静な態度に戻った。
「あー、考えたこともなかった。流石にルーナとサリアは心配だったからあっちからは外したけど、リュートさんとかアスタとかは別に死なないだろうし……。おじさんもまぁ、大丈夫だろうし……」
祐奈は少しうつむきながら思案顔で答える。
実際問題祐奈の攻撃で一撃で倒せるようなヤワな男達ではないのだ。
祐奈はその無意識の信頼関係から、その点の心配など毛ほどもしていなかったのだった。
「成る程、あの行動はその信頼関係に裏打ちされての行動だったんだね……」
「いや……、別に何も考えてなかっただけなんだけど……」
ぼそりと呟く祐奈。
実際面倒だったから全部吹っ飛ばしたのであって、そんな深いことは何も考えていなかった。
なのに勝手に深読みして感心されると何だか悪いことをしてしまった気分になってくる。
「まぁ良い……。君のその攻撃がある以上。移動術を使っての撹乱はイマイチ効果が期待出来ないようだ……。だったら……、技を変えるまでだよ」
「何だか知らないけど……『神聖勇覇』‼︎」
祐奈はそのラファエルの含みのあるセリフに少し危機感を抱き、一気に殲滅攻撃を放つ。
その光の奔流は全てを食らい、無に帰す。
触れたものの存在を拒むかのような神聖で清らかな、それでいて祐奈の性格のように妥協を一切許さない一撃。
「『死毒神龍』」
しかし、祐奈の放った一撃を押しのけるようにラファエルの発動した奇跡が形を成した。
「嘘……、弾かれて……?」
それは九つの首と尾を持つ巨大な毒の龍だった。
「『死毒神龍』。コレは毒の龍であり、不死の龍。君では倒せないよ。諦めな」
「って言って素直に諦めるとでも?」
「ならば足掻くが良いさ。お好きにどうぞ。やれ!『死毒神龍』!」
ラファエルの掛け声とともに『死毒神龍』は祐奈へと猛然と突進してきた。
九つある首の内の5本ほどが右から、残りが左から挟み討ちのような形で祐奈を追う。
「くっ、『神聖勇絶』‼︎」
すかざす祐奈は雨のように光を降らせ、首を相殺する。
すると『死毒神龍』の首は一時霧散した。
しかし、すぐさま再生し、祐奈を追う。
「くっ!ダメ……、このままじゃいつかやられる……!」
祐奈は脚力を一時的に強化して走った。
このまま正面からぶつかったのでは勝てないと悟ったのだ。
目の前の毒の龍はどうやら物理的攻撃だけでなく、魔法による遠距離攻撃も殆ど無効化するらしい。
これではまともな戦闘を展開することは不可能だ。
「って!一体どうすりゃ良いのよ!」
剣による斬撃も効かない。
神聖力による光魔法も効かない。
衝撃波による攻撃も殆ど意味を成さない。
今の祐奈には現状、打つ手がないのだ。
「でも大丈夫……。私には仲間がいるんだから……。こういう時は相談……もとい丸投げよ!」
1人で勝てないと悟った祐奈はすぐさま一人きりで戦う事を放棄し、逃げ出した。
勝てないなら勝てる状況を作るまで。
多分あの2人ならなんとかしてくれるハズ。そして、あの2人なら天使との勝負を既に決めてくれているハズ。
その『信頼』という名の何の根拠もない不確かなモノを信じて祐奈はひたすら破壊された城内を走るのだった。
「リュートさん。アスタ。ごめん、助けて……!」
祐奈が万能すぎる気がした。
あと能力的にラファエルは天使というより悪魔みたいですね。毒って……。