妖精王の進撃
「そうだ、ジジイ!早くアスタ達と合流しねえと!」
『そうじゃのう。じゃ行くか』
「いや、行く前に身体返せよ!」
俺の体から出て行ったジジイはいつものドクロの中に戻って行った。
俺はすぐに走り始める。ミカエルと同レベルのやつが相手だとすれば二人共心配だ……。
『あ、もうダメじゃ。活動限界じゃ』
「もう役に立たなくなったのか。ったく、ゆっくり休んでろ」
『すまんの」
「別に」
ジジイが役立たずに戻っちまいやがった。
ま、さっきまで充分働いてくれたし、帰ったら労ってやるか。
でもジジイの奴、充電中はなかなか出てこねえんだよなぁ……。
---アスタside---
時はリュートが地面を破壊した時に遡る。
アスタとウリエルは城の中の部屋の中に二人で立っていた。
天井は風通しが良くなっており、周囲も崩れていく。
地面に降り立ったアスタはすぐにウリエルの姿を補足し、床を蹴った。
接近しながら身体を一気に強化する。
「うおらぁっ!」
「フンッ!」
ズドォッ!
アスタが大振りに振りかぶった拳をウリエルはいともたやすく受け止めた。
「よぉ、てめぇ、アスタとか言ったっけ……。まぁ、楽しくやろうや……」
「その気はさらさらねぇっすよ。リュート様をお守りしなきゃいけねえっすから。さっさと終わらせて貰うっすよ!」
地面を勢いよく蹴りながら一瞬でウリエルとの距離を詰める。
土埃を舞い上げながらまるで矢のように、そして刃のように横薙ぎに蹴りを放つ。
「おぉおぉ、気が早いねぇ……っとぉ!」
ドゴォッ!
しかし、またもやウリエルはそれを受け止めていた。
これほどの強さだ。避けようと思えば避ける事もできたはずだ。なのに避けずに受け止める。
これは自信の表れなのか、それとも別の意図があるのか。アスタには計りかねる事だった。
「ったく……、大したパワーだぜ……。ま、ちょいと足りねえみてえだがよ」
首をコキコキと曲げながらニヤリと不敵に笑うウリエル。
「くっそ……!マジハンパ無いっすね……。大体、何で天使なんかが妖精王にちょっかいかけてくるんすか?」
「ああ?俺達はてめえらに用があるんだぜ?妖精王はついでだ。ついで」
あの妖精王をついでとは……。
妖精王の強さを知っているアスタからすれば目の前の男の戦闘能力がさらに計り知れないものとなり、少し心に暗雲が立ち込め始めた。
「ははっ、大した自信っすね……。言っとくっすけど妖精王様はついでとかで片付けられるような戦力じゃねぇっすよ」
「んなモン重々承知だっつーの。あのバケモンの処理はガブリエル任せだ。ルシファーの奴をぶっ潰したらすぐに終わるさ。目下最大の懸案事項がルシファーと妖精王だからな」
「計画ガバガバっすね……。つまり、アンタ達3人は俺たちを全員ぶっ殺すのが目的で、ガブリエルって奴がルシファーと妖精王様をぶっ殺すって事っすか」
「ま、そういう事。正直言って俺たちの仕事は簡単だしな。終わったらガブリエルの補助にでも行くさ」
「でも、忘れてるっすよ……。一番ヤバイ人をね……」
そこまでウリエルの話を聞いたところでアスタは笑った。
ここまでの間にアスタは目の前の男の強さを嫌というほどにわかっていた。
「あ?」
「俺たちの主、リュート様は……。どんな状況でも、誰が敵であろうと、絶対勝つっすよ……!絶対にね!」
「ほう……、大した信頼関係だな。だが、あの魔王はミカエルが倒しに行ったんだぜ?万に一つも勝てる見込みはないだろうよ……」
「へっ、そいつは俺たちだって同じ事思ってるっすよ……。そのミカエルとかいう奴じゃ、リュート様には絶対勝てないっすよ」
「言うじゃねえか」
ゴオッ!
一気にウリエルが距離を詰め、アスタに詰め寄った。
「ぐあっ!」
なんとか腕で防御する事ができたが、完全に威力を殺す事ができず、身体中に衝撃が走る。
「くっ、力強いっすね……。どうなってんすかこれ」
「俺の『奇跡』は単純な強化だけじゃねえ。炎を燃やし、それを燃やすほどに強くなる『炎熱強化』。それが俺の奇跡だ」
言いながらウリエルは無造作に右腕を振った。
すると、その場に大きな炎が発生し、あたりを焼き始めた。
「なっ……!」
「ま、タイムリミットって奴だ。俺を倒してみろ。じゃなきゃ城が焼け落ちるぜ?」
「このクズめ……!」
アスタは一気に強化を足に集中させ、爆発的な加速力で文字通り飛ぶように跳躍した。
「うおあらぁっ!」
ドゴォッ!
「フンッ!良いパワーだ!」
しかし、アスタの拳打はあっさりと受け止められる。
地力が違う。
そもそも天使とは本来、地上の存在にどうにかできるような者ではないのだ。
「ここまで追いすがってくる地上人は初めてだ。誇って良いぜ?」
「勝てなきゃ意味ないんすよ……ッ!」
しかし、アスタの繰り出す攻撃はいずれも完全に受け切られてしまう。
アスタの強化能力をウリエルの強化能力が大きく上回っているのだ。
「もう諦めるんだな。お前じゃあ俺には勝てねえよ。『炎熱掌打』‼︎」
「ぶはっ!」
ウリエルの炎を携えた剛腕がアスタを思い切り吹き飛ばした。
アスタは成す術なく壁に激突し、突き破る。そして、廊下まで飛んでいったところでやっと止まった。
「くっそ……!どうしたら……!」
「ム、アスタか!」
「はい……?」
アスタが振り向くとそこには全身筋肉ムキムキの巨漢が仁王立ちで立っていた。
「よ、妖精王様⁉︎」
「ヌハハハ‼︎敵がなかなか見つからんくてな!壁を隔てて隣にいたとは!いや何、周囲から轟音が聞こえてくるのでな!ヌハハハ‼︎」
「あ、あの……、妖精王様?笑ってる場合じゃなくってですね……。今……」
「なぁに、状況は重々承知しておる!彼奴は我に任せて、お主はそこで寝ておれ!」
アスタの言葉を遮り、妖精王は頼もしい笑みを浮かべてゴキゴキと指の関節を鳴らした。
「お主がウリエルという奴か……。我の客人に飛んだ無礼を働いてくれたな。覚悟は良いな?」
「ハッ!強え奴と戦えるってんなら、覚悟なんてとっくの昔にしてきたぜ!さぁて、やろうや!」
「ヌハハハハハハ!敵でなければ話のあいそうな奴だ!」
笑いながら不意に妖精王が腕を無造作に横薙ぎに振った。
まるでバットを勢いよく振った時のように風を切る音とともに棍棒のような腕が振り回される。
「うおおっ⁉︎」
「ヌゥ、避けたか」
「うぉっ、いきなりてめっ……!卑怯だぞ!」
「ム?戦に卑怯も何もあるものか。勝ったほうが偉いのだ」
「ちっ、まぁその考えも嫌いじゃねえけどなッ!」
炎を纏った両腕で妖精王へと接近するウリエル。
「ヌゥァァアッ‼︎」
ゴオオオッ!
妖精王が腕を一薙するたびに一陣の風が巻き起こる。
「ぶはぁつ!」
「ヌゥンッ‼︎」
「ごはぁっ!」
「デェァアッ!」
「がぼっ!」
「ヌリャァァァッ!」
「ごぁああっ⁉︎」
ボコボコである。
妖精王は休む間も無く拳をウリエルの身体のあらゆる箇所にブチ込む。
遠慮も躊躇も容赦も無く。
「ヌァァアアアアッ!」
「ぐぅあぁっ、負けるかぁぁぁぁッ!」
「その意気やよし!」
「うおおおおおおおおおおおお‼︎」
しかし、応戦虚しくウリエルは殴り飛ばされた。
姿勢を起こしながらウリエルが問いかける。
「何故だ……、ただ殴られてるだけなのに、何故対応できないんだ……⁉︎」
「残念ながら我の方が強い。それだけである」
そう、ただそれだけなのだ。
妖精王の方が速い、強い、硬い。ただそれだけ。
それはステータスという如何ともし難い差。
それは天性のものもあったのだろう。だが、妖精王は後天的に天使すらも追いつくことのできない肉体を、長年の鍛錬によって手に入れたのだった。
搦め手タイプの能力を持っているのならまだしも、純粋な肉弾戦闘タイプのウリエルでは太刀打ち出来ないのは自明であった。
「バカな……。俺より強え奴が、地上にいるなんて……」
「ヌハハハハハハ!まだまだ若いな!この世には常識をはるかに超えた強さを持つものがゴロゴロおる!見聞を広めよ!若人よ!」
そう言うがいなや、妖精王の拳はウリエルの顔面を捉えた。
「冥土の土産に我の拳の味を持っていけい!」
バキィッ!
「チクショ……、このバケモノめ……。俺の方が年上だっつーの」
ウリエルはそう呟き、意識を失った。
ジジイが強過ぎるシリーズ第二弾。
妖精王はジジイでは無くおっさんという設定なのでやっぱり違うかも