100倍
俺は敵を三つに分断し、すぐにミカエルの元へと向かった。
分断した理由としては相手の連携能力が未知数なこと、此方側の戦力がタイマン向きの能力を有していることが理由である。
まぁ、ウリエルとミカエルの様子を見ていると連携能力はお察しだがな。
とはいえ、祐奈もアスタも協調性という言葉とはほぼ無縁の能力を持っている上、性格的にもあまり話を冷静に聞くタイプではない。
こうしてタイマンに持ち込んだ方がこちらの方戦力が上手く動いてくれるはずだ。
「さて、ミカエル。悪いが俺とタイマン張って貰うぜ……」
「ちっ……!まぁ良い……。ウリエルは後回しだ。あいつは後で殺す」
「お前らちっとは仲良くしろよ。敵である俺が言うのもなんだけどさ」
俺は半ば呆れながら一応言っておく。ラファエルの苦労する気持ちがまぁわからなくも無いしな。
「余計なお世話だ。さて、前置きはここまでにしようでは無いか。さっさと始めるに越したことは無いだろう?」
「だな」
言うや否や俺はすぐに地面を蹴った。
いちいち待っておく必要も無いだろうし、この程度にはしっかりと対応してくるだろう。だが、先手必勝ってヤツだ。
「『電撃流動』」
走りながら足から地面に電気を流す。
俺が地に足をつけるたびに電撃によって床が穿たれる。
「弾けろっ!」
そして一気に電撃を拡散させる。
先ほどのように足場がバラバラに砕け、俺とミカエルは空中に放り出された。
「なっ⁉︎貴様、また!床に恨みでもあるのか⁉︎」
「別に床に恨みなんてねえよ」
狼狽したミカエルは訳のわからないことを口走る。
全く何を言っているんだこいつは。
……しかし、客観的に見たら俺今日1日でこの短時間の間に二回も床ぶっ壊してるんだよな……。うん、これは床に恨みあるように見えるわ。
って、待て待て、今はこんなこと考えてる場合じゃ無い。
準備は完了した。行くぜ。
「『電撃収束』」
俺の破壊した瓦礫には俺の電撃魔法が帯電している。
そして、無数に散らばっている瓦礫をまるで電極のように使い、間に電撃を流す。
「ぐっ⁉︎ぐぁうぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
直撃。
ミカエルの純白の翼を黒く焦がしながら俺の電撃がミカエルの体内を破壊しながら駆け巡る。
「一気に決めさせて貰うぜ……!『雷撃天衝』‼︎」
俺の持つ最高の攻撃型雷魔法。
掌に電撃をチャージし、放射状に一気に放出する広範囲魔法攻撃だ。
俺の雷魔法は『魂喰』による魔力吸収で威力を底上げされている。
つまり、通常の雷魔法の域を逸した威力の魔法が打てる訳だ。
俺の全力で放った『雷撃天衝』はミカエルごと前方を一瞬で薙ぎ払った。
普通の敵ならこれで跡形も無くなっているはずなのだが……相手は天使だ。油断は出来ない。
「さて、これで終わりじゃねえんだろ?出てこいよ……」
「はっ、地上の存在にしてはなかなかの威力だ。本気で回避したぞ」
俺の呼びかけに応じる声は空から響いた。
どうやらミカエルは空中へと回避していたらしい。
「ちっ、避けてやがったか……。神族ってのはすばしっこいな……」
俺は少し歯噛みしながらミカエルの得意げな顔を見やる。
少しぐらいダメージがあって欲しかったが……まさか避けられているとは……。
しっかりと麻痺させてから撃ったハズなのにそれでも躱されているとは……。
「くっ……、貴様のことを少し侮っていた……。まさかここまでの攻撃魔法が打てるとはな……」
「へぇ、その認識がすぐに改まって命拾いしたな」
どうやら自分が本気で回避しなければならないほどの攻撃魔法が飛んでくることを予想していなかったらしい。
そりゃ計算違いってもんだ。
「フン……、貴様を敵と認めよう。そして所詮地上の存在と侮っていたことを詫びよう。そして、敵である以上私は手加減はせんぞ……!」
「上等だ……!」
俺は胸の前で拳をバキバキと鳴らす。
ミドの言っていた妖精界の危機だてのが何かはわからない。
だが、十中八九こいつら天使の襲来のことで間違いは無いだろう。
だったら俺はこいつらをぶっ倒すだけだ。
というか、妖精王のやつ……寝てるのか?
あの勘のいい化け物に限って気づいていない何てことは無いだろうが……。まさか、気付いていて寝てるのか?
気付いていないとしたら余りに間抜けだし、気付いているとしたらちょっと大物過ぎるだろ。
ま、今いない奴の心配をしても仕方が無い。あのおっさんに限って死んだりはしないだろう。どちらかというと心配なのはルーナとサリアだが……。
ルーナの奴は割と強いしサリアも肝が据わっている。そこまで心配する必要は無いだろう。それに、どうやらこいつらの狙いは俺たちみたいだしな。
ミカエルは俺の方を見据えながら片手を差し出した。
「私の奇跡は雷!そう、貴様の先ほど使っていた魔法と同じ属性だ……。だが、レベルが違う」
ミカエルの腕が電撃を帯びていく。
「『電撃伝導』」
バチッと音がしだと思うとミカエルの放った電撃は俺目掛けて空中を伝搬してきた。
「なっ⁉︎」
なんで空中を⁉︎
「ぐぅぁぁぁぁっ!」
俺は一瞬思考が停止してしまった。
何が起こったんだ……?気がついたら俺の体に電撃が流れていた……。
「私のは奇跡だ。魔法ではない。これまでの常識にとらわれていては私には勝てないぞ?『雷撃掌波』!」
「ごふあっ!」
ミカエルの電撃を帯びた掌底打ちが俺の腹部をえぐる。
ドゴォッ!
ぶっ飛んだ俺は城の壁に激突した。
そして、すぐに傷口が再生されていく。かなり久々の感覚だ。
相変わらず俺の再生能力は全く健在で衰えるどころから成長するにつれてどんどん強力になってきている気がする。
「ちっ……!同系統の能力で下位互換の俺が勝つには別の切り口で戦わなきゃダメか……。だったら……!」
俺はその魔法を久しぶりに口に出した。
「『強化魔法』」
『強化魔法』。
自身の身体能力を一時的に強化する魔法だ。
そして、それは本人の魔力と身体が許す限り幾らでも重ねがけすることが出来る。
この魔法は使いすぎると身体が崩壊してしまい死に至る他、魔力が枯渇してしまうというリスキーな魔法なのだ。
しかし、俺は違う。
体の崩壊は瞬時に再生させることで補うことが出来る。
魔力の枯渇は『魂喰』で補うことが出来る。
つまり、俺にとっては強化魔法による本来のデメリットは殆ど無いに等しいのだ。
まぁ一つだけ慢性的な大問題があるのだが。
俺の体は再生するだけで痛覚は健在だ。確かにこの身体になって長いので痛覚に対して少しずつ耐性はついてきているが、痛いものは痛いのだ。
つまり、強化魔法は使いすぎるとメチャクチャ痛い。
何せ身体が崩壊と再生を繰り返すのだから当然と言えば当然だ。
この強化はジジイによって止められていたのだが、今はジジイは先の戦いで疲れているのか依り代のドクロから出てこない。
それに、緊急時なら使っても文句を言われる筋合いは無いだろう。
「一気に上げるぜ……!」
2……7……15……20……‼︎まだだ……、まだイケる……!
少しずつ強化倍率を底上げしていく。
強化倍率を上げるごとに身体に激痛が走る。
「貴様……ッ!一体何を……⁉︎」
ミカエルは俺が痛みに耐え、表情をゆがませる様をみて困惑の表情を浮かべる。
25……30……40……!くっ……!そろそろ身体の崩壊のペースが早くなってきやがった……!
だが、再生が追いつかなくなるギリギリまで上げる……!
「うおおおおおおおおおおおおおお‼︎」
まだだ、まだだ……ッ!50……60……70……80……ッ!
そして、俺は全身からバチバチと弾けるようなオーラを発しながら立ち上がった。
「……100倍だ。さて、始めようか。ミカエル」
界王拳みたいな倍率のインフレ