筋肉ダルマ
「わ、我々は組織などには属していない。皆神から直々に託宣を賜った同士だ。我々は神の使徒なのだ」
「託宣……?」
兵士の話では所属する組織は無いとのことだ。
しかし、自分達を『神の使徒』と名乗った。
「神の使徒って何の話だ?妄想か?」
ちなみにこの国の王女であるサリア王女はコイツ達に拘束されているらしい。
すでに王の間は占領状態だとか。
妖精王は王女を人質にとって地下室に監禁しているそうだ。
どうやらこの集団のトップがサリア王女を妻に娶ろうとしているらしい。
「神の使徒って……、また例の神ですかね?」
「その可能性は高いな。お前、その神とやらは何て名前だ?」
俺は兵士に向かって詰問した。
「知らぬ!頭に直接神の託宣が響いてきたのだ。そして我々はこうして神のご命令通りに動いている、言わば有志なのだ!」
成る程な、ただの頭のおかしい馬鹿共の集まりか。
「そんな不確定な情報で城を攻めおとそうとするなんて馬鹿じゃねえのか?」
「不確定な情報などではない!これは神の御意志だ!」
妙に確信のある目つきで俺を不敵に睨みつける兵士。
まさか、ローグのやつが洗脳でもしてるのか?そもそもそんなこと出来るもんなのか?
俺もこの世界で17年生きているが、洗脳魔法なんてタチの悪い魔法は見たことがない。
しかし、不確定な情報で大胆な行動に出るという症状が昔の俺と全く同じなのだ。
まさか、運命を捻じ曲げているのか?
いや、もしそうなら神の託宣だの何だの言う必要が無い。
「じゃあその武器はどうしたんだ?」
「コレは仲間に金持ちの貴族がいてな、こうして回してくれたのだ」
「ほぉ……」
貴族までこんな事やってんのか。
しかも見た感じ種族は多種多様だ。恐ろしい事に妖精族まで混じっている。
「こんな事して何になる?何が目的なんだお前ら」
「知らん」
「は?」
「知らんと言っている。だが、やらねばならんのだ!」
テロリストかよ。
理由が無いってのはタチが悪いな。根本的な解決が見込めないじゃ無いか。
知らんっていうのはコイツが下っ端だからなのか、それとも誰も知らないのか。
まぁ、操っているのがローグなら一々下のやつに情報を漏らしたりはしないだろう。
俺はこれ以上の追求は無駄だと悟り、尋問をやめた。
「まぁ良い、コイツからはこれ以上有益な情報は引き出せそうに無いな」
「そっすね。じゃあ……」
「ああ、寝てもらえ。殺すなよ?」
「了解っす」
ドスッ!
「あがぁ……」
アスタが兵士の脳天に一撃食らわせ、瞬く間に失神させた。
「こいつらのボスの居場所は王座だったか」
「はい、で、地下室に妖精王がいるとの事っす」
「王なら放って置いて大丈夫だろ。まずは王女を優先だ」
「はいっす!」
俺たちは王の間に向かって歩を進めた。
---
すぐに王の間の扉の前に到着した俺たちはそこで立ち止まった。
まず、いきなり突っ込むのは上策では無い。
少し中を覗いてみよう。
「いやぁっ!お父様!お父様ぁ!」
中から悲鳴が聞こえる。
この声の主がサリア王女で間違い無いだろう。
「フフフ、お主は私の妻となるのだ!フハハハハハ!」
うわぁ、横暴……。RPGの魔王みたい。
いや、この世界の魔王は俺なんだが……。
俺はそこまでフェミニストという訳でも無いが、あの行動は見過ごせないものがあるな。元々王女は助けるつもりだったし、さっさと助けますかね。
「部屋ことぶっ飛ばしますか?」
「それやったら王女もタダじゃすまねえだろうよ。やるなら安全を確保してからだな」
元々半壊している城だ。少々壊れた場所が増えても問題無いだろう。
何故か途中で壊れた箇所が増えたような気がしたが、気の所為だろう。
祐奈の向かった方向が滅茶苦茶になっている気がするが、多分気の所為だろう。
「じゃあどうします?」
「あー、じゃあ……」
「『神聖勇剣』‼︎」
「へ?」
俺が惚けた顔で後ろを向くと真後ろに修羅のような顔で剣を構えた勇者がいた。
次の瞬間には祐奈の輝く剣撃は大広間の扉を破壊していた。
ドガガガガガガガガガガガガガ‼︎
作戦など何も考えていない一撃だ。
コイツ、頭に血が上って中に王女がいる事忘れてるのか?それとも知らないのか?どっちにしろ馬鹿かよ⁉︎
「『雷撃強化』‼︎」
俺は雷魔法で体を強化し、祐奈の攻撃の中、王の間の中へと突っ込んだ。
まずは王女の安全を確保しなければ。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」「ぎゃぁぁぁぁあ!」「ひぃぃぃいぃ‼︎」「ごはぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」「うわぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」「死ぬぅぅぅううう‼︎」「いやぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎」
様々な悲鳴がこだまする。まさに阿鼻叫喚。
って、最後の悲鳴は王女様じゃねえか!
俺が必死に周囲に目を凝らすと、見事に空中をすっ飛んでいた。
一応無傷のようではあるが、このままでは一瞬後には大怪我を負ってしまう。
「ちっ!あのバカ勇者!後で説教だ!」
俺はすぐさま地面を蹴って飛び上がり、王女をお姫様抱っこでキャッチ。
落ちてきたり飛んでくる瓦礫を破壊しながら安全な着地場所を確保し、衝撃を殺しながら無事に着地。
俺はそこでやっと一息ついた。
「ふぅ、無事か?」
「は、はいっ……。た、助けて頂いて……あ、ありがとうございます……!あ、私の名はサリアと言います。貴方のお名前をお聞きしても良いですか……?」
「なに、気にするな。俺はリュートだ、よろしくな」
しかし、今は詳しく自己紹介なんかしている場合じゃ無い。
俺はすぐに祐奈の方向を向いて怒鳴る。
「祐奈!バカかお前は‼︎中に王女がいることわかってなかったのか⁉︎」
「ごめんなさい!分かってませんでした!」
「分かって無いのに攻撃をぶっ放すな!」
「け、結果オーライじゃないですか……、あ……ダメ……?」
「よく分かってんじゃねえか、このアホ!」
俺は祐奈の頭にゲンコツを叩き込む。
「いだぁっ!」
「ったく……、王女に怪我がなかったから良かったものを……。ちゃんと謝っとけ」
「ご、ごめんね?サリア……。その、頭に血が昇っちゃって……」
「い、良いんですよ祐奈様。リュート様が助けて下さいましたから……」
言いながら何だか熱っぽい視線を俺に向けてくるサリア。
あれ……?いや、そんな訳ないか……。
「お姉ちゃん!」
その時、ルーナが俺の抱いているサリアめがけて飛んできた。
「あら、ルーナ。久しぶりね……貴方が無事で良かったわ……」
「お姉ちゃん!怪我は無い……?」
「大丈夫よ。この通り、傷一つ無いわ」
「良かったよお〜」
ルーナはサリアの胸に顔を埋めてワッと泣き出した。
「ま、一件落着か?立てるか?サリア」
「あ、はい。どうもありがとうございました。……」
俺が手を離すと名残惜しそうな表情でサリアがすっくと立ち上がった。
よし、怪我は無さそうだ。
周囲を見渡すと死屍累々って感じだな。
俺たちは全員無事だが、敵さんはそうもいかなかったらしい。
室内で嵐に遭遇するようなもんだからな。
全員意識は無いだろう。
と、そう思っていたのだが、一人だけそうでも無い奴が残っていた。
「貴様らぁ……、我々の崇高なる目的の邪魔をしおってぇ……!許さん……、絶対に許さんぞぉ……!」
一人の若い男がヨロヨロと立ち上がった。
多分こいつが武器を流していた貴族とやらだろう。
そこそこ戦えるらしく、大雑把にはなったとはいえ祐奈の攻撃を防いでいる様だ。
「私は貴族だぞ!この様な所業が許されると思っているのか平民共!」
「お前は自分が王様に喧嘩売ったってこと分かってんのか?」
「黙れ平民!」
「俺は平民じゃねえよ」
王族なんですけど?
俺ってそんなに平民に見える?
「てめえ……!」
「ダバァッ!」
俺がそんなことを考えている間にアスタか貴族の男を血祭りにあげていた。
「誰が平民だ誰がぁ!この方は魔王様だぞコラ!それをよりによって平民だと……?ブチ殺すぞ!」
そう言って何の躊躇もなく強化魔法で強化された拳を顔面に叩き込むアスタ。
しかも鬼の様に表情を憤怒に歪めている。
取り敢えず止めねば。
「落ち着けアスタ」
「ハッ!怒りに我を忘れてたっす……」
「キャラブレてたぞさっきのお前」
「いやぁ、お恥ずかしいっす……」
すると、満身創痍の貴族は不敵な笑みを浮かべて言った。
「フフフ、我々にはまだ最後の手段が残されているのだ……、出でよ古龍種よ!」
「何……っ⁉︎」
古龍種だと……?
『グルアァァッ!』
すると、破壊された城壁に張り付く様に本当に古龍種が現れた。
『グルアオォォォォ‼︎』
咆哮。喋らないのが気になるな。まだ子供なのか?それとも何かされてるのか?
「やってしまえ!古龍種!」
『グアアァァァァァァァ‼︎』
大きく嘶き、古龍種は此方へ襲い掛かってきた。
古龍種は誇り高い種族だ。普通人間の言うことなんて聞かない。
フレイムは庇護心でアクアの事を守ってはいたが、何でも言う事を聞くペットの様な存在ではなかった。
なのに何故、この古龍種は貴族の言う事を聞くんだ?
「くっ!如何します?リュート様」
「ルシファー!サリア王女とルーナを避難させろ!アスタはその貴族を抑えといてくれ!祐奈は俺と古龍種をぶっ叩くぞ!」
古龍種は危険な生き物だ。それに魔法攻撃を阻む強固な鱗を持つ。
多分エルフであるサリアとルーナは相性が悪いだろう。逃げたほうがいい。
と、その時、階下から『ズズン……ズズン……!』と地響きが聞こえてきた。
「まさか……、もう一体いるのか?古龍種が……」
しかし、貴族は首を横に振る。
驚愕……、いや、恐怖の表情を顔に浮かべてひたすら震えているのだ。
「まさか……、そんな筈はない……、奴は拘束していたはず……」
なおも地響きは止まない。目の前の古龍種も不審に思ったのか、攻撃の手を止めた。
そして、次の瞬間、床をぶち抜いて何かがやってきた。
「サリアァァァァァァァ‼︎」
筋肉。
何だこの筋肉の塊は。
目の前で筋肉の塊が咆哮している。怖い。
しかも腕には錠がついており、その先には石材が引っ付いている。
まさか、壁に固定されていた手錠を壁ごと引きちぎったってのか?バケモンなのか?この筋肉は。
「何処だァァァァァァァ‼︎サリアァァァァァァァ‼︎無事かァァァァァァァ‼︎」
「お、お父様!」
「お父様⁉︎」
俺は驚愕の声を上げた。
まさか、この筋肉ダルマが妖精王⁉︎