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転生魔王の異世界征服  作者: 星川 佑太郎
八章 日常編
122/220

日常の終わり


「いやぁ、久し振りに皆に会えて楽しかったな」

「そうだね……、楽しかった……」


アクアも満足気だ。

今は俺はジンを抱いて、アクアはエマを抱いて家路についている最中だ。

二人共ぐっすりと眠っている。


かなり遅くなっちまったからなぁ……。


結局大人は酒が入るとバカになるもので、下戸の癖に呑んだくれた祐奈を家まで送り、その後戻ってジルやミドの相手をし、酒に強いアギレラやメイと共に後片付けだ。

アクアはしっかりと酔い潰れていたが、帰る頃には酔いは覚めていたらしく、今はピンピンしている。


ちなみに酔ったアクアは可愛かった。

本人にその時の記憶が無いらしいのでこのことは黙っておこう。


よく考えたら俺もアクアもまだ17か……。

なんだかんだ言って俺の精神はもう50近い。

それにアクアは年の割にかなり大人びた性格をしている。

そのせいか、俺たちはなんだか熟年夫婦のようになってしまっているのだ。


「リュート」

「あん?」


不意にアクアが手を握ってきた。


俺もその細い手をギュッと握り返す。


「どうした?」

「別に何も……?」

「そっか」


まだ酔いが残っているのか?いつもより積極的なような……?

いや、夜だからかもしれん。テンション上がってるんだろう。多分。


「リュート……」

「……どうした」


アクアが俺の方に唇を向けて目を閉じていた。

今から俺が何をすれば良いのかなんてすぐに分かる。それに、今更この程度のことを恥ずかしがるような間柄でも無いしな。


「ん……」


小さくキスをする。

アクアが声を漏らして俺に体を預けてくる。


「なんだお前達、仲が良いんだな」


夜の木々に紛れてジトーっと俺たちをガン見する神様がいた。

なんかもう見たく無い光景だった。


「覗くな!」

「私は……、別に良いけど……」

「俺は嫌なんだよ」


ミドはスルスルと空中を滑るようにこちらへやってきた。

手には何かしら食べ物を持っているのだろう。口をモゴモゴさせている。


「まったく、初々しいな。夫婦というのは皆そんなことをするものなのか?」

「何だよ、何が言いたいんだよ」

「ジルとメイ夫婦やアギレラとフェリア夫婦も似たようなことをしていたぞ。声はかけなかったがな」

「だから覗くのやめろや!」


彼奴らもいちゃついてたのかよ。そういやカレンもぐっすり眠ってたからなぁ……。

子供が大きくなったらそういうこともやり難くなるのだろうか。


ジル達の方もだ。今日は祐奈が潰れているからいちいち何か言われる心配も無いからイチャイチャしときたいんだろうな。

メイの態度は少し釣れないように見えるが、あの二人はなんだかんだ言ってお互いの事が大好きだからな。


「私も寝るところが必要だ。お前の家に泊まって良いな?」

「お前寝る必要無いだろ」

「寝る必要が無いのと寝ないのはまた違う」

「えぇ……でも今日はやだなぁ……」


俺の意図を察して欲しい。


「別に構わないよ……?」

「…………ま、アクアが良いなら俺も別に良いけどさ……」


残念。まぁ良いか。かなり残念ではあるが。


不意にミドが切り出した。


「リュート。ローグが動き出した」

「なっ……⁉︎」

「妖精界だ。奴は手っ取り早く王家を一つ潰すつもりだ。奴の支配する人間界の王は殺しても意味が無いからな……」


人間界の真の王は昔ローグが滅ぼした。

それでローグは無敵になるはずだったのだ。だが、人族は勇者召喚システムを作り出し、それに対抗した。


「妖精界か……。そこが俺たちが次に向かう場所か……」

「勿論、それはお前の自由だが?」

「分かってんだろ?俺にわざわざ伝えたって事は」

「ああ、そうだ。分かっていた」


ミドは少し自重気味に笑って俺の胸元で眠るジンへと視線を落とした。


「少しその子達を抱かせてはくれんか?」

「お前が抱いたらジンは寝てても泣き出すぞ」

「ム……、じゃあエマだけで良い」

「…………はい」


アクアが抱いていたエマをミドに渡した。


「ふふふ、子供か……。私には産めるのかどうかも分からん存在だ」

「竜人族や古龍種は子供みたいなもんだろ?」

「私は創造したのであって腹を痛めて産んだわけでは無い。アレらも子供には変わり無いがな」


ミドは諦観の念を滲ませながら真っ黒な空を見上げた。

この世界の空はどこも綺麗だ。星々がキラキラと瞬いている。


「エマ……、ジン……。お前達はこれからどうなるのだろうな?私は……お前達の未来が幸福であれば……と、心からそう思っている」


俺たちの今生きている世界は不安定だ。

神とやらがいつでも好きな時に全てを思うままに出来る。


「神に仇なすという事の重みをお前は既に知っているはずだ。もう後戻りは出来ない。いや、お前は生まれた時から既に歩みを止めることを許されていなかったのかもしれないな……」

「……そうなんだろうな。多分」


俺の運命は俺が前世で死んだ時に既に決まっていたのだ。ローグの手によって。

俺と祐奈だけはどこにも逃げる事が許されない。


「この二人が……ローグの良いように扱われるのだけは見たくない。ジンとエマの未来の為にも、俺は戦わなきゃいけない」

「ならば、この生活が長く無いこともわかっているな?」


分かっている。分かっていた。

だが、あまりにもこの一年は幸福過ぎた。


「いつかは終わりが来るとは思ってたさ……ジンとエマが生まれた時からな」


俺はミドからエマを受け取りながら二人の頰を撫でた。

全く……、よく寝ているな。

この寝顔は平和だからこそ見られるものなのだ。


「安寧の時は終わりを告げた。我々が行動する時が来たのだ」

「アクア」


俺はエマをアクアに渡しながら少し笑って言った。


「行ってくる」

「うん……気をつけて……」


ここで「行くな」と言わないのがこのアクアという女性だ。

そう言っても無駄だとわかっているのだ。

アクアが止めても俺は制止を振り切って妖精界へと行くだろう。それを家族の為だと断じて。


「ただ……、怪我しないで、帰ってきて?」

「任せろ」


俺はジンを抱いたままアクアを思い切り抱きしめてキスをした。

アクアはエマを抱いていたので、三人の体温を一遍に感じる。


「ふっ、今日は家族水入らずにしてやろう。私はやはり帰るよ」

「そっか。やっぱりお前は今回の戦いも……」

「ああ、私は干渉せんよ。いちいち他種族の姿を借りる必要があるからな。今は竜人族の姿を借りているのだが、やはりこの姿が一番しっくりくる」

「また人間の姿を間違えて借りたりすんなよ?」

「私を馬鹿にするな。二度とそんな事はせん。……ではな」


そう言ってミドはその場から一瞬で姿を消した。


「帰ろうか」

「…………うん」


俺たちはその後、どちらからともなく手を繋いで家路に着いた。

そういえば小さい頃からアクアとどころか、誰かと手を繋ぐなんてやったこと無かったな……。


俺たちが家へと入って行った時、ジンは俺の手を強く握り締めていた。

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