家族
俺がアギレラの家に行くとそこは何というか阿鼻叫喚。
「ふええぇぇぇぇん!ふええぇぇぇぇん!」
まず泣き叫ぶジン。
そして何故かはわからないが、ジンが泣くと決まってエマも泣き出すのだ。
「うえええぇぇぇぇ……!」
双子だからだろうか、少々離れた場所にいようとも片側が泣きだすと必ずもう片側も泣き始めるのだ。
「びええええぇぇ!」
しかもオマケとばかりにアルバまで号泣している。
で、何で泣いているのかというと。
困り顔のミドが3人を抱えてこちらに視線を送ってきている。
その隣ではジルがニヤニヤと笑っている。本当にニヤニヤ笑いの似合う野郎だ。
「うん、知ってた」
そんな上手くいくはずがないのだ。
ジンは何故かあまり人に懐くタイプじゃない。
今の所抱かれても泣かないのは俺とアクアとフェリアと祐奈だけだ。
しかし油断していると魔力を吸われるので基本的に俺が面倒を見ている。
ここで都合よくミドも大丈夫かと思ったのだが、やはり無理か。ミドは神だから少々魔力を吸われても大丈夫だろうし、俺も楽が出来るかと思ったのだが。
エマは誰が抱っこしても大丈夫で手掛からないのだが、ジンが泣き始めると話は別だ。
アクアがミドからジンを受け取って何とかあやす。
エマは祐奈が抱っこしている。
アルバはジルの腕の中だ。
しかし祐奈は赤ん坊の扱いが上手いな。
「ミドもダメか」
「ムムム……私が抱いた途端に泣いてしまった……、やはり私は怖いのだろうか……?」
本気で気にしている様子でかなり落ち込んでいるご様子。
確かにオーラのような威圧感をビシビシ放っているが、エマもアルバも別に怖がってないし、単純にジンの好みの問題だと思うがなぁ。
「ほぅらジン。お父さんだぞ〜。おら、泣きやめー」
アクアからジンを受け取ってご機嫌取りだ。
この1年間で俺も慣れたもんだ。
まあ基本的に家にいるからな。俺は。
ニードじゃねえし!ちゃんと仕事はしてるよ!偶に……。
俺がジンを高い高いしているとジンは機嫌を直したようで穏やかな表情に戻った。
こんな事してもジンはキャッキャ言って喜んだりしないから喜んでるのか嫌がってるのか分かりにくいんだよなぁ。
ちなみにエマはキャーキャー言って喜ぶ。
「お前達、料理の準備は出来たぞ。遊んでないで入って来い」
その時、フェリアが丁度準備を終えたらしく窓から顔を出した。
本日の料理当番はフェリアとベルとリーシャが担当している。
フェリアは流石にここで生活して長いので肉料理も作れるようにはなっているのだが、口にするのは無理らしい。
しかし、その娘であるカレンは別にそんな事はない。食欲旺盛な所はしっかり父親から受け継いでいる。
ベルは料理用に炎魔法の火力調節が上手いのでよく駆り出されているのだが、料理の腕自体はイマイチである。
リーシャの料理は一番付き合いの長い俺が太鼓判を押す美味さだ。
しかし、本人が言うには最近俺の家でアクアの飯を食うばかりなので自分で作らない分腕が落ちてきているらしい。
「おい、リュート」
その時、ミドが俺の服をちょいちょいと引っ張ってきた。
そう言えばフェリア達はミドと面識ないもんな。
「分かってる、紹介するって。皆、この人は竜人界で俺たちを助けてくれたミドだ」
「よろしく頼む」
俺はミドのことを手短に紹介した。ミドも俺の紹介に合わせて小さく会釈した。
こういう所は一応、常識わきまえてるんだな。
「その節は本当にありがとう。今日は祝いの席だ、存分に食べて行ってくれ」
「おお、すまないな」
にこやかなフェリアのセリフに感激した様子だ。
「あ、ミドさん!久し振り!来てたんですかね」
「祐奈か、腕の具合はどうだ?」
「ちょっと不自由ですけどね。まぁ大丈夫ですよ!」
そうだ、祐奈はハデスとの戦いの最中、左腕を失っているのだ。
『神聖勇剣』発動時のみ光によって左腕を補完できる。
つまり、日常生活は片腕で過ごさねばならないのだ。
「流石になくなってしまった腕は私でも治せない。いや、正確には治すことを許されていないのだが。すまないな」
「いえいえ、ミドさんが気にすることじゃ無いですよ」
やはり当初はずっと気にしていたが、一年の間に本人は吹っ切れたようだ。
「ねえメイ〜、お姉ちゃん左手使えないから食べさせてー」
「お姉ちゃん右利きでしょ。私アルバの面倒見なきゃ」
「じゃあルーナ〜」
「ごめんね、ユーナ。私エマの面倒見るから!」
ははは、振られてやんの。
「ユーナ、俺が食わしてやろうか」
「黙れ!あんたに食わされるくらいなら自分で食うわ!」
「ごはぁっ!」
ジルが調子のいいことを言ってど突かれる。ここまでテンプレかよ。
「じゃあ私が食べさせてあげる……。ユーナ、あーん……」
アクアがフォークで肉をぶっ刺して祐奈の口元に持っていく。
「え、いいの?あ、むぐっ……ムグムグ…….おいし〜!」
パァァッと花が咲くように笑顔になる祐奈。まるで子供だな。
「おい、ジンは?」
「ベッドで、寝てる」
「あ、ホントだ」
ジンは昔カレンが使っていた子供用ベッドの中でスヤスヤと就寝中だ。
こういう所、手が掛からなくて楽だな。
「む、美味い。私はリョーマの飯しか食べた事がなかったが、こちらの方が美味いな」
ミドが骨つき肉を骨ごとバリバリやりながら言う。やめなさいよ、みんな少し引いてるから。
「その程度俺にも出来る」
「やらんでええ」
謎に張り合って骨をバリバリと齧るジルに突っ込みのチョップ。わざわざ骨だけ齧らんでも良いわ。
ちなみに俺も出来る。
「これ一応ジンとエマの誕生日って名目なのにジン寝てたら世話ねえな」
「1歳じゃあ仕方無いだろ。まだあいつら喋れもしないんだから」
ジルがジンの寝顔を見ながらバリボリと骨を齧る。良い加減やめろと言うのに。
確か赤ん坊ってのは1歳半くらいで何かしら言葉を話すようになるらしいが、実際の所はどうなのだろうか。
パパとママどっを先に呼んだか、という問題は大体の夫婦の争点になる。
俺も積極的にパパと教えておくべきだな。生憎、暇だけは腐る程あることだし。
「ジンは寝てるし……、エマ〜」
ぐっすり寝ているジンを起こすのは忍びない。俺はルーナの膝の上に座っているエマを抱き上げた。
キャッキャ言いながら俺の顔面をぺちぺちと叩く。楽しげな表情をしているので俺はエマをそのまま抱っこ。
高い高いをしながら「パパだぞー、俺はパパだぞー」と暗示しておく。
「あぅ」
げしっ。
顔面に娘のキックがクリーンヒット。
しかし、俺はめげないぞ。
「ほぅら、パパの高い高いは楽しいだろ〜」
エマは俺がポンポン高い高いをするとキャッキャと喜ぶ。
ちなみにさっきも言ったが、ジンも喜んでくれるので俺は割と高い高いは積極的にやる。
「リュート。食べてないでしょ……?エマは私が面倒見る」
アクアが高い高いしている俺からエマを取って行った。
ははん、エマを取られたく無いわけだ。
やっぱりアクアも最初に話す言葉はママが良いんだな。俺と同じこと考えてるってわけだ。
しかし、アクアはエマの額に自分の額をくっつけてこう言った。
「エマ?パパは私のだからね?とっちゃダメだよ?」
そっちかよ。
嬉しいけどさ……、そっちかよ。
「おりゃ、パパはみんなのもんだ!」
俺はそんなやり取りをするアクアとエマが可愛らしくて二人揃って抱きしめた。
「うえぇぇ……」
すると、仲間外れにするなとばかりにジンが泣き始めた。
「おお、ジン。お前も混ざりたいか」
俺は泣き始めたジンを抱き上げてアクアとエマと一緒にギュッと抱きしめた。
すると、ジンは満足した様に泣きやんだ。
寝てたくせに俺たちのことが見えてるかの様なタイミングだな。
「リュート、それ毎日やってんのか?」
「流石に毎日はやらんわ。週に5回くらいかな……」
「いや、それってほぼ毎日じゃねーか」
だって誰か一人だけにやると他の二人が拗ねるんだから仕方ないだろ。
「俺もやって良いか?メイ」
「良いけど、そこにお姉ちゃんいるよ?」
「構うもんか」
ジルはそう言ってアルバを抱いているメイを抱き締めた。
その後ろには般若みたいな形相の祐奈が。
あ、でも我慢してる。血涙流しながら我慢してる。成長してるんだなぁ、祐奈も。
「ルーナ〜!」
「はいはい、ユーナは甘えん坊さんだね」
どうやら耐えかねた様で祐奈がルーナの胸に飛び込んだ。
ルーナも慣れた様子でよしよしと祐奈の頭を撫でる。
「お前らそれ家でやれよ」
アギレラの小さなツッコミが聞こえた気がしたが、気のせいだな。
此度は大変申し訳ありませんでした。毎日カレンダーを見ることにします