二つの始まり
決意を固めたは良いが、明日からどうやって生きていくんだ?
そもそも俺たち2人だけでどうやって生きていけばいいんだ。目下住む家と食べる物が無いのに。
俺は大学時代から一人暮らしだったから一応昔は自炊してたのだが、ここ8年ほど(ようするに転生してから)家事なんて一切してないな。
しなくても余裕で食って行けたし。
……これだからボンボンってやつは……。
……多分アクアもやった事ないんだろうな……。
「アクア、家事ってやった事ある?」
「炎魔法は……あんまり……。でも、水魔法ならすごく得意……」
あれ……なんか的外れな事言ってる……。
完全に家事と火事を間違えてるだろこれ……。
「違う違う。料理とか、洗濯とか、掃除とか……まぁ、そんなやつを家事っていうんだけど……」
「そっち、か……。わた、し……出来る……よ……?」
「え、出来んの?」
「うん、やり方、分かる……」
まさかのこのロリっ娘、家事万能キャラだったの?
自分がショタである事を完全に棚に上げているが。
しかし、料理どころか食い物がほとんど全滅していたので今日のご飯にすら困る有様である。
これでは料理もへったくれもない。
「リュート……これ……」
アクアがひしゃげた食料庫を見つけてきた。
これは食料庫兼冷蔵庫でとても寒いのだが今はそんな事なかった。
中の食材は無事かな……?
結論から言うとあんまりたいしたものはなかった。
扉がひしゃげていて開けるのにかなり苦労したのだが、保存用に塩まみれになった干し肉と大量のチーズに少しのお酒が残っていた程度だった。
とはいえ、流石は食料庫……頑丈だ。
でも俺たちは酒飲めないし……どうするかなぁ……酒。
俺の味覚も変わっているのか、酒が苦くて飲めたもんじゃないのだ。
昔は仕事終わりの一杯が大好きだったのにな……。
酒には他に何か使い道があったハズなんだが……生憎、忘れてしまった。
取り敢えず俺は干し肉やチーズなどの大量の保存食を袋に詰め込んだ。
「当面はコレで食いつなげるだろうけど……これからどうしようか……」
「困った……ね……」
少し辺りを探してみたのだが、水が無い。
コレは困った。水が無かったら干からびて死ぬぞ。
「水は?やっぱ無かったか?」
「水なら……魔法で出せるよ……?」
キョトンとした様子でアクアは水を出して見せた。
それはそれは、ドバドバ出てくる出てくる。
「お前……便利なやつだな……」
「それ程でも……まぁ、あるけど……」
「別に褒めてないからな」
俺たちの普段食っていたメシは街で買ったり、森で狩ったりしてたらしい。
森で狩りをするのか……俺もアクアもある程度は魔法を使えるし、ちょいと行ってくるかな。
普段から非常食ばっか食うのもどうかと思うし。
てなわけで森に狩りに行く事にした。
数時間後……
「ダメだ……疲れた……ハラヘッタ……」
「上手く……いかない、ね……」
「あん時お前が上手く水魔法でサポートしてれば……」
「リュートがポンコツだからダメなの」
「んだとぉ⁉︎イキナリ流暢に毒吐きやがって!」
オレ達は責任のなすりつけ合いをしていた。
結果から言うと全然だめだったのだ。
狩りなんてやった事無いんだから当たり前といえば当たり前だが。
小動物なら……とか思ったけど、アレは完全に無理ゲーと化していた。
てか、速すぎだろアイツ等……。
無駄に腹を減らしたオレ達はぶっ倒れながら干し肉を齧った。
塩気が効き過ぎていてあんまり美味しく無かった。
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同時刻 人間界 王都
王城の一室は妙に騒がしかった。
「召喚門が輝き始めたぞ!」
「まさか……⁉︎」
召喚門が輝きを取り戻すと門の再使用が可能となる。
しかし、勇者は同時期に1人しか存在できないのだ。
つまり、召喚門が輝きを取り戻すという事は勇者の死を意味する。
その意味を理解した、辺りの人々が騒めきだす。
「まだ、魔王の討伐報告を受けてないぞ!」
「世界の終わりだぁ!」
その時、1人の禿頭の大臣が静かに前に進み出た。
「静粛に……勇者が死んだのなら落ち着いて次の勇者を召喚しましょう……世界の平和の為に」
その通りだ。
勇者とはこの世界の人間ではない上に、何度でも替えが効くという素晴らしく優秀な戦士だ。しかも、魔王を倒すほどの戦闘能力を持っている。
こちらとしては何の損害もないのだから、何度でも召喚すれば良い。
「おお……そうですな……では、すぐにでも術式に入りましょう」
「それが宜しいでしょう。では皆様、魔力を……」
十人ほどの魔法使いが円を描く様に並び、召喚門に向けて魔力を一気に放出する。
『神の御業たる勇者よ……今こそ悪鬼を滅し、我等が世界を救い給へ!』
召喚門の輝きが更に大きくなる。
「くるぞ……新たな勇者が……‼︎」
光が収まった。
召喚門が開き、中から1人の女性が入ってきた。
その女性は、女性というより女の子と言うべきな、少し幼さを含んだ顔立ちをしていた。
部屋の一同は新たな勇者に平伏した。
「お待ちしておりました!勇者様!」
「へ……?勇者……?」
何処かの高校の制服に身を包んだ新たな勇者の女の子は状況がイマイチ飲み込めないでいるのか、キョトンとしていた。
「いやいやいやいや……ドッキリ……?これはないわー……」
魔王は強いけどポンコツです。