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転生魔王の異世界征服  作者: 星川 佑太郎
八章 日常編
116/220

ジンとエマ


ミドと別れてから約一週間が経過した。

俺たちはやっとカイル村に帰ってきたのだった。

道中いろいろあったが、何とかシャガルから一週間以内に帰って来ることが出来た。

今回の旅は行き帰りで大体三週間弱かな。


「やっと帰って来た〜!やっぱここは空気が美味いっすね〜!」


アスタが馬から降りて深呼吸しながら伸びをした。

後ろからはジルも続く。


「悪かったな、俺の地元は空気が悪くって」

「何のことっすか〜?誰もそんな事言ってないっすけどぉ〜?」


お前ら相変わらず仲悪いな。良い加減仲良くしろよ。一緒に強敵と戦ったら戦友じゃないのかよ?

それに、シャガルの空気が濁ってたのはハデスの毒の仕業だろ。


「はぁ……」


ジルは溜息を吐いて虚ろな目をしながら馬から降りた。


何故かと言うとこれから祐奈達と家族会議があるからだろう。

あの話の通じないバカ姉と会話が成立するのか疑問だ。そりゃ憂鬱だろうな。誰だって嫌だ。俺だって嫌だ。


俺がアクアと結婚する時は別にそんな障害なんて無かったしな。

最近は嫁の事を放ったらかして他の事ばっかりやってたからな。もしその手のややこしい親父がいたら俺はどうなっているのだろうか。


「よう、リュート。無事だったか」


村の奥からアギレラがやって来た。しっかりとカレンもついて来ている。


「おにーさーん!おっかえりー!」

「うぐふっ!」


いつもの金的ハグ。

カレン。これ以上お前のパワーでそれをやられ続けたら俺の息子の元気が永遠になくなるからもうヤメロ。


「カレン……ダッシュしてハグはやめなさい……。痛いから」

「はーい!」


元気よくお返事するカレン。

本当に分かってるんだろうな?


「まあ、俺との話は後でいいか。リュート、アクアが待っているぞ」


アギレラがカレンを抱き上げながら言う。

カレンはアギレラの頭の毛をがっしりと掴んでいるが、痛くないのだろうか。


って、そうだ。そんな事より早く嫁に会いに行かねば!


「ああ、行ってくる!」

「おにーさーん!あとでねー!」

「おう!後で遊んでやる!」


俺は大きな声でカレンに返事を返し、走った。

そして、俺はダッシュでアクアの待つ家に向かい、勢いよくドアを開けた。


「アクア!ただいま!」

「おかえり、リュート」


アクアは柔らかく微笑みながら暖かく出迎えてくれた。


両手に双子の赤ん坊を抱きながら。


「あ……え……あ……」


俺はあんぐりと口を開けてその場でフリーズ。

どうやら間に合わなかったらしい。


「子供、抱いてあげて?」

「あ、うん」


アクアは全く意に介していないようだった。

双子は男の子と女の子だった。異性の双子とは珍しい。

俺は少し思考がフリーズしていたが、子供を抱いた途端に一気に頭が回転し始めた。


「すまんアクア……。間に合わなくって……」

「ううん、気にしてないよ」


アクアは相変わらずふわふわとした雰囲気だ。

親になったとはいえ、人ってすぐに変わるもんじゃない。俺はちゃんとこの二人の親としてやっていけるのだろうか。

少しの不安が俺を襲う。


「ま、リュートくんが来たってクソの役にも立ちゃしなかったけどね!」


横からひょっこりとシエルが顔を出す。

あんたまだ見た目は若いんだからクソとか言うなよ。あんたに対するイメージがどんどん下降していくぞ。


「リュート。名前……考えて来てくれた?」

「任せとけ!めっちゃ考えてるから!」


実は本当にめっちゃ考えてた。

アギレラとフェリアの間ににカレンが出来た頃から俺は自分の子供が生まれたらどんな名前にしようかと悩むようになったのだ。

そして男ならこうとか、女ならこうとかいろいろ考えたのだ。

俺はやはりこの世界で生きていく上で不自然の無い名前であり、尚且つ日本でも通る名前が良かったのだ。


俺の子供は双子だったので同性の子供が二人できると思い、その分候補も沢山考えた。


だが、男女の双子だ。俺がずっと温めていた名前をつけようと思う。


「男の子ならジン。女の子ならエマ。そう決めてた。どうだ?」

「うん、いい名前……。ふふ……ジン、エマ……、お母さんだよ……?」


アクアは嬉しそうに表情を弛緩させながらゆらゆらと双子を俺から受け取って揺らした。

エマはきゃっきゃと笑っているが、ジンは気付いていないのかずっと寝ている。ぐっすりだ。

手が掛からなくて助かるが。


俺は口をすぼめながら起きているエマに顔を近づけた。

ジンは寝ているので寝かせておこう。


「おーい、お父さんでちゅよー」

「うー」


ぺちん。


エマにビンタされた。


「あれ、もう思春期なの?」


もうお父さんが嫌いなの?

頰は痛くも何ともなかったが、なんだか心が痛かった。


「あぅ」


すると、エマがよしよしをするように俺の額の辺りに手を置いて撫で始めた。

まだ生まれたばかりで撫でれているのかどうかすら微妙なラインだが、これは撫でてくれているのだ。多分。


「ふふ、ごめんなさいって言ってる……」


アクアがエマの頰をプニプニとつつく。

可愛いな。愛らしいな。

何だか触りたくなってしまったのでジンの頰をつついてみた。


「ふぇ……うぇえ……」


あかん。泣き出した。


「リュート……。ジンは寝てたのに……」

「すまん……!」

「アンタら、突っ立ってないで座れば?」


シエルが机に突っ伏しながらこちらを見て言った。

俺とアクアは玄関でずっと赤ん坊をつついていたのだ。

本当だ、何でこんなとこに突っ立ってたんだろ。


「ほらー、ジン〜、泣くな〜」


俺は頑張ってあやそうとするが、なにぶん慣れていないので上手くいかない。

一応前世では弟がいたのだが、年子だったので生憎と弟が赤ん坊の頃の記憶が無い。


「リュート、エマ持って」

「あ、おう」


アクアがさっとエマを俺に押し付けてジンをゆらゆらと揺らしてあやし始める。

母親ってのは子供のあやし方が遺伝子に刻まれてるのか?


「全く、上手いもんだな。なー、エマ」

「あぅー」


ぺちん。


またビンタされた。

どうやらこれは初めて見るものに興味を持って手を出した結果によるものらしい。

エマは何にでもビンタする。


つまり俺はまだ嫌われていないという事だ。やったぜ。


ぺちぺちぺちぺちぺち。


良い加減やめてくれないかな。


エマもその内「お父さんの服と一緒に私の服洗濯しないで!」とか言い出すんだろうか。

それ言われたら俺凹んで死ぬぞ。でもこの世界洗濯機ないんだよな。水魔法で丸洗いだ。

ジンは俺に「うるせえクソ親父!」とか言うようになるのだろうか。

いや、俺はそういうタイプの人間じゃなかったし、その点は多分大丈夫だろう。多分。


「また、ずっと未来の事を心配してるんじゃ無いの?」


シエルがニヤリと笑いながら茶化してくる。


「う、うっせーな。良いだろ」

「ま、勝手だけどね。それよかジンくんとエマちゃん可愛いねぇ……。やっほー、シエルお姉さんですよー」

「お姉さん……?」

「ぶっ飛ばすよ?リュートくん」

「ごめんなさい」


笑顔怖い。条件反射で謝ってしまった。

でもアギレラの実の姉がお姉さんを名乗るのはやめて欲しい。

獣人族故に老化の進行が遅く、まだ見た目は若々しいがそれでも年はそこそことっている。

いい歳して「お姉さん」はやめて欲しい。マジで。


「リュート。ジン……寝た」

「もう寝たのか。お前は俺に似たのか?」


ちなみに俺の寝つきはかなり良い。

数年間社畜やってたから寝られる時にすぐ睡眠に入れるように体が適応したのだろう。

あと立ったまま寝られるという特技も持っている。これは電車のつり革につかまりながらうたたね寝してた結果である。


「エマはずっと起きてるね……。元気が有り余ってる」

「俺に似たのか」

「エマは私似」

「顔はそうだな。女の子だし、お前に似てる方が良いさ」


エマは多分美人になるぞ。

生まれたばかりでまだよく分からんが、多分アクアに似てるんだろう。


エマの髪はアクアの様な鮮やかな青では無く、少し黒っぽい紺色のような色合いの髪色をしている。

ジンはと言えば完全に俺の髪色を受け継いでおり、まっ黒髪だ。

顔の方は生まれたばかりで何とも言えないが。しかし二人ともそっくりだ。双子だからかな?

でも赤ん坊って皆似たような顔に見えるんだよな。


エマは多分性格はアクアより俺に似てるのだろう。

好奇心旺盛で何にでも手を伸ばす。さっきからアクアの髪をひたすら引っ張り続けているし、シエルのカップを早速割ったし。

逆にジンはさっきからずっと寝ている。

大人しいという点で言えばアクアに似ているのだろうが、なにぶんずっと寝ているので性格がよく分からん。


「ジンはリュートに似てカッコよくなる」

「そんな誉めんなよ……褒めても何もでねえぞ?」

「……ん」


アクアが不意打ちで俺にキスしてきた。

軽く触れる様なキス。かなり久し振りな気がして顔が赤くなってしまった。


「おーい、目の前でいちゃいちゃするなー」

「す、すまん」

「上行こっか……」

「いちゃいちゃはし続けるのね」


シエルが目の毒だそうなので俺たちは自室へ。

この家俺たちの家じゃねえんだよなぁ。

新しい家族もできたし自分の家欲しいな。


「ジンは大人しいね……。なんだか心配になってきた……」


階段をゆっくりと登りながら心配そうにジンを見つめるアクア。


「泣かなかったら心配だけど、泣く元気はあるみたいだし多分大丈夫だろ」


俺は楽観的に言った。

しかし俺も内心は心配だった。

赤ん坊ってこんなにずっと寝てるもんなのか?

エマみたいにずっと起きて遊んでるのも珍しいだろうが、こんなに真逆の行動をとるもんなのか?


「あっ……!」


その時、アクアが階段から足を踏み外した。


ヤベッ……!


俺は両手でエマを抱えていたが、右手にエマを抱き寄せ、空いた左手で体制の崩れたアクアを支える。

何とか落ちずにすんだようで俺の胸に収まるアクア。


「どうした?体調悪いのか?」


何もないところでこける事は偶にはあるだろうが、子供を抱えている時は嫌でも注意深くなるものだ。


「分からない……。突然力が抜けて……」

「何……?」


突然力が……抜ける……?


「一体何が……」

「うぇぇぇ……ふぇぇぇん……」


ジンが泣き始めた。

エマも俺の右手から身を乗り出すようにしてつられるように泣き始めた。


「うええ……うえええええええ‼︎」

「おいおい、どうしたってんだ二人共……。ほらほらよしよし……」


俺は慣れない手つきでエマをあやす。


「アクア、立てるか?ほら、掴まれ」

「う、うん……、あぅっ……」


アクアは俺の手に掴まるも、その場にへたり込む。

どうやら腰が抜けているらしい。仕方が無いな。


俺は右手にエマを抱いたままジンを抱っこしているアクアを片手で抱き上げ、階段を駆け上がった。


しかし、すぐに足が止まった。


……何故だ……?力が抜けていく……。


この感覚……。何者かに魔力を吸われてるのか?一体誰だが…?


魔力を吸う能力なんて『魂喰(ソウルイーター)』以外に見たことが無い。

それを使えるのは俺と爺さんだけだ。そして爺さんは今、髑髏の中で休眠状態にある。

つまり俺が無意識に『魂喰(ソウルイーター)』を使用してアクアから魔力を奪っているという事が無い限りこの様な現象は起ころうハズもないのだ。

しかし、勿論俺はそんなことしてない。


まさか……。


「お前がやったのか……?ジン」


ジンの年齢から考えてそんなハズは無い……。この子はまだ生まれて間も無い赤ん坊だ。だが、そうとしか考えられない。


アクアが階段を踏み外した時も、俺の魔力が吸われた時も、どちらもジンを抱いていた時に起こった事だからだ。

そして俺とジジイ以外で『魂喰(ソウルイーター)』を使える可能性を持つのはジンとエマだけだ。


「ううぅ……うぇぇ……」


既に泣き止んで静かになっているエマとは対照的にまだジンはベソをかいている。


「ミドに聞く事が増えちまったな……」


取り敢えずすぐに相談できる奴に話しだけでもしておくか。


明日にでもルシファーに相談しようと決めて、俺は誰にもその事を言わずにその日を終えたのだった。

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