五界神
「フレイムってガキの頃どんな奴だったんだ?」
俺は少し気になったので聞いてみた。あいつの生まれたての頃なんて全く想像もつかない。
「ん?いやぁ……別に他の古龍種と特に変わりはなかったと思うぞ?全てにおいて未熟で……放っておいたら今にも死んでしまうのでは無いかと思ったものだ……」
まるで昔を懐かしむように、いや、事実懐かしんでいるのだろう。
目を閉じてうんうんと頷いている。
ああいう強い種族に限って子供の時は弱いって相場は決まってるからな。
まあ、少し成長しただけで尋常じゃ無い程強くなるんだが。
「元々私は卵など拾うつもりは無かったのだ。当時から私の生きるスタンスは『地上の物事にはなるべく関わり合いにならない』というものだった。それが信条だった」
「じゃあ何で拾ったんだよ?」
「お節介な男がいてな……、私は当時一人の人族の男と生活を共にしていたのだ。今からは……50年以上は前だったな……」
ミドは目を細めながら空を仰いで呟くように言った。
人間の男と?
なんかラノベでよくありそうだよな。それ。
人間と神の恋って……。
「あ、勘違いするな?別に夫婦であったわけでは無い。奴は……そうだな……、只の居候だ。気がついたら私の家に住み着いていたネズミだ」
ネズミとは酷い言われようだぜ。どうせ好きになったんだろ?
ちなみにコレは恋愛脳とかじゃ無い。直感だ。
何故なら、男の話してる間のミドの表情は何だかとっても柔らかいものだったからだ。
「その男はヤトガミ・リョーマと言ってな……。変わった話し方をする男だったなぁ……。奴の所為でダークネスフレイムまで変な話し方をするようになってな……」
そこで関西弁か。って事はヤトガミ・リョーマは異世界人……。
異世界人って事は、まさか、勇者として召喚されたのかもしれない。
「ダークネスフレイムって名前は、そのリョーマさんがつけたのか?」
「ああ、その通りだ。中々格好の良い名前だろう?」
アンタもそういう感性の持ち主なのな。
そりゃそんな厨二な両親に育てられれば子供も厨二になるわ。
「その、ヤトガミ・リョーマって勇者だったのか?」
「いいや、奴はお節介なだけの只の人間だった。少なくとも勇者になれるほどのポテンシャルを持った存在では無かったよ。魔法の才能もてんで無かった」
どういう事なんだ……?
勇者じゃなくてもこの世界にこれるのか?
ヤトガミ・リョーマ……。多分日本人だ。ヤトガミって名字は珍しいが、リョーマという名前は特に珍しくも無い。
名前からしてこの世界の人間では無い。では、どうやってこの世界に来たんだ……?全く……、また謎が増えやがった……。
俺はもう1つ気になっていた事があるのだ。
俺はミドの表情がかなり和らいだのを見計らい、問いかけた。
「そういやすげえ気になることがあるんだけどさ」
「なんだ?」
「お前、今までどこで何してたんだ?」
「……………………」
おい目を逸らすな。
「いつの間にかいなくなってたよな?」
俺がそう言うとミドは深くため息を吐いて話し始めた。
「私は地上の揉め事にはなるべく関わり合いにならんようにしていると先程も言っただろう。だから、今回も傍観を決め込もうとしていた。しかし、ハデスのクソガキが私の領域まで地獄に堕とそうとしていたのでカッとなって手を出したのだ」
「ガキかよ。まぁ、そのお陰で俺たちは助かったんだけどさ……」
ハデス……。俺たちだけを殺してりゃよかったのにな。あ、でもそれじゃあ俺が死なねえか。
しかもクソガキ呼ばわりとは……。この女。つくづく思うがバケモンだな。
「じゃあ初めて会った時になんでお前倒れてたんだ?お前強いんじゃないのか?」
「む……、あの時にも深い事情が有ったのだ……。まぁ、聞くがよい」
なんだか勿体つけて話し始めるミド。
「我々神は基本的に天界という場所に住んでいる。ちなみにお前達の住んでいるところは下界とか地上とか呼ばれている」
「おぅ、それは知ってるけど」
そして神々が俺たちを見下してるのも知ってる。
まぁ、お前がどうかは知らんがな。
「我々神は下界に降りる時に特に戦闘行為を行う気が無い場合は地上の存在の姿を借りるのだ」
「え、なんで?」
そこが分からない。何故わざわざ自分の存在を偽装するんだ?
「我々神は存在するだけで異様な量の神聖力を放っている。あまりこのままの姿で下へと降りると世界のエネルギーバランスが崩れかねないのだ。しかし、地上の存在の姿を借りることで、自分の力を抑えた状態で下界に降りることが出来るのだ」
「その割に俺はよく神と遭遇するけどな」
パワーバランス崩れまくりだろ。
「普通神は地上の存在と出会ったりはせん。観光する酔狂な奴はいるが、それも地上の存在の姿を借りていく」
「つまり俺の抱えてる事情が特殊だって事か?」
俺の質問にミドはビシッ!と指をさして答えた。
「その通りだ。で、私は間違えて人族の姿で下界に降りてしまって、毒にやられてしまったのだ」
「バカだろお前」
ガチで滅びる5秒前だったのかよ。
俺たちと出会わなかったら龍神死んでたのかよ。
「あの時は死を覚悟したものだ……」
遠い目をしながら呟くミド。
いや、あっさり死を覚悟してんじゃねーよ。
そんなつまらん理由で神が死ぬなよ。このポンコツ龍神め。
「さて、質問は終わったな?私もお前に借りは返したし、ここに長居する理由も無い。ではさらばだ」
「あ、ちょ、ちょっと待ってくれ!」
足早にこの場を去ろうとするミドを俺は急いで引き止めた。まだ聞きたいことが山ほどある。
さっき「1つ質問いいか?」とか静かに聞いたけど嘘。完全に嘘。
せっかく話の通じる神様に出会えたんだ。俺の疑問を一気に解消したい。
「まだ聞きたいことがあるんだ。頼む!教えてくれ!」
「む……、まぁ、良いだろう……。話すが良い」
何だか普通に聞いてくれるらしい。実はチョロ……優しいんだな。
---
「まず、奴らが何故俺を狙っているかわかるか?何故か奴らは俺だけじゃなくこの世界の王様を全員殺そうとしてるらしいんだが……」
「フム……、やはりお前たちは何も知らんのだな……。まぁ、それも当然か……地上の存在が真実に気づくはずも無い」
何だか含みのある言い方だな。
「私も……聞かせて下さい……」
その時、祐奈が立ち上がった。
ジルとアスタはまだ寝てるのにもう起きるとは……。
と、思って二人を見てみると気持ち良さげに寝息を立てていた。コイツら……気絶してるんじゃなくて寝てやがる……!
「そうだな、お前にも聞く権利がある。事に祐奈よ。お前はリョーマによく似ているな……」
「え?顔がですか?」
おいおい。まさか、親戚だったりするのか?
「いや、顔は似ても似つかぬ。だが、瞳の色、肌の色、髪の色、どれを取っても同じだ。そんな人間は長い事生きているが一度も見た事が無い」
祐奈と俺は驚いて目を見開いた。
しかし、よくよく考えたら俺も祐奈と同じ、つまり日本人顔の人間を見た事が無い。
「確かに黒髪の人間はいる。黒い瞳の人間もいる。お前のような肌の者も確かにいる。だが、それら全てを持ち合わせた人間を私はリョーマ以外に知らない」
確かにそうだ。
俺の顔だって転生してから長い事経つのですっかり慣れてしまったが、どう考えても外国人顔だ。
それは仲間たち全員に当てはまる。
「まさか、お前はリョーマと故郷を同じくしているのでは無いか?お前は奴の言っていたトーキョーとかいう街の生まれなのか?」
一応そんな話はしてたのか。
そういや祐奈の住んでたとこの話なんてした事なかったな。
ちなみに俺も昔は東京住みであった。あんまり家に帰らなかったから近所付き合いとか殆どして来なかったけど。
まさか異世界で魔王やることになるなんてあの時は微塵も思ってなかったなぁ……。
元々インドア派の俺がこんなにムキムキになるまで身体鍛える事になるとは……。人ってのは変わるもんだ。
おっとと、思考が脱線した。
「あ、はい。私も東京に住んでました。その、リョーマさんはもうおられないんですか?」
「ああ、何十年も前に死んだ。まだ奴も若かったのだが……」
「あ、その……ごめんなさい……」
「なに、気にするな」
ミドは優しく微笑んだ。
「さてと、前置きが長くなってしまったな。まず、何故神々がお前たち王を狙うのか。それは、王の存在する意味にあるのだ」
王の存在する意味……?
「それって……、何です?」
「王とはな……、地上で唯一、神を滅ぼすことのできる存在なのだ」
「滅ぼすって……殺すって事かよ?」
「まぁそうだな。神々を殺すことができる人間。それが王だ」
そもそも神って地上の存在には殺せないのかよ。
つまり仲間内で神を倒せるのが俺だけという事になる。
理論上ルーナも神を倒せる事になるが、ルーナじゃあ魔力不足だろう。地力が足りなさすぎる。
俺でも再生能力があるにも関わらず何度も死ぬような目にあっているのだから。
「でも、何で王が神を殺せるんだ?」
「五界神。勿論聞いた事はあるな?」
「「ない」」
ガクッ。
ミドがその場につんのめって体勢を崩した。
「何故聞いたことがないのだ⁉︎きょうび子供でも知っているぞ!」
「で、何なんだ?その五界神って」
「はぁ……。……この世界の創造主たる五人の神だ。現在存在しているのは人神を除く妖精神、獣神、龍神、魔神の四人だ」
ミドは大きくため息をついた。
「あ、ミドも五界神なんだな」
だから知られてなくてガクッとしてたのか。
「その通りだ。そして、その神の力を受け継いだ家系がその世界の王なのだ。その小さな神の力が五つ集まることで神をも殺す力を手に入れる……という逸話が残っている。真偽の程は私も知らんがな」
「曖昧なんだな……」
ミドでも真偽が分からないということは、歴史上一度も神殺しが起こったことはなかったんじやないだろうか。
多分神同士での殺し合いはあったのだろうが、人間による神殺しは無かったという事だろう。
実際俺は何度か神と戦ったことがあるが、殺したことは一度もない。というかそもそも普通に戦っても勝てないような奴ばかりだった。
「つまり、俺も含めて王族はみんな神の血を引いているのか?」
「厳密に言うと神の直接の子孫というわけではない。王家の真祖を創造したのが五界神だというだけだ。まぁ、現在人間界の王族のみ違うがな……」
と、ミドは苦い顔をした。
「え、どういう事?人間界にもちゃんと神様も王様も居るでしょう?ほら、ローグが自分の事を人間界の神様だって言ってたし、王様もいたよ?首都のガレアってところに」
祐奈が疑問符を頭の上に浮かべながら問い掛ける。
実際その通りだ。ローグは自分で名乗っていたじゃないか。自分は人間界の神様だと。
「確かに奴は現在人間界の神の座についている。そして、人間界にはちゃんと今も王族はいる。だが、真の人間界の神はローグじゃないし、現在の人間界の王族は神を殺す力を持っていない」
ミドは一拍置いて息を吐いた。
そして居住まいを正して言った。
「すべての発端は400年前。人神、ローグが生まれた事が始まりだ」
色々と設定の説明回です。
人神と人神は全く別の存在です。
その辺の説明はまた次回