表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生魔王の異世界征服  作者: 星川 佑太郎
七章 竜人界編 其の二
111/220

この理不尽な世界


「『鋼鉄化(メタルシフト)』!」


これが秘策だ。

奴の骨は硬い上にしなる、伸びるという夢素材で構成されている。

だが、それを鋼鉄に変化させればどうなるだろうか?

鋼鉄は確かに硬いが、ハデス程ではない。それにしならない。伸びない。

つまり大幅な弱体化になるということだ。それに、今の俺たちなら鋼鉄くらい粉々に出来る。


しかし、


「ぐおあっ!」


ドガン!


鋼鉄化(メタルシフト)』が完全に発動する前にハデスに吹き飛ばされた。


「がはっ!」


くっそ……。正面からは判断が浅かったか……?


「リュートさん!大丈夫ですか⁉︎」


祐奈が俺に駆け寄ってくる。

その時、俺は祐奈の後ろにハデスの触手が迫っているのを見た。


「祐奈!俺に構うな!」


ヒュッ‼︎


俺と祐奈のいる場所に向かって高速の豪腕が振り下ろされる。


ドゴォッ‼︎


「ぐあぁぁぁっ!」

「うあぁっ!」


俺たちはまともに一撃貰ってしまった。


ヤバイっ……!

何とか祐奈が木っ端微塵になる事は俺が壁になることで避けれたが、俺の体が原型をとどめていない。


いや、俺の身体は普段通り再生されていくからまだマシだ。

しかし、隣を見ると祐奈の方は惨劇だった。身体中から夥しい量の血が流れている。

所々腕が変な方向にも曲がっており、感触的には骨が砕けている箇所もある。

もし俺が壁になることができていなかったらと思うとゾッとするぞ……。


とにかくこのままではマズイ……。早く祐奈の治療をしないと……。


俺は一気に体を再生させた。


「祐奈、しっかりしろ!すぐに治す!」


俺は急いで治療魔法を祐奈にかける。祐奈の方もギリギリ意識はあるらしく、神聖力を使い、自己治癒力を促進している。


しかし、そうこうしているうちに第二波がやって来た。


ドゴゴゴゴゴゴゴッ!


俺は何とかそれを回避する。


「くそがっ!場所を変えねえと……!」


俺は満身創痍の祐奈を担ぎ上げ、その場から退避した。


「ちっ!しつこいな……!」


しかし、逃げられない。

マズイな……本格的にマズイ……。人一人を抱えながらでは満足に戦闘が行えない。


その時だった。


目の前が光り輝き始めた。

祐奈の傷口が神聖力の光に包み込まれているのだ。


「何が……?」


気がつくと祐奈の傷はかなり塞がっており、血の気の失せていた顔色も普段通りに戻ってきていた。

祐奈は薄く目を開きながら呟く。


「リュ、リュートさん……。ごめんなさい……」

「少し黙ってろ……。すぐ治してやるから」


神聖力にはこんな効果もあったのか……?それとも今限定のエクストラ効果か?

いや、どちらにしてもありがたい。


俺は治りきってない傷を一気に治療し、形成を立て直した。


「祐奈、立てるか?」

「もう大丈夫です!」


どうやら完治した様だ。ピンピンした様子で腕をグルグル回している。

助かっだぜ……。


しかし、問題はまだある。


「『鋼鉄化(メタルシフト)』を一体どうやって当てるか……だな」

「背後からとか……どうです?」

「あいつの視野がどうなってるかわからんし、次にあれを食らってもう一度形勢を立て直せるという保証もない。次は確実に決めたいな……」


というか、二度とあんな目に会うのはごめんだ。


「だったら、こういうのはどうです?」


祐奈がある作戦を提案した。

正直気乗りはしなかったが、全員が生きて帰るにはこの方法しか無いだろう。

俺は渋々、祐奈からの提案を聞き入れることにした。


---


「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」


祐奈は一人でハデスに向かって突っ込んでいた。

コレには一応理由があるのだが、やはりあまりに無謀というものだ。

祐奈は物凄いスピードで迫って来る触手を上手くいなしながら剣を振りかざした。


「ぶっ飛べッ!『神聖勇絶(セイクリッドデスピアー)』‼︎」


祐奈が空へと放った光は空中で爆散し、まるで雨のようにハデスに降り注ぐ。


ズドドドドドドド‼︎


『グオオオオオオオオ‼︎』

「今です!」


祐奈の呼び掛けに呼応するように、俺は物陰から飛び出した。


見様見真似だが……、ぶっつけ本番でやれるか?いや、そんなことはいま考えることじゃねえよな。

やるしか無い!


「『鋼鉄化(メタルシフト)』‼︎」


これが俺たちの作戦だ。

まぁ、簡単に言うと囮作戦だ。祐奈がハデスの気を引いている間に俺が『鋼鉄化(メタルシフト)』を確実にハデスに命中させるというものだ。


どうやら俺の魔法は成功したらしく、ハデスの身体はビキビキと音を立てながら鋼鉄と化していく。


アスタ直伝!って、習ってねえから直伝じゃねえか。

でも何度もアスタが使っている場面を見ているのだ。

意外とぶっつけ本番で出来るもんだな。


「やったぞ祐奈!畳み掛けろ!」

「はい!はぁぁぁ……、『神聖勇撃(セイクリッドストライク)』ッ!」


祐奈は剣を牙突の様に構え、鋭い槍の様に突き出した。

全てを破壊する槍撃。それは鋼鉄と化したハデスを容易く貫通した。


ハデスが苦し紛れに触手を叩き付ける。


しかし、ハデスの触手は今や鋼鉄の強度にまで落ちている。

ハデスの怪力に鋼鉄が耐え切れるはずもなく、触手は粉々に砕け散った。


「やりました!効いてますよ!」

「ああ、このまま押し切れるか?」


ハデスの体がビキビキと音を立てながらひび割れ始める。

その時、


ズブリ、という醜悪な音が耳に入って来た。


「え?」


よく見ると祐奈の腹部から黒い何かが生えていた。


「祐……奈……?」

「ゴフッ……」


祐奈はバシャッと吐血してその場に倒れ伏した。

俺は唖然として動けなかった。何が起こったのか全くわからなかった。


「お、おい……、祐奈……?」


動かない。

祐奈は虚ろな目をしていた。腹部からはドクドクと血が溢れ出てくる。


「祐奈!」


俺は正気に戻り、叫んだ。まるで俺の叫びに応じるように祐奈は喀血した。


「ガハッ……、ゴホッ……」

「祐奈、すぐに治す!待ってろ……」

「リュ、リュートさん……。う、し……ろ……」

「え?」


ドスドスドスドスッ‼︎


「ごはぁっ‼︎」


無数の黒い触手が俺の体の至る所を串刺しにした。

あまりの一瞬の出来事に俺は痛みが遅れてやってくるように感じた。


「ハ……ハ、デス……‼︎」


それは既に別の何かに変貌していた。

ひび割れた骨の様な白い外装の内側から何やら鈍い光と真っ黒な空間が覗く。

そこから無数に黒い触手がウネウネと出てきているのだ。


俺は即決した。

残りの魔力の殆どを再生力と身体強化に回し、その場を離脱する。

そして祐奈を治療しなければ……!このままでは死んでしまう!


そう決断し、魔法を発動しようとした時、


「リュートさん……。余、計な事を……考えちゃ、ダメです……」

「何、言ってんだ……お前……?余計なことの訳あるか‼︎」

「いいえ、余計な事です……。私の、事や……回復の事は……考えないで……。今は、あいつを……倒す事だけを、考えて下さい……」


祐奈は現在、激痛が身体中全体を支配しているだろう。

なのに、祐奈は気丈に振る舞い続ける。


「攻撃の事だけを考えて、魔力を回してください……。大丈夫……、私はまだ、死にませんから……」

「何言ってんだお前!今すぐ治療すればまだ間に合う!」

「いいえ、今はチャンスなんです……。見て下さい……。先程の攻撃で、今、ハデスは硬直しています……。今なら、倒せる……。確実に」


確かに祐奈のいう通り、ハデスは何やら硬直しており、先ほどから攻撃してこない。

だが、だからこそ治療すべきなんじゃないのか?


「信じてます……。一撃で決めてくれるって……」


そう言って祐奈は俺に剣を突き刺した。


一瞬、刺突による痛みが走り、俺の身体に暖かい神聖力が流れ込む。

俺の体の傷は少しずつ再生していった。


こんな事されちゃ……やるしかねえじゃねえかよ……!


祐奈に退路を断たれてしまった俺は静かに立ち上がった。


「待ってろ。一瞬で決めて治療してやるから」

「待ってます……」


祐奈はニヤッと笑って親指を立ててきた。

全く……前時代的な女だ。


俺は高揚していく気分を抑えながらグッと親指を立てた手を突き出した。


『グオオオオオオオオ‼︎』


その時、ハデスが動き始める。


だが、俺の決意は既に固まっていた。


「一撃だ。一撃で決める」


ハデスの触手が俺に向かって迫ってくる。

だが、退かない。いや、もう退けないのだ。


俺は右手に雷を湛えながら鋭く前方を睨み、歩を踏み出した。


「消し飛べ!『神聖雷光(セイクリッドボルテックス)』‼︎」


祐奈に与えられたチャンスを!絶対にものにする!


ドスドスドスドスッ‼︎


俺の身体に触手が刺さる。

逃げ出したくなるほどの激痛が俺の全身を襲う。


だが、まだだ。

俺は、勝つまで引けないんだ!


「うおおおおおおおおおおおおおおッ!」


ゴオオオオオオオオオオッ!


俺は裂帛の気合いと共に前方を消し飛ばした。


祐奈から貰った神聖力と俺の持つ全ての魔力を攻撃魔法に転化して放つ最強の一撃。

前方のハデスは元より、大地を抉り、空を割き、海を穿つ。

俺の身体に刺さっていた触手をも同時に消し飛ばし、更には俺の体の一部まで一緒に吹き飛ばしていた。


それ程までに暴力的な一撃。


「やっ……た……」


俺の前には何も残っていなかった。何も。


しかし、俺はすべての魔力を使い切ってしまい、その場にぶっ倒れた。


「まだ……、まだだ……!祐奈……。ちくしょう……祐奈……!」


祐奈は今にも死にそうなほどに重症なのだ。

既に祐奈は意識がないようだった。

ピクリとも動かず、俺の声にも全く反応しない。


まさか……死……?

いや、そんな筈は無い……!


俺は一瞬だけ浮かんだ思いを振り払い、這いずるように祐奈に近づいた。

しかし、魔力や体力をセーブする余裕がなかったのだ。


このままでは祐奈が死んでしまう。


それだけは許容出来ない。許容してなるものか!


俺は地面を這って祐奈の元へと少しずつ、そして着実に近づいていった。


後もう少し、もう少し……!



「どこへ……行、く……?」



ゾワリ。


俺はゆっくりと後ろを振り返った。


まさか……、そんな筈は無い……!気のせいだ……、それとも別の人物だ……。そうだ、そうに決まっている……。


しかし、分かっていた。この声には聞き覚えがある。つい数時間前まで聞いていたのだから。


俺はゆっくりと振り返った。


「ハデス……ッ!」

「はぁ……はぁ……。全く……、貴様らにはどれだけの屈辱を味わわされたか……。殺してやるぞ……、今すぐにな……!」


俺の攻撃によって死霊術(ネクロマンシー)による暴走状態が解かれたのか、正気に戻ったハデスがそこには立っていた。


ハデスも満身創痍だ。

だが、それでもハデスにはそれ以上に死にそうな俺たち二人を殺すには十分過ぎるほどの魔力が残っていた。


「もう貴様らの顔など見たくも無い。そして、俺に敗者をいたぶる趣味もない。一瞬で消してやる。この地とともにな」


それだけ言うと、ハデスは右手を天に掲げた。


「お前は殺しても死なんからな……。竜人界ごと貴様らを直接地獄に送ってやる……」


異常な魔力がハデスを中心に充満する。


コイツ……!どこにこんな魔力を持ってやがったんだ……⁉︎

全く……、もう打つ手がないぞ……。

もう俺には魔力が無い。『魂喰(ソウルイーター)』を発動させる余裕すら無い。更には、頼みの綱の祐奈は意識が無い。


流石にもうお手上げだ。


俺は完全に死を覚悟した。

最後の最後になるとなんだか色々と思い出してしまった。


これが本当の走馬灯か。

もう何も打つ手が無いときに思い出に浸るってのは……悪く無いもんだと思う。


ああ、結局子供の顔……見られなかったな……。名前……考えてたんだけどな……。一目でいいから見たかったな……。

アギレラ、ルシファー……。悪いけど、家族のことを頼んだ……。

そして、アクア。ゴメンな……。こんなダメな夫で……。結局お前にロクに何もして無いな……。


俺はゆっくりと空を見上げた。

空はハデスの魔力によって空は黒く染まっていた。別に夜でも無いのに。

最後に見る空としてはお世辞にも綺麗とは言えなかった。


ああ……クソ……。小さい頃から苦労した末の末路がコレかよ……。報われねえな……。


…………。


ちょっと待て、納得出来るか。


小さい頃から俺がどんだけ苦労して来たと思ってるんだ。

言われのない罪で勇者に殺されかけるし、家族は物心つく前に死んでるし、頑張って旅してたと思ったら実は神の手のひらで転がされてるし、やっと家族を持って幸せになれるかな?とか思ったらコレかよ。


こんなの納得できるわけねえだろ。


実に自己中な理由だが仕方がない。本来俺はそういう人間だ。

というか、普通キレて良いだろう。こんだけ酷い目に遭っていたら。


やっと愛する人と一緒になって、子供が生まれるってのに死んでたまるか!諦めてたまるか!

そもそもなんで俺が死なねえといけねえんだ!意味が分からん!

こんなもん納得できるか‼︎出来るわけねえだろ!

死んでたまるか!生きてやる!絶対に!

地獄に直接落とすだと⁉︎ふざけんなよ!俺が何で地獄に堕ちなきゃいけねえんだ!


ついさっきまで俺は自分の運命を受け入れそうになっていたが、やはりそんなもの受け入れられるわけがない。


理不尽すぎるだろこの世界。どうなってんだ。

俺は運命に愛されてるんじゃなかったのか?完全にローグの嘘だろ。どの辺が愛されてるんだ。

ガキの頃から俺の人生苦労しかねえじゃねえか。


俺心の中で叫んだ。

この理不尽な世界に。俺の人生の邪魔をしてくる神々に。


そうこうしている内に、ハデスの作った黒い大きな魔力の塊が、小さく圧縮されていく。

半径十数メートル程はあったそれはビー玉くらいのサイズにまでどんどん小さくなっていく。


「消し飛べ。『破滅地獄(ヘルブラスト)』!」


俺は最後の最後まで目を見開いていた。

確かな生きる意志を瞳に宿しながら。


リュートが死ぬ方法

その1、再生できないほど木っ端微塵にする。魔人ブウくらいやったらリュートも流石に死ぬ。

その2、直接地獄に送る。死という概念を直接与えることで、外的要因による殺害を必要とせずに殺すことが出来る。コレがハデスのとった方法。

その3、神聖力による攻撃。それでもちょっとやそっとじゃ死なない。ちなみに祐奈の奴は無効になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ