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転生魔王の異世界征服  作者: 星川 佑太郎
七章 竜人界編 其の二
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暴走


「祐奈……?」


「うおああああああああああ‼︎」


祐奈は裂帛の気合いと共に全身から光を放つ。


何て量の神聖力だ……。


「まだ私は……戦えるわ!」

「バカな……それは……!貴様、人間では無いのか⁉︎」


なんと祐奈の切断された左腕が生えてきているのだ。

それは、凡そ人間のものとは思えない光り輝く腕だった。

更に、祐奈の新しい左腕には新しい剣も握られていた。その剣からもまた、多量の神聖力が放たれていた。


祐奈は人間のはずだ。本来ならばトカゲのような再生能力なぞ持ち合わせてい無いハズ……。なのに何故……?


「何なのだ貴様は……っ!」

「冥土の土産に教えてあげる。私の名前は佐藤祐奈。強くて格好良い勇者サマよ!」


祐奈はハデスに鋭い視線を投げかけながら、俺たちに向かってくる『魂滅波動(ソウルウェイヴ)』に対して剣を構えた。


「『神聖勇覇(セイクリッドブレイヴァー)』‼︎」


祐奈は薙ぎ払うように剣を振り切った。

剣から放たれる眩いばかりの光があたり一帯を包み込み、『魂滅波動(ソウルウェイヴ)』を両断し、消滅させた。


「ば、バカなっ……⁉︎人間如きに……何故……っ⁉︎何なのだ……その力はっ⁉︎」


ハデスは狼狽えながら問いかけた。

この場で最強であるはずの神が押されている。理由の分からない何かに。先ほどまで死にそうだった人間に。


祐奈は剣を構えながらも少し余裕を見せて話し始めた。


「勇者の力の源は神聖力。でも私たち地上の存在は自力で神聖力を発生させることが出来ない。でも、それが可能なのが勇者。そして、勇者の神聖力の源は……『勇気』よ」

「勇気……だと……?」

「そう、勇気。勇気という、感情の中でも最も大きな力を持つモノが私に力を与える!」


祐奈は一拍置いて続けた。


「私はあなたに立ち向かう。私は仲間を守る。そして、私はあなたを倒す。そんな決意こそが……勇気よ!」

「バカな……、この俺が……、死神たるこの俺が……『勇気』などという不確かなものに敗れるはずが無いッ!」


ハデスはまるで自棄になったかの様に周囲に死霊(リッチー)を大量に召喚し、更にそれを自身の体内に取り込み始めた。


「この俺が……こんな地上のゴミ如きに……負けるはずが無いんだぁぁあぁぁぁぁぁッ!」


「ゆ、祐奈さん!あんなに魔力を取り込んだら……いくら神でも暴走してしまいますよ……!」


地べたを這いつくばっているアスタが言う。

しかし、祐奈は意に介した風も無い。


「大丈夫。……リュートさん!」


祐奈は俺の名を呼んだからと思うと先ほど左腕と一緒に出現した剣を俺の腹部に遠慮も躊躇もなくブッ刺した。


「う痛ぁっ!」

「じっとして下さい、痛いのは一瞬です」

「あ、ホントだ」


痛かったのは本当に一瞬で、何やら剣から俺の体内に温かいものが流れ込んでくる。


「コレは……、神聖力か?」


先ほどまで全く動かなかった俺の体が少し動く様になっていた。

祐奈の神聖力は神の持つ神聖力と何かが違うのか?


「はい、リュートさんの体には良く無いかもしれませんが、一瞬でも動けたら『魂喰(ソウルイーター)』が使えますよね?」

「成る程な。『魂喰(ソウルイーター)』‼︎」


しかし、祐奈の予測とは裏腹に俺の体には力が漲っていた。

以前までは祐奈の神聖力を取り込んだ俺は先ほどまでの俺と同様に動けなくなっていたはず……。

今野祐奈の神聖力は……神のものとは違うものに変わっているのか?


これは俺の今立てた憶測だが、先ほどの祐奈の台詞から察するに祐奈が『守る』と決めた対象への特殊効果を無効化してるのでは無いかと思う。

多分、祐奈が俺を守る対象として認識している間は祐奈の放つ神聖力は俺に本来の効果を及ぼさないのでは無いか?

だから神聖力によるエネルギー供給が魔力供給としての意味をなした。

つまり、俺は祐奈の放つ神聖力のみは魔力としての運用が可能だということだ。


俺は祐奈の神聖力によって出来た少しの体力を元手に『魂喰(ソウルイーター)』を使用。一気に周囲から魔力を吸収した。

側にいたジルやアスタからも容赦なく吸ってしまったが、動けない奴が三人いるより動ける奴が一人いる方がマシだろう。


「さてと……、随分でかくなったな……あいつ」


俺が視線を戻すとハデスは大量の死霊(リッチー)を吸収し、元の人間の様な見た目とは懸け離れた、まさに死神にふさわしい見た目に変貌していた。

黒いローブにギラリと怪しく鈍い光を放つ大鎌。そして髑髏の様な顔の造形。

昔御伽草子で見たがしゃどくろを彷彿とさせる。

しかし、ローブの胸の辺りからまるで触手の様な形状の大量の骨が伸びていた。その一つ一つの先端が刃物のような鋭利な形状をしており、かなり戦闘に特化した身体に変貌した事が伺える。


「ありゃあ、やべえよな……」

「ですね。でも、敵がどうなろうと私達のやることは変わらない。そうでしょう?」

「ああ。さっきまで寝てた分はしっかりと働かねえとな」


俺は身体中の関節をバキバキ鳴らしながら前へと進み出た。

まだ身体の調子は万全とは言えないが、戦うには十分すぎるほどだ。


『ウオオオオオオオオオオオ‼︎』


俺と祐奈の目の前では大量の死霊(リッチー)を取り込み、異形と化したハデスが雄叫びを上げていた。


本格的にラストバトルだな。


俺は不意に隣の祐奈の顔を見た。

ちょうど祐奈も俺の顔を見ていたらしく、目と目が合う。


「何だよ」

「何だか……、ワクワクしてきました」

「サイヤ人かお前は」


茶化している場合じゃなかったのだが、突っ込まざるを得ない。

例えるなら今のお前はスーパーサイヤ人か?


「今の私はスーパーサイヤ人にでもなった気分ですよ!」

「似た様なこと考えてんじゃねえよ」


何か既視感(デジャビュ)なんだけど。この会話。


「似た者同士ですね!」

「あんま嬉しくねえよ」

「え〜」


俺たちはお互いがお互いを心強く思っているからか、あまり危機感がない様だった。

だが、そんな緩んだ空気もここまでだ。

ある程度は緊張して戦いに臨まねば、命など簡単に散るのだから。


「さてと、気ぃ引き締めろよ。ここまで来て死にたくねえだろ」

「はい……。勝ちましょう。そして、皆で帰りましょう」


俺と祐奈は一瞬で雰囲気をピンと張り詰めさせた。


「ああ、行くぞ!」

「はい!」


『ウオオオオオオオオオオオ‼︎』


今、戦いの火蓋が切って落とされた。


---


「『神聖勇閃(セイクリッドスラッシャー)』‼︎」

「『轟雷天衝(ライトニングスフィア)』‼︎」


俺たちは同時に前方を大魔法で薙ぎ払った。

魔法の当たった箇所からはプスプスと煙が吹き出し、黒く焦げたようになってはいるのだが、いかんせん効いているのか全くわからない。

ハデスはまるで意に介していないように、俺たちに向かってくる。


「クソッ!アレ、効いてんのか⁉︎」

「分かりませんけど!やるしか無いですよ!」


その時、ハデスの触手の内の数本がこちらへと迫って来た。


「祐奈!危ねえ!」


俺は祐奈の腹部に手を回し、その場から退避した。


ボカァンッ!


土煙を巻き上げながら大地が抉られる。


「ち……!なんで威力してやがる……!」


一撃でも当たったら俺はともかく祐奈はお陀仏だ。

体がミンチになる。


「祐奈、油断するな!」

「わ、分かってます!もう大丈夫です!」


しかし、近づけない。

奴の触手は肋骨か?大体胸の辺りから左右均等に12本ずつ出ている。

これまた恐ろしいことだが、折れても砕けてもすぐに再生するのだ。

実際に、地面に叩きつけた時に少しだけ入ったヒビが一瞬で修復されている。

骨は一応再生するが、こんな異常な速度でするものでは断じて無い。

神の力で再生力が増幅されているのか?だとしたら全身こうなのか?骨だけならいいのだが……。


と、考え事をしているとハデスの髑髏のような口がガバッと開いた。

そこに魔力の塊が溜まっていく。


「マズイッ!」

「退避です!」


俺と祐奈は同時に別方向へと退避した。

同じ方向に逃げてしまっては的を絞ることになってしまう。こういう場合は散り散りに逃げる方がいいのだ。


ハデスの口から青白いビームのようなものが発射された。


ギュインッ!


地面を焼き尽くしながら瓦礫などを薙ぎ払う。

辛うじて逃れる事ができたが、やはり当たっていたら焼肉になっていただろう。俺はともかく祐奈は即死だ。


更に、俺の方に複数の触手がしなりながら空を切って飛んでくる。

この触手がかなりの耐久力を持っているのは既に検証済みだ。

俺はそれを冷静に回避する。


「どっちだ……?両方か……?いや……」


俺の方に飛んできていた触手はごく少数だった。


「あっちか‼︎」


この触手、伸びるのか⁉︎

ハデスと祐奈の距離が遠いから油断していた!


殆どのハデスの攻撃は俺を無視して祐奈目掛けて飛んで行ったのだった。

あいつの深層意識の中で祐奈にヘイト溜まってんのか?


ハデスの触手状の骨はまるで蛇の首のようにしなりながら何度も何度も同じ場所を殴打していく。


ドゴドゴドゴドゴドゴォォッ!


砂煙が舞い上がりながらもなお攻撃を止めないハデス。


「祐奈!無事か⁉︎」

「な、何とか!」


その時、俺の呼びかけに答えながら上空から祐奈が現れた。

どうやら無事に回避できていたらしい。


俺はすぐに祐奈を伴って物陰に隠れた。

今のハデスは索敵能力が落ちているらしく、すぐには見つからないだろう。


祐奈は地面に座り込み大きく息を吐いた。


「アイツ……ヤバイです……。本気で攻撃が効いてない……!」

「マジかよ……」


祐奈の攻撃も聞かないなら俺の攻撃も殆ど効かないだろう。効いたとしても気休め程度だ。

俺と祐奈の攻撃力にはそこまで大きな差はない。


「さっきから何回も斬ってるんですが、堪えてない気がするんですよね……。まぁ、今のアイツは唸るだけで喋りませんから細かいとこはわかりませんけど……」


どうやら祐奈はハデスの攻撃をかわしながら触手に数撃の攻撃をお見舞いしていたらしい。


祐奈は生身の方の腕を怠そうに振りながらゴキゴキと首を回した。

ついで、鎧がガシャリと小さく音を立てる。


「斬撃じゃダメだとしたら、打撃とか魔法攻撃は?」

「微妙ですねー……。私は斬る方が得意なので何度も試したわけではないですが……。まぁ、効きは悪いですね」

「固いからダメなんだよな?」

「多分……。というか、攻撃そのものに耐性を持ってるんだったら本気で絶望ですよ……」

「どうだろうな……」


あの耐久力は純粋な防御力によるものなのか、それともハデス自信が持つ耐性なのか。

もし後者だったら根本的に攻撃が効かない事になってしまう。

先程から俺たちに対して抗戦してくるところを見ると前者だと思われるが……。


「多分固いだけだと思うんですが……」


祐奈は冷や汗を垂らしながらハデスのいる方向を見つめる。

今は俺たちの姿を見失っているようで周囲を無差別に破壊しまくっている。


俺はパンと手を打って顔を上げた。


「よし。だったら、絶望しない方にかけてみようぜ。祐奈、鋼鉄は斬れるな?」

「鋼鉄なら多分いけます」


鋼鉄を「多分いける」とはな……。完全に異次元の住人になってしまったんだな……俺たち。


「よし、じゃあ俺に合わせろ」

「何か策があるんですね?分かりました。任せます」

「おう」


策はある。ならば俺たちは勝ってみせる。


俺は隣で雰囲気を研ぎ澄ませている頼もしい姿を見て、そう思うのだった。

祐奈の左腕と剣は光で構成された物で、生身の物質ではありません。

まるで再生したみたいですが、光で補填したと考えて下さい。祐奈に再生能力はありません。

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