決意
コイツ今、英語喋ったのか……?
「お前……それ……英語……」
「お前……英語……分かるのか……まさか、最後の最後で……出会った、同郷の奴が……まさか……魔王とは……皮肉だ……ぜ……」
それっきりアレックスは何も話さなかった。
あんなにも恨んでたのに殺したのを後悔した。
アイツが異世界出身だって知っていたらもっと情報を教えて貰えたかも知れないのに……
取り敢えず、情報を整理しよう。
あの勇者は地球の英語圏の国出身で名前はアレックス・ブラック。
多分アメリカとかイギリスとかだと思うが……。
俺はこの世界で生まれた転生者だ。出身はエステリオ。
しかし、出身が俺と違って地球だということは、この世界に転生したのではなく、召喚されたと考えるべきだろう。
勇者が異世界に召喚されるってのは定番だからな。まぁ、転生も定番だが。
くそっ!ここに来て人間界の事情に疎いことが完全に足枷になっている!
情報を得ようにも俺にものを教えてくれる大人がもういない……。
取り敢えず魔王城に戻ろう……。
「エルザ……ギース……ごめん。俺が弱かったせいで……」
俺は切り傷だらけのエルザとギースの身体に軽い治療魔法をかけた。
覚えたてだがやらないよりましだろう。
その後、エルザとギース、後ついでにアレックスの供養をして俺は魔王城へと向かった。
アレックスだけ放置するのも目覚めが悪いしな。
一言で言うと魔王城なんて無かった。
其処には瓦礫と死体の山が広がっていた。
「……あの野郎……」
また、ふつふつと怒りが湧いてきた。
ダメだ……抑えないと……。
それに、誰か生きてるかも知れないじゃないか。
「おーい!誰か!生きてるやつはいないのか⁉︎誰かー!」
俺は必死に生存者を捜したが、誰1人俺の呼びかけには答えなかった。
「クソッ、これからどうすりゃいいんだよ……」
俺はあまりにもこの世界のことを知らなさすぎる。これじゃあ1人で生きていけない……。
「……うぇ〜……ぐすっ……」
すぐ近くからくぐもった小さい子の泣き声が聞こえてきた。
「誰か……生きてる!」
俺はすぐに声のする場所へと向かった。
「大丈夫か⁉︎今助けるぞ!」
「……うぇ〜……うぇ……」
俺は瓦礫や死体をかき分けて、その子を見つけた。
其処にはアリスの死体があった。
そして、そのすぐ横でアリスの服を掴みながら、血にまみれた1人の少女が地面に座り込んで泣いていた。
美しい青い髪をした女の子だ。年は俺と同じくらい。
誰かがアリスの死体に隠したのか?
「だ、大丈夫か?怪我は?」
少女は無言で首を横に振った。怪我は無いらしい……。
「君、名前は?お父さんやお母さんはいないのか?」
「私、は……ア……クア……。お父、さんは、いな……い」
死んじまったって事か……?。
「お母さんは?」
そう聞くとアクアは無言でアリスを指差した。
この子はアリスの娘なのか?
でも、アリスに娘なんかいたかな……?
見た感じ俺と同い年ぐらいだし……なんで俺はこの子の事を知らないんだ?
女の子はアクア・グロウスと名乗った。
グロウスとはアリスの苗字だ(アリスはアスモデウスの称号を持っている為、苗字が違う)。
しかし、アリスにそっくりだな……なんていうか、アリスの容姿が幼くなったらこうなるんだろうなっていう顔立ちだ。
まぁ、今はそんなこと考えてる場合じゃない。
俺は捜索を再開した。
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一通り探してみたが、今生きているのはこの子だけみたいだ。
この子は一体なんなんだろう。分からないことだらけだ。
俺はぼんやりと景色を眺めていた。何もやる気が起こらない。
ただの瓦礫になった魔王城。死体になった家族達。
俺は涙をこらえきれなかった。
泣けども泣けども、止めどなく溢れてくる。
不意にポンポンとアクアが俺の肩を叩いた。
そして、アクアは俺を優しく抱きしめた。
「大丈夫……?」
「あ、ああ、大丈夫……大丈夫だから……心配するな、アクア」
アクアに身を預けて俺は泣いた。大声を出して泣いた。
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ずっとアクアに抱きしめてもらって少し落ち着いた。
「ねぇ、名前……、教えて……?」
「俺?俺は、リュート。リュート・エステリオだ」
「リュート……魔……王、さ……ま?」
そうだ。俺は魔王だ。いつまでへこんでるんだ。
アリスが言っていたじゃないか。
俺が最後の希望だと。
「……そうだ!俺は魔王だ!部下はみんな死んじまったけど……俺は魔王の息子なんだ!……いつか絶対にこの国とこの城を再興してみせる!その時に絶対に家族を失わない為に、俺は強くなる!俺は魔王らしく、この世界を征服するぞ!全部征服して、戦いなんてない平和な世界を造ってみせる!だから……アクア……俺に力を貸してくれ!」
少し間をおいてアクアは優しく微笑んだ。
「リュート……わかった。私、手伝う……」
こうして、俺とアクアの異世界征服ライフが始まった。
アクアの設定をすごく説明したいけど機会がない。
次回、新章開幕。