VSネルヴァ・エステリオ
「ジジイ……。すぐに動けなくしてやるぜ……」
相手が爺さんだからといって手加減する気など微塵もない。
そもそも加減して勝てるような相手ではないが。
爺さんとはゲートの時から何度か組手をしているがまともに勝ったことは殆どない。
だが、一度も勝ったことがない訳ではない。
「今ここで勝たなきゃ男じゃねえ……。俺が負けたら……?考えたくもねえな」
俺が負けたら十中八九アスタ、ジル、祐奈の誰かが死ぬ。
俺は不死身だから死なないが、ジジイの攻撃で俺が動けなくなってしまったら結果は同じだ。
完全に制圧して勝たねばならない。
全く……、ハードル高いぜ……。
「後で孫に殴られたって泣くんじゃねえぞ!」
俺は勢いよく地面蹴り、爺さんへと接近した。
「『雷光強化』!」
全身を雷魔法で強化する。
爺さんは魔王の三大奥義をマスターしている。そこに関して言えば完全に格上だ。俺はまだ完璧とは言い難い完璧からな。
もし、爺さんに『魂喰』で魔力を底上げされてしまっては殆ど勝機は無い。
だったら短期決戦あるのみだ!
先に俺が魔力を底上げして勝てばいい!
俺が完全に勝っているのは年齢による地力の差だ。
爺さんの死因は老衰らしい。
老衰で死ぬほど衰えた体で霊体化している訳では無いだろうが、それでも全盛期に比べれば強さの隔たりはかなりのものだろう。
それは勝つ要因としては十分なものだろう。
「『絶対不侵圏』」
爺さんは呟くように奥義を発動した。
普段のように少し響くような声色では無く、普通の生きている人間のような声だ。
コレが死霊術の副産物ってやつか……。
だが、初めて聞く爺さんの地声に浸っている暇は無い。
俺は『絶対不侵圏』の圏内に入らないように外側から『魂喰』を使用した。
爺さんの『絶対不侵圏』から一気に魔力を吸収し、俺は更に『雷光強化』の強化倍率を引き上げる。
俺はまるで雷光と見まごうような速度で爺さんの死角へと回り込んだ。
「『轟雷音震』!」
直接相手の身体に触れ、落雷によって発生する電撃と音波をゼロ距離で放出する。
だが、甘かった。
「『魔力反射』」
爺さんはまるで見切ったとばかりに俺の魔法を反射した。
マズイ……ッ!
「ぐああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
ゼロ距離で撃ったため、避けることがかなり困難になっていたのだ。
クソがッ!
完全に反射されることを失念していた。
俺の体は黒焦げになり、体の至る所が目も当てられない状況になってしまったが、やはりいつものように俺の身体は少しずつ再生していく。
俺は先程『魂喰』で得た魔力を使用し、体の再生速度を速めた。
このままじゃあ戦えない。
そしてこの状況が続けば続くほど俺は不利になっていく。
爺さんが『魂喰』を使う隙を与えてはいけない。
「はぁぁぁあッ!」
俺は爆発させるように魔力を消費し、一気に体の傷を再生させた。
「『魂喰』!からの、『雷光強化』!」
『魂喰』によって周囲から魔力を大量に吸収し、更にその吸収した魔力を一気に消費して身体の強度を爆発的に高める。
「『魂喰』」
マズイっ!
爺さんが『魂喰』」を使用してきた。
絶対に阻止しなければならない。
「『轟雷天衝』‼︎」
俺は現在俺の持つ最大の攻撃魔法を躊躇なくぶっ放した。
前方にある全てを一瞬にして薙ぎ払う極太の電撃レーザー。
「『魔力反射』」
しかし、爺さんは『魂喰』を中断し、俺の魔法を『魔力反射』によっていとも簡単に跳ね返してきた。
でもな、それ、読んでたぜ。
「『魔力反射』ッ‼︎」
俺は爺さんが跳ね返して来た俺の雷魔法を更に跳ね返す。
それは読んでなかっただろ?爺さん。
爺さんの行動はハデスに操られているからなのか、とてもじゃないが人間的とは言えない。どちらかと言うとゲームのCPUに近い動きをする。
つまり、その場で最善だと思われる行動をとるのだ。
そしてもう一つの特徴が、この爺さんはなるべく自分にダメージが通らないように行動するのだ。
これだけわかれば十分だ。簡単に行動を誘導できる。
いつもの俺の爺さんはリスクを恐れて前へ出ることをやめるような人じゃない。
だが、今の爺さんは違う。
俺はそんな状態の爺さんに負けるつもりなど毛頭ない!
俺の跳ね返した雷魔法が爺さんに直撃する。
バリバリバリバリッ!
爺さんは声一つ上げずにその場で少しよろめき、こちらを睨みつけてくる。
キレた時の威圧感まではちゃんと再現できてるんだな……。あんまり爺さんがキレた所見たこと無いけど……。
多分真面目な雰囲気な分がプラスされていていつもより厳つく見えるんだろうな。
「まだまだピンピンしてんな……クソジジイ……」
俺は少しテンションがハイになっているのか、口の端をニヤリと上げながら不敵に笑った。
現在の状況は全く持って笑っていられるような状況では断じてない。なのに、笑いが零れ落ちた。
俺はここでジジイをぶっ飛ばして……先代を超える!
自分は魔王だの、俺は魔王になるだのなんだの言ってきたが、俺はここでジジイを倒してやっと魔王になれるのかもしれない。
国を作るのは難しい。
だが、元首がしっかりしてなかったらそもそもの前提条件が崩れてしまう。
やってやるさ。
全てを守る。
俺は自分のエゴを通すために強くなったんだ。魔族が悪者だなんて知った事か。
俺は仲間を守る為だけに闘ってきた。俺はその為に強さを得た。
ここで仲間を守りきるのが……俺の今までやってきたことの成果だろ?
「爺さん……悪いけどな、アンタをぶっ飛ばして……俺は仲間を守る。邪魔すんな!」
俺は残っていた魔力の殆どを一気に消費し、特攻した。
先ほどの電撃によるまひのエクストラ効果によって一時的に満足な移動能力が阻害されている爺さんは俺の拳を避けることは出来ない。
「おらぁぁっ!」
爺さんはなす術なく城の瓦礫へと突っ込んでいった。
「はぁっ……はぁっ……。くっ……」
俺は膝をついて大きく息を吐いた。
魔力を使い過ぎか……?少し疲れてきたな……。
『魂喰』の使用にすらそこそこの魔力を消費する。
確かに、『魂喰』で魔力を充填し続ければ、理論上は無限の魔力運用が可能だが、そんなことをすれば俺の体はいつしか壊れてしまうだろう。
生き物の体ってのはそんなに都合よくできていない。
魔力は無くならないだろうが、体力や精神力が磨耗してしまう。
ギュインッ!
その時、鋭く細い何かが俺の体を貫通した。
「なっ……ぐがぁっ……!」
しまった……!
アレで終わるはずがなかったのに……一時、気を抜いてしまった……!
だから俺は爪が甘いんだよって言われるんだよ……っ!
俺が貫通攻撃を食らったのは寸分違わず俺の心臓だった。
しかも雷魔法による攻撃だからか……?
心臓の動きが麻痺して、龍種の能力である心臓による魔力供給が完全にストップしてしまっている。
その所為でか現状、身体の再生が著しく遅れてしまっている。
更に、爺さんは俺との距離を一瞬で詰め、俺の心臓部を蹴り飛ばした。
「がはぁっ!」
俺の身体の一部が千切れ飛び、喀血する。
その時、
「『魂喰』……」
砂埃の中俺はそんな爺さんの声を聞いてしまった。
マジかよ……っ!
これで完全に不利な状態になってしまった。
「クソ……こりゃ……、本格的にマズイことになった……」
俺は自嘲気味に笑いながら立ち上がった。
今回のサブタイは爺さんのフルネームです。
名前はちょいちょい出してますがまずリュートがネルヴァの事を「爺さん」とか「ジジイ」と呼ぶのであまり印象に残ってないと思います。
作者である私でもたまに忘れます。