ハデスの死霊術
祐奈……。
あいつ……仲間のピンチの時に強くなるとか主人公かよ。
祐奈は斬り伏せたあと地面で黒い影のようになった敵を一瞥するとまた走り出した。
しかし、
「だぁから……行かせねえって……」
「くっ!どけっ……!」
影は執拗に祐奈の邪魔をしてくる。
苛立ったように、祐奈は前方を剣で薙ぎ払う。
しかし、
「な、て、手応えが……無い⁉︎」
「そりやぁ……当たってねえからなぁ……」
影はヘラヘラと笑いながらスーッと地面から姿を現した。
コイツ……攻撃が当たる瞬間に地面に逃げてるのか?
「メイ!ジル!ルーナをお願い!」
敵の影が自分を逃す気は無いと知ると、祐奈はルーナの救助をメイとジルに任せる事にした。
「ちっ、そのエルフも逃す気は無いんだよなぁ……!」
影はルーナに向かって手を伸ばした。
「『ブレイブフォース』っ!」
祐奈は瞬時にその腕を切り落とす。いや、切り落としたように見えただけだ。
どうやら攻撃を受けていないようで、スーッとまた別の場所から出現する。
一体なんなんだこいつは……?
「リーシャ、メイと一緒にここから出ろ。メイ1人じゃ危ないしな」
「ジルは?どうするの?」
「あいつはここに残ってもらう。あの影1人が敵じゃ無い気がするんだよ……。それと、外に出たらルシファー達に音信を頼む」
「分かった」
リーシャは短く答えるとメイの元へと向かった。
俺はすぐにジルに声をかける。
「ジル!戻ってそいつを食い止めろ!絶対にリーシャとメイをここから逃がせ!」
「わ、分かった!」
その間も祐奈は敵の影を切り刻みつづける。
「ちぃっ!……全く、面倒だぜ……」
影は地を這ってリーシャ達の方向へも向かおうとする。
「させるかよ!」
すぐさまジルが竜化した腕で地面を穿ち、それを阻止する。
どうやら今ので無事に2人はルーナを連れて逃げられたようだな。
敵の影は諦めたようにこちらへと向き直った。
「クソが……ここで妖精王の血族を消しておきたかったが……まぁ良いか。魔王、お前を殺した後でもいい……」
「妖精王の血族……?」
何故妖精王の血族を殺す必要があるんだ?
そう言えば俺を執拗に狙う集団がいたな……奴らは俺を魔王だからという理由で狙っていると思っていたのだが……。
まさか、魔王だけではなく、王を殺そうとしているのか?一体何のためにだ?
「王様を倒したら……何が起こるって言うんすか……?」
「さぁな、お前達に答える義理は無い」
影はゆらゆらと揺れながら素気無く答える。
「どんな理由があろうと、私の大切な人を殺そうとする奴は許さない……。今ここであんたを斬る!」
祐奈は鋭い眼光で影を見据え、剣を構えた。
「お前、何者なんだ……?何故こんなことができる……?」
しかし、俺は不思議でならなかった。
街全体を覆う黒い力場。
突然別の場所へと現れる能力。
そして、大量の死霊を使役する能力。
どれを取っても規格外だ。もしこれを一人でやっていたとしたら恐ろしいが……おそらくもう一人はいるはず……。
「まぁ、神だからな……。俺はハデス。死神だ」
また神かよ……ッ!
ローグじゃなかったと安心するべきか、それとも神であったと悲観するべきか。
いや、今するべきはそのどちらでも無いか……。
しかし、コレで敵が一人という可能性も出てきた。神だというのなら何もかもが規格外だろうからな……。
「あんたが神だろうが何だろうが、私には関係無い。斬り殺す」
しかし、祐奈はそんな事を意に介した風もなく、周囲の空気をピンと張り詰めさせた。
「……別に勝てんことは無いが、1対4じゃあ不利だしな……。だから、少し小細工させて貰うぜ……」
そう言ってハデスはこちらへと手を突き出した。
何をする気なんだ……?
「お前達、面白いやつを連れているな……。そんな剥き出しだと……奪っちまうぜ……?」
その時、俺のポケットの中からカタカタと音が聞こえてきた。
まさか……、まさか……⁉︎
俺のポケットから一人でに髑髏が出て来た。
中には爺さんが入っている髑髏だ。
まさか、死霊術って……、魂を操る……?
嘘だろ……ッ⁉︎
『ま、孫おおぉっ!』
それが爺さんの意識を失う前の最後のセリフだった。
「爺さん!」
俺が手を伸ばした頃には、既に遅かった……。
爺さんは身体中の力が抜けたようにダランとして、虚ろな目でこちらをぼんやりと見つめている。
霊体に肉体を与えたらしく、身体がどんどん肉体を得ていく。
「流石は魔王だ……。自身の魔力で肉体を生成するとは……。これは予想異常だったぞ!」
ハデスは嬉しそうに目を見張って笑った。
どうやらあの肉体は自前のようだ。
「爺さん!オイ⁉︎爺さん!」
爺さんは俺が呼んでもピクリとも反応しない。
完全にハデスの支配下に置かれているらしい。
「ククク……、まさか、先先代魔王の魂が手に入るとはな……。幸運だった。後は……コレでどうだ?」
そして更に、ハデスは俺たちに追い打ちをかけるように異常な数の死霊を召喚した。
中には上級死霊も何体も混じっており、小規模な軍隊ほどの数だ。
「ククク……、一気に形勢逆転だな……?さぁ、お前達はどう対処する……?」
「リュート様……、ネ、ネルヴァ様が……」
「おいおい……、どうするよ……、この数……!」
落ち着け……、こういう時ほど冷静になれ……。
「俺が……、爺さんをやる……。アレには俺じゃなきゃ勝てねえ」
「私はハデスをやります。リュートさん、あの変な死霊のことは任せました」
アレは死霊じゃねえよ。
まぁ、死んでる霊体だから死霊っちゃあ死霊だが……。
「おう。で、二人はじゃあ、向こうの死霊の大群を頼む。正直言って一番ヤバいかも知れねえが……」
「なぁに、気にすんなよ大将。アレくらい速攻で片付けてやるぜ」
「俺はリュート様の配下っすから!どんな命令も絶対に遂行してみせるっすよ!」
俺たちは覚悟を決め、決然とした表情で前方を睨み付けた。
「話し合いは終わったか……?最後の話し合いはよぉ……」
「話し合いならお前をぶっ殺した後好きなだけやるさ!行くぞ!お前達!」
「「「応ッ!」」」
俺たちは同時にその場を駆け出した。
ジジイが敵になりました。
やはり先代との戦闘イベントは通過したいですからね