お義父さん(姉)
俺たちは二手に別れて、別々の方向へと走り出した。
祐奈達捜索隊が戻るまで、敵の戦力の陽動が目的なので俺たち三人は派手に暴れるとしよう。
「アスタ、ジル。この辺りを滅茶苦茶にしてやるぜ!」
「「応ッ!」」
「『轟雷音震』!」
「『竜化息炎』!」
「『鋼鉄砲撃』!」
ズドドドドドドド‼︎
俺たちは容赦無く、尚且つ無慈悲に、城壁、部屋、廊下、天井、全てを分け隔てなく破壊して周った。
俺たちが派手に暴れ回っている間、2人が隠密行動に徹すれば2人の存在がバレることはない。
「オラオラオラオラオラオラ‼︎もっと派手にやっちまうっすよ!」
アスタが両腕をブルンブルン回しながら目を血走らせて叫ぶ。
頭がハイになってやがる。
「ちょ、アスタ。テンション上がり過ぎだろ」
「おい、リュート。こいつ性格変わってないか?」
「緊張感を張り詰めた状態が長引くとハイになるタイプなんだよ……」
「それ、大丈夫なのか?」
「まぁ、今のところなんとかなってるし良いだろう」
「お前が言うならまぁ良いが……」
その時、ゾロゾロと死霊の大群が。
「よし、気を引き締めろ。いくぞ!」
「ハイっす!」
「おし!」
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死霊の掃討が終了し、俺たちが結構な時間を破壊活動に費やしていた時、俺はふと恐ろしいことに気がついてしまった。
「あれ、もしかしてコレ……リーシャ達が閉じ込められてるところにも行ってないよな?」
三人がどこに幽閉されているのかわからないのだから、この攻撃が当たっていないとも限らない。
「「「あ」」」
「ヤベーッ‼︎何やってんだ俺たちは⁉︎」
「お前がこんな作戦を立てるから悪い!」
「だったら意義を申したてろよ!お前もしたり顔で頷いてただろ!」
「うるせえ!三人が死んでたらどうしてくれるんだ!」
「三分の一はお前のせいだろ!」
「何言ってんすか!リュート様が一番強いんですから、リュート様が一番壊したに決まってるじゃないっすか!」
「「話がややこしくなるからお前は黙ってろ!」」
一通り口論したところで俺たちは地べたに座り込んだ。
「はぁ……はぁ……」
「ちっくしょ!どうしようかね……」
俺たちがこれからどうするか悩んでいたその時、背後から声がした。
「何してるの2人とも?」
「相当お疲れの様ですね」
祐奈とミドが立っていた。
その後ろにはリーシャとメイとルーナもいる。
無事救出出来たらしい。なんて仕事が早いんだ。
俺たちは早くも自分たちのポンコツっぷりを披露していたというのに。
「リュート!心配かけてゴメン!」
リーシャは俺に駆け寄って頭を下げてきた。
「おいやめろよ水臭いな。仲間だろ?お前だって逆の立場なら助けてくれるだろ」
「そうだけど……でも、今回は昔とは危険度が段違いなのよ?それに、アクアは……」
「分かってる。だからアスタも連れてきたんだ。それと、アクアの事は気にするな。すぐにこの件を片付けて帰ろうぜ」
「うん……そうよね……」
「うし、じゃあこの話は終わりだ。メイとルーナも無事で良かった」
俺が声をかけた時、メイとルーナはジルと再会を喜び合っていた。
あいつら仲良かったのか……。
まぁ、そりゃ半年も一緒にいたら仲良くなるわな。
「ジル〜、もっとナデナデしてくれても良いんだよ〜?」
「はいはい、分かった分かった」
ジルは子供をあしらう様にルーナの頭を撫でる。
ルーナのやつ、相変わらず成長して無いな。もしかして一生あのままなんじゃ無いだろうか。
「本当にゴメンね、ジル。心配かけて……」
メイが申し訳なさそうに言った。
ジルは鷹揚に頷きながらメイの頭に手を乗せた。結構な身長差なので手を乗せやすそうだ。
「ああ、心配した。でもまぁ、ケガは無いみたいだしな、無事で良かった」
そう言ってジルはメイとルーナを一緒に抱き締めた。
「ジルってば、いつの間に2人とそんなに仲良くなったの?私の妹達なんですけど〜?」
祐奈がぶちぶちと言う。
いや、お前の妹じゃねえだろ。
お前、人間界からここまで来るのにどんな旅をして来たんだ。
「アレ、メイってば言ってないの?ジルと付き合ってるって」
スッとルーナが爆弾発言した。
「は?」
祐奈は目を点にしながらジルの顔をガン見する。
ジルは少し恥ずかしそうに頰をポリポリと掻いた。
メイも顔を赤くして少し俯く。
うわぁ……初々しい……。
そして、祐奈の顔がどんどん金剛力士像みたいになっていく。怖い。
多分祐奈の心境としては娘を取られた親父の気分って感じか……?
しかしまぁジルもちゃんとそういう事してたのな……。
ジルもアクアの事は昔は好きだったのだろうが、流石に別の恋を探すよな。
というか、半年以上もの間人妻に恋慕の情を送ってたら軽く引くしな……。
「え、付き合って……?え、ちょ、メイ……、こ、こんな男が良いの?な、何で?私と将来を誓い合ったじゃん!」
「いや、お姉ちゃんと将来を誓い合った覚えは無いけど……」
メイは冷や汗垂らしながらも冷静にツッコミを入れる。
三人で旅をしてる時は大体こんな感じだったのだろうか?
「オイ、こんな男とはご挨拶だな」
「やめとけジル。今の祐奈はお父さんモードだ。土下座の準備だけしとけ」
「なっ……、ど、土下座だと……?」
「ああ、日本人の頑固親父には土下座する以外に娘を嫁に貰う方法はねえ。まぁ、無理矢理強奪して孫の顔をみせるという手もあるが……」
しかし、この方法は最後の手段だ。
というか、この祐奈から逃げられる気がしない。
地の果てまで追いかけてきて消されるぞお前。
「そういう時はな、こう言うんだ。『お義父さん、俺に娘さんを下さい』ってな」
「成る程。お義父さん!娘さんを下さい!」
「誰がお義父さんかぁ‼︎」
祐奈の光り輝く神速の鉄拳がジルの顔面に突き刺さる。
「ぶっふぉ!」
成す術なくぶっ飛んで行くジル。
やはり強い。勇者強い。というか、そりゃこうなるわな。
基本的に「お義父さん、娘さんを下さい!」って言った奴は殴られるよな。
まぁ、普通の奴なら死ぬ様なパンチを食らった奴はお前が初めてだろうよ。
祐奈のヤツ、パンチに殺意込めてたぞ。
その時、瓦礫を吹き飛ばしながらジルが這い出てきて、叫ぶ。
「うおおおい!リュートォ‼︎殴られたじゃねえか!ってか何だ、今のパンチは⁉︎死ぬかと思ったぞ!」
ピンピンしてんじゃねえか。
竜人族ってのは丈夫な体してやがる。
「って、こんなことしてる場合じゃ無いだろ!さっさとここから逃げるぞ!」
「ちょっと待てやぁぁぁ‼︎まだ話は終わって無い‼︎」
祐奈落ち着け。キャラぶれっぶれだから。
どんだけメイを取られたくないんだよ。良い加減に妹離れしろよ。まぁ、妹じゃないけども。
「ま、早くここから逃げるに越したことはないっすね。行きましょうか」
アスタも腰を上げた。
そうだな。これだけ派手に暴れてこの城の主人がまだ出てきてい無いことに違和感を覚えるが……何か起こる前に退散するのが吉だろう。
「よし、行くか。この黒い物質のことは外に出てから考えよう。お前達、体に異常はないか?」
俺が振り返ってそう言った時、
ドサッ。
「あ……」
「ル、ルーナ!」
「おい、嘘だろ……ルーナ!」
ルーナが倒れた。
苦しそうにぜいぜいと息を吐いている。
恐れていた事態が……っ‼︎
やはり、この中で一番体の小さいルーナは毒に対する抵抗力が弱かったんだ……。
マズイ……マズイ……!
何故あんなくだらないことでここに留まってしまったんだ……!
「祐奈!ルーナを担いで走れ!急いで外に出るぞ!」
「は、はいっ!」
祐奈ははルーナを急いで背中に乗せて、全速力で走り出した。
俺たちも祐奈に続く。
その時、上空から『ヒュゥゥゥ………』という、何か大きな物の落下音が響いてきた。
「待て、祐奈。何か……来る!」
「知った事じゃないです!」
しかし、祐奈は走るのをやめない。
「おいおい……待てよ……。勇者ぁ!」
「ッ!」
ズドォッ‼︎
祐奈はその場から飛びのいた。
上空から祐奈に向かって何かが落ちてきたのだ。いや、誰かといったほうが正しい。
黒いローブのようなものを纏ったソレは不気味な声を響かせた。
「ククク……、勇者よ……。ここから先に俺が通すとでも……?」
「邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
しかし、祐奈は一瞬の躊躇もなく、腰の剣を抜き、目の前の敵を脳天から一刀のもとに斬り伏せた。
「私の……邪魔をするなッ!邪魔する奴は……どんな奴でも殺す!絶対にッ!」
祐奈は気を失ってぐったりとしたルーナを抱き締めながら叫んだ。