VS上級死霊
俺たちは侵入する前に作戦を立てていた。
無計画に突撃するのは無謀としか言いようが無い。
「俺たちは今少人数なんだ。正面突破は出来ないぞ。何処か裏口とか無いか?まぁ、バレないなら正面から入っても良いんだけど……」
「見たところ見張りは死霊だけの様です。死霊程度の目ならば魔法で十分誤魔化す事が出来ます。正面突破で行きましょう!」
アスタが自信満々に言う。
まぁ、そこまで言うなら任せてみるか。他に良い案も思い浮かばないしな。
「『偽装魔法』」
アスタの唱えた魔法が俺たち三人を包み込む。
「コレで大丈夫っす。俺たちは少しの間透明になって見えなくなってますから今のうちに侵入しましょう!」
本当に大丈夫なのか?
しかし、そんな俺の心配をよそに、俺たちは門兵の死霊の隣を素通りしながら城の内部へと無事に侵入した。
想像以上にチョロいな。
ジジイも快哉を叫んでいるのか、ポケットの中でカタカタと揺れている。
俺が喋るなと言ったのを忠実に守っている様だ。
なんだか不憫になってきた。
しかし、透明になったら戦闘では無敵じゃね?
「この魔法……凄えな。最強だろコレ」
「いえ、普通の術者なら魔力の流れに気がつきますから。この魔法って対人戦ではあんまり意味が無いんすよ……。あくまで獣から隠れるのに使う魔法っすから」
「成る程な……。世の中甘く無いって事か……」
この魔法はあくまで人には通じないって事か。
まぁ、それもそうか。そこまで都合の良い魔法なんてそうそう無いよな。
魔法そのものが既に都合良いのに。
「ま、今回の門兵は死霊だったからラッキーでしたね!奴らには生前の様なちゃんとした判断能力が無いっすから」
アスタがニッと笑いながら先へと足早に向かう。
「効果時間はそんなに長く無いっすから、早く隠れられる場所まで移動しましょう!」
「おう!」
「はい」
俺たち三人は近場にあったそうこの様な場所の陰に隠れた。
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「アレ、定期的に見回りにきてる死霊だけどさ……。彼奴ら……通路のど真ん中で雑談してる様に見えるんだけど……」
俺たちは物陰からこっそりと周囲の様子を伺っていた。
一定時間ごとに死霊が数体のグループで巡回しているらしいのだが、奴ら、まるで自我のある普通の人の様に振舞っているのだ。
「なんでっすかね……。普通の死霊にはそんな高等な頭脳は無いはずなんすけどね……。主人の命令を忠実に遂行することしか能の無い連中っすよ……?」
それだけ出来れば十分だろうに手厳しい意見だな。
「情報交換する事ができる……と考えるのが自然ですね……。しかし、それなら何故魔力探知能力をつけていないのでしょう……?」
ミドがそこまで言った時、背後から不気味な声がした。
「ワザと侵入させて泳がせていた……っていう理由はどうだぁ……?」
「ッ!」
「ッ⁉︎」
俺たちは瞬時にそこからとびのいた。
しかし、それのせいで通路を巡回中の他の死霊達に見つかってしまった。
「なんだお前……⁉︎」
それより、先ほど俺たちに声をかけてきたコイツだ。
まるで『骸骨が鎧を着て武装しました』みたいな見た目をしている。
RPGとかに出てくるスケルトンナイトってやつか?
「なっ……!ば、バカな……!」
アスタが驚愕の声を上げる。
「どうした?何なんだ?コイツ」
「コイツは……、上級死霊ですよ……。数人の死者の魂を合成して造られる、かなり生きてい者に近い魔法技能を持つ死霊です」
コイツが喋れるのもそれが理由か……。
「コイツはある程度なら主人の命令がなくとも動く事ができます。そして当然ですけど、普通の死霊より強いっすよ……」
アスタは油断する事なく戦闘態勢を維持している。
「こいつら上級死霊達は任務を途中で切り上げる脳みそを持ってます!こいつから主人に報告が入ったら俺たちは終わりっすよ……。ここでコイツの息の根を確実にに止めます!」
「ミドさん、アンタは下がってろ!」
「は、はい……」
ミドは近くの物陰にサッと隠れる。
「へへへ、俺を殺すってか……?良いねぇ、やれるもんならやってみろよ‼︎」
上級死霊はそう言って荒々しくこちらへ突っ込んできた。
先ずもってデカイ。
そして一撃が重い。
「『雷撃強化』!オラァッ!」
俺は雷魔法で強化した手刀で上級死霊の腕のあたりを思いっ切り薙いだ。
ガキィンッ!
「なっ⁉︎」
「バカが!俺の身体が手刀ごときで傷つくかよぉ!」
一撃。
俺の腹部へと敵の長い腕がムチの様にしなりながらグリーンヒットした。
何で硬さしてやがる……っ!それに、パワーも相当なもんだっ!
俺はなす術なく吹き飛ばされる。
ドゴォォッ!
「ぐあっ!」
しかし、俺の身体の傷は超高速で再生される。
残念ながら攻撃方法が打撃だけだと言うのなら俺の負けはないぞ……!
「雑魚共がぁっ!」
上級死霊は更に周囲を破壊しながらこちらへと向かってくる。
だが、問題無い。
『魂喰』を使い、アスタやミドに被害が及ばないように自分の周囲からのみ魔力を徴収する。
コレで『雷撃強化』の強化倍率を底上げする。
俺が魔力を貯めている間、アスタが上級死霊と何合も打ち合っていた。
片や上級死霊の方は骨が変形した鈍器を、アスタは何やら釘バットの様な、金棒の様な武器を持っていた。
アレは多分、死霊が持ってたやつだな。
二人はお互いの武器を打ち合いながら何度もぶつかり合う。
アスタの武器は耐久力が足りていないのか、足元に落ちている別の武器とすぐに交換して再度殴りかかる。
その時、アスタの武器が上級死霊の頭部を捉えた。
しかし、
ガキィンッ!
「へへへ!俺の骨は鋼鉄よりも硬いんだぜ!その程度の武器で傷がつくかよ!」
「へぇ、そりゃあ良い事を聞いたっすね……。『鋼鉄魔法』!」
アレは……確か、対象を鋼鉄に変質させる支援魔法だったっけ……?
「鋼鉄より硬いなら、取り敢えず鋼鉄になって貰うっすよ!」
おっと、そうこうしている内に俺の中の魔力もかなり溜まっていた。
鋼鉄なら……いけるか……?
「アスタ!俺がやる!」
「オッケーっすよ!」
俺は全身を雷魔法で強化し、一直線に上級死霊へと雷の如く突っ込んだ。
「んなあっ⁉︎」
今の俺なら鋼鉄ぐらいものともしない。ハズだ。
「オラァッ‼︎」
一閃。
閃光のように眩い雷光を放ちながら俺は上級死霊の骨を粉々に砕きながら貫通した。
「バカな……っ⁉︎」
「残念だったな……。お前は驕り過ぎて、油断し過ぎた」
「俺が……上級死霊たるこの俺が……」
カラン。
うわ言のように何かを呟いて、上級死霊は動かなくなった。
「こいつの元になってた魂が消えました……。コレでコイツはもう動けないでしょう。まぁ、動けたとしても体がバラバラじゃあどの道役立たずですけどね」
アスタはそう言いながら辺りに散乱した骨の欠片を蹴飛ばした。
その時、ザワ……、という音が聞こえ、顔を上げると、
周囲には群れをなしていると言っても全く過言では無い数の死霊達の姿が。
俺たちは表情を凍りつかせた。
「ま、取り敢えず……ここから逃げるぞ!」
「はい!」
「休まる暇がありませんね……」
俺たちは一目散に走り出した。




