3人なら。
「……小日向、大丈夫?」
顔色が優れていないことに気づいて、僕は小日向の顔を覗き込んだ。
「あ、大丈夫ですよ。ちょっと寝不足だっただけですから」
手をぶんぶんと振って小日向は笑顔を見せる。
その笑顔が急いで繕われたものだとは一目瞭然で、どうすればいいのか対応に困ってしまった。
「危ないと思ったら保健室行きなよ」
そこで僕は1番無難な返事を選んだ。
こういう事があまり無い分、返事には気を遣うしどうすればいいのかわからなくなってしまう。
「えへへ、ありがとうこざいます」
照れ笑いを浮かべて小日向は頬をかいた。
「じゃあ、また後でね小日向」
僕らはクラスが離れていて、階も違う。
僕は2組で5階だが、小日向は5組で6階だった。
ちょうど5階まで階段を上ってきたので、どっちにしろ小日向とはここで別れることになる。
これはどうしようもないことで、小日向が寂しそうな顔をしているのも気付いていたがこればっかりは僕もどうしようもないので気付かないふりをした。
「はい……また後で」
ぺこりと頭を下げて小日向はスタスタと階段を上っていく。
踊り場のところへ出てこちらを振り返るかと思ったが、そのまま階段を上ってしまった。
僕も小日向を見届けた後、自分の教室へ入る。
先生には酒を呑んでいることなどバレてはいないが、教室内で知っている人はきっと数人いるだろう。
それでも先生にバレないのは何故だろうと暇な時に考える。
クラスの前についてドアを開けると、僕の席に腰掛けてなぜか僕より早く教室についている琴吹と話す男子がいた。
彼の見た目はチャラチャラしていて、髪色はかすかに茶色かった。
だからといって見た目はとても整っているので、明らかにモテるような顔をしている。
僕がそいつのいる僕の席まで歩くと、彼は馴れ馴れしく僕に手を振った。
「おはよ、ナツ」
僕のことをあだ名で呼ぶ人はそこまでいないが、彼もまた僕をあだ名で呼ぶ奴で、親しい間柄にある。
鵜飼一。
親しいと言っても、一緒に酒を飲んだり遅くまでやんちゃをする仲間のようなものだ。
そんなことをしてでも彼はもてるのだからつくづく世界は顔なんだなと思わせられる。
「おはよ」
だるそうに挨拶を返すと、鵜飼は僕の机の上からひょい、と降りて僕に向き直った。
クラスではよくこの三人でいることが多い。
琴吹に女友達がいないというわけではなくて、本人は好んで僕らといるようである。
特に鵜飼と琴吹はたまに休日に2人で遊んでいたなんて目撃情報もあるからもしかすると、もしかするのかもしれない。
「うちの方が早く教室ついたな。何かしてたん?」
いまいち答えづらいところを聞かれて一瞬ひるんだが、僕は角の立たない返事をする。
「あぁ、友達と少しだけ立ち話をしてたんだ」
「どうせまた酒呑みの仲間じゃないの?」
鵜飼がけたけたと笑い、それにつられて琴吹もくすくすと笑った。
このふたりといるといつもこんな感じだ。
僕は自らそこまで話したい方ではなくて、出来るものなら聞き手に徹したい性分だ。
だからふたりが会話を繰り広げてくれて、たまに返事をするくらいだから楽である。
こんな日常だからこそ、僕は注視なんてしなかったんだ。
こういうところに、謎は隠されていたのに。