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顔を見れただけで。

「要は、小日向は僕が交通事故で死ぬのを防ぐために時間を巻き戻したっていうの?」


たまってしまった疑問を解決するために問うと、小日向は微妙な笑みを浮かべる。


「私がそんな力を持ってるわけじゃないんですけどね。気が付いたらこうなってて、私もまだ頭の整理があまり出来てません」


小日向自身もそんなに現状を把握していないみたいだから、今たくさん質問してもあまり意味が無いのだろう。

急遽僕は質問攻めから一転、小日向の話に耳を傾けてみることにした。


「…小日向が時間を巻き戻す前で覚えてることはある?例えば、僕がどんな風に交通事故に遭ったとか」


やはり自分が近い未来死んでいると聞かされてはその死に方を聞きたくなるものだろう。

小日向も少し動揺しながら、チラチラと僕を窺って話し出す。


「9月31日…」


「?」


「なっちゃんが交通事故に遭った日にちです。日曜日の、午後6時くらいでした」


その話し方的に、小日向はきっと僕が事故に遭うのを目撃していたと捉えられる。

だからこそ、あんなに泣き崩れていたのだろうか。


「…私達は一緒にいて、私を家に送ってくれる時に、なっちゃんが……」


「その日は日曜日なんだよね?何故小日向は制服を着ていたの?」


日曜日、恋人同士が出かけるとしたらそれは世間一般で言うデートというものだろう。

その時に小日向が制服を着ている理由がわからなかった。

家に押しかけてきた様子を見るに、あれは僕が事故にあった直後に感じる。

だとしたら私服から制服に着替えることなんてしないだろうし、余計疑問が浮かんでしまったのだ。


「その日は、私の提出課題があって…なっちゃんと一緒に学校へ行ったんです」


なるほど、と呟いた。

そういうことなら納得はできるが、どこか腑に落ちないところがあった。

それを問おうとしたとき、小日向が急にバッと立ち上がった。

その顔はとても焦っているようで、僕も驚いて反応に遅れる。


「もうこんな時間になってしまいました!お母さんに怒られるので、そろそろおいとまします」


「そういうことか。なら送ってくよ」


急いで帰ろうとする小日向を呼び止めて、僕は微笑する。


「でも雨も凄いですし、なっちゃんが濡れちゃうので大丈夫ですよ。今はなっちゃんの元気な顔が見れただけで胸がいっぱいなので」


このままだと本当に小日向が出ていこうとしてしまうので、玄関に向かう小日向を早歩きで追いかけた。


「本当に、今日はありがとうございました。明日、学校で会えると嬉しいです」


最後ににっこりと笑って玄関を開けた小日向に、僕は開いた傘を後ろから小日向の前に突き出す。


「わっ!?」


いきなり目の前に傘が現れて驚いたのであろう小日向は、焦った様子で僕の方を振り向いた。


「小日向、傘も何も持ってないでしょ。いくら一人で帰るって言っても、さすがにそれは無理しすぎ」


呆れ笑いを浮かべていると、小日向は恥ずかしそうに顔を赤くする。

どうやら本気で傘のことは頭に無かったらしい。


「傘のこともあるし、送ってくから一緒に行こう」


玄関の目の前に置いてあったサンダルを適当に履いて、僕は玄関を開ける。

先程よりは雨はいくらか弱まっていたが傘がないとかなりきつい量の雨は未だ降っていた。

それにこの蒸し暑さだから余計に外に出る気が失せてしまう。

しかし今の僕は、小日向を送るために外に出ることを億劫には感じていない。


「…迷惑じゃないですか?」


いつまでも慎重な小日向の顔を覗いて、そしてまた顔を赤くした小日向を見て安堵した。

そのわかりやすさから、自ら言うのもなんだが小日向が僕に恋愛感情を抱いているというのは本当のようだ。


複雑な気持ちを抱きつつ、僕は先に外に出た。


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