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雨の日。

今日は、やけに雨がひどかった。


7月31日


夏の日ということもあり湿度が高くて冷房無しでは干からびてしまうような気持ち悪い暑さだった。

机の上にはもう生ぬるくなってしまった炭酸飲料がある。

のんでもよけいに気持ち悪くなりそうなので冷房の温度を下げた。

そして部屋には少し鼻にツンとくる酒のにおい。

消臭剤をまたまかなければ酒を呑んでいたことがバレてしまいそうだった。

そうなると後々が面倒なので消臭剤を取りに部屋から出た。

廊下は冷房が効いていないので一気に体がだるくなる。

今すぐにでも部屋に引き返したい気持ちに襲われるがなんとか踏みとどまって階下へ降りた。

リビングは冷房だけが効いていて中には誰もいない。

両親共働きの僕は、この時間はずっと一人だった。

廊下の棚の中にある消臭剤を取り出して部屋に戻ろうとしたとき。

その出来事は突然だった。

今思えば、僕が突然なことに巻き込まれるのはこれが最初だったかもしれない。


玄関のインターホンが鳴った。

こんな暑い雨の日に誰だろうと思った。

今家にいるのは僕だけなのでもちろん僕が出ることになる。

少々めんどくさくなりながらも自分の服の臭いを嗅いで酒の臭いがしないことを確認してから玄関まで歩いた。

2度目は鳴らなかった。

恐る恐る鍵を開けてドアを開ける。

一軒家の家のこのドアには覗き穴がない。

そのことを少し嫌に思いながらも顔を出してみると、目の前の人物に僕は目を見開いた。


「…えっと、どちら様ですか?」


目の前の少女は、僕と同じ赤草あかくさ高校の制服を着ていた。

セーラー服にベストを着て、ハイソックスに茶色いローファー。

とくに着崩しは見られない服装だった。

しかし彼女の顔はうつ向いてよく見えなかった。

髪も服もびしょ濡れで、髪は顔にべったりくっついているし、制服が重そうだった。

まず、僕の家に同級生が訪れるなんてことはそうそうない。

僕がつるんでいるのは酒やタバコを普通に使用するような人だし、女友達なんてそんなにいない。

家を訪ねてくるほど仲がいい奴なんてすぐに思い当たる人はいなかった。

それなのに、制服の着方からして真面目そうな彼女が、どうして僕の家に来たのだろう。

僕の問いかけに、彼女は何も言わなかった。

肩が少し震えているのはわかる。

それは雨で体を濡らしたせいなのか、それともまた別のなにかなのか。

それはわからないけれど、とにかく彼女をこのままにするのは良くないと思った。


「よくわからないけど、全身びしょ濡れだから入って。タオルとか貸すから」


平静を装ってドアを完全に開けると、彼女はいきなり声を出した。


「…なっちゃんだよね…?」


その呼び名は、僕のことを呼んでいるのか。

確かに名前とかぶってはいるけれど、僕のことをそんなふうに呼ぶ人は初めてだ。


「……瀬垣せがきだけど」


わかるように名字をいうと、彼女はやっと顔を上げた。

その顔は、目が赤くて、とても整っている綺麗な顔だった。

その顔が、汗なのか涙なのか雨なのか、よくわからないものでぐしゃぐしゃになっていた。

唇をわななかせて彼女は僕の目を見る。

その瞳は、何かを思い出しているようだった。


「なっちゃん…」


彼女はよけいに顔を赤くして、目元を手で擦った。

僕がその“なっちゃん”らしいが、やっぱりそう呼ばれる意味が理解できなかった。

またその場で泣こうとしているので、僕はまた同じことを言った。


「中に入って。お願いだから」


彼女はこくこくと何回も頷いてゆっくりと目を擦りながら玄関の中に入った。

ドアを閉めて鍵をかけた後、その場に来客用のスリッパを差し出した。

彼女はしゃっくりをあげながらそのスリッパに履き替えて僕のあとをついてきた。

リビングに入ると、涼しい風が体中を癒してくれた。

小さくため息をついて、僕は振り返る。

彼女はまだ泣き止んでいないみたいだ。


「そこにいて。タオル取ってくるから」


彼女をリビングにひとり残し、僕はタオルが置いてある洗面所へ向かった。


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