ザ・チーペスト・チート
俺の名前は十六夜一二三! ちょっと根暗で友達いないけど、なんだかんだイイヤツ。
めんどくさいけど今日も学校行くか。
きゃートラックよー、あれ、こっちに突っ込んできてるぞ?
どかーん。
「女神デース、転生サセマース」
うおー、しゃべれなーい、なんてこったー、赤ん坊になっちまったぜー。
魔法カッコイイから魔法の練習します。あと剣術も練習しまーす。
~ 十 年 後 ~
「きゃー、魔物よー」
私は美女冒険者。風の魔法を使ったり剣で戦ったりとなかなかオールマイティで、その美しい容姿も相まって冒険者連中の間では人気な私がいま、本来は街の近くの森で出るはずのない強力な魔物に襲われてまーす。
「た、たすけてー」
「助けるぜ!」
魔法どかーん。魔物やられーる。
「すごい魔法! 助かりました、ってこんなにちっちゃな男の子!?」
「きれいなお姉さんに怪我がなくてよかったです」
「そんな、きれいなお姉さんなんて、きゅん」
私は美女なはずなのに褒められ慣れてないのですぐに惚れてしまう。
「実は僕は冒険者になりたいのですが、案内してもらえませんか?」
「冒険者? まだそんなに小さいのに冒険者になるの?」
「はい。僕は魔法も剣術もある程度できて勉強もできるから、もっと安定した職にもつけるはずなのに、一体どうしたわけか、冒険者になろうと思ったのです」
「もっと安定した職にもつけるはずなのに、冒険者になろうと思ったの?」
「はい。治癒魔法を使った医者モドキとか、知識を生かせる貴族の子供の家庭教師とかになって安定した収入を求めることもできるはずなのに、なぜか冒険者になろうとしてます」
「なぜか冒険者になろうとしてるならしょうがないわね。案内するわ」
「やったぜ!」
~ 冒険者ギルド ~
ざわざわ、ここが冒険者ギルドかー。早速受付に行くぜ。
おお、受付嬢は犬の獣人だぜひゃっはー。
「では冒険者になりたい方はここに名前を書いてください」
「ケモ耳だー」
「さわりますか?」
「さわりまーす。なでなで」
「なんて心地いい撫で方、きゅん」
俺のテクニカル・ナデ=ナデにときめいちまいな。
「はふう、なんてテクニカル・ナデ=ナデ。でもひいきは出来ませんのでFランクからでーす。この世界ではアルファベットは使われていませんがとりあえずFランクからでーす」
「ちぇ、まあしょうがねえや」
「あ、そう言えば忘れてましたが魔法使いなら魔力量の測定をしましょう」
「それはランクを決める前にするのではござらんか」
「申し訳ない」
「そこまで言われちゃしょうがねえや、おっとどれどれ」
魔力を測る水晶的な奴に手をかざす。ぱりーん。
「なんてこと! 千年以上前の偉大な……とにかく偉大な魔法使い様が魔力を込めても壊れなかった魔力を測る水晶的な奴が壊れてしまうなんて!」
「すごい! その年で上級魔法を使っていたから、すごい魔法使いなんだとは思っていたけれど、まさかそこまでなんて!」
「あんただれ」
「あ、美女冒険者です」
「まだいたんだね」
「二人の会話がハイテンポ過ぎて割り込めませんでした」
まあとりあえず、僕の魔力は普通では考えられないほど多いらしいでーす。
「一体、どんな修行をしたらそんなに魔力が増えるんですか?」
「多分、小さいころからコツコツ頑張ってたからですね!」
「小さいころから、コツコツと」
「若いころの苦労は買ってでもしろと言いますし」
「なるほど」
人間、大人になっていくにつれ己に課せられる責任は大きくなっていく。それはすなわち失敗を許されないということであり、それゆえ行動を起こすことに対して臆病になってしまいがちだ。だから自由な、真に自由な若者に言いたい。
若いうちの苦労は、買ってでもしろ。
「とりあえずこれで登録は終わりですが依頼は受けますか?」
「受けまーす。何がありまーすか?」
「ゴブリン討伐か、薬草採集ですね」
「それならゴブリン討伐します」
「いってらっしゃい。美女冒険者さんも、行ってらっしゃい」
「これが惚れた弱みというやつね、本来はもっとランクの高い仕事をする私だけど、これからはあなたと一緒に行動するわ」
「やったぜ、仲間がいるって心強いぜ!」
~ ゴブリン討伐 ~
魔法どかーん。剣術ずばーん。
~ 完了 ~
「ふー、疲れたぜ」
「ふー、疲れたわね」
「おいおい、美女冒険者じゃねえか。どうしてそんなガキのおもりなんてしてんだ?」
「あなたは! しつこく私に付きまとってくるガラの悪い冒険者! この辺りの悪質な冒険者たちをまとめるボス的な奴!」
「そうだ俺はガラの悪い冒険者だ! そこそこ実力もあるぜ! そして美女冒険者に惚れてるからその周りにいる男どもには容赦しねえぜ! たとえそれが十歳くらいの、パッと見は明らかに釣り合っていない奴だとしても性別が♂なら気に食わねえぜ! 美女冒険者を賭けて俺と勝負しやがれガキンチョうおー」
「その喧嘩、買ったぜ!」
「勝手に賭けの商品にされてるけど気にしないわ! 彼はこの街で一番強いの! 気を付けて!」
「へっへっへ、二度と美女冒険者には近づきませんって泣いて謝れば許してやるぜ」
「魔法どかーん」
「ぐわー、やられたー」
街一番の強さを誇るガラの悪い冒険者を倒したことで、周囲の見る目が変わる。
「スゲー」
「スゲー」
「まじスゲー」
「俺の勝ちだ」
「やだカッコイイ、きゅん。助けてもらった時以上に、きゅん」
第一夫人確保。
~ なんやかんや ~
「なんやかんやあって、観光がしたくなったぜ!」
「それはいい考えね! じゃあ早速旅に出ましょう!」
旅立ちの準備。そして、街を出ようとした時。
「待ってください!」
「あなたは……犬耳受付嬢!」
「私も連れてってください! どうしてもあなたのテクニカル・ナデ=ナデが忘れられないんです! あれからたまに自分で自分の頭をなでたりしてみるんですがどうにも納得できなくて……はあ、はあ……ナデ=ナデを……私にナデ=ナデを……」
それは仕方がないと言えよう。何といっても俺のテクニカル・ナデ=ナデは煙草よりも依存度が高く麻薬よりも快楽が強い。転生前のご近所では俺が道を歩くだけで犬を室内に入れるご家庭が続出してたくらいだ。
「でも旅となると危険も付きまとうわ。戦う力がないあなたではどうにも……」
「実は元Bランク冒険者です」
「Cランクの美女冒険者よりも心強いぜ!」
「(白目)」
第二夫人確保。
~ 闘技場のある街 ~
この街は冒険者が多く、闘技場がある。闘技場では大会が行われている。
以上。
「大会にでるよ。なでなで」
「それは唐突ね。どうしてなの?」
「はあ……はあ……へっへっへっへ、わんわわーん」
「優勝賞品がドラゴンでした。ドラゴン、カッコイイ、欲しい、ぼく大会にでる。なでなで」
「単純明快ね」
「びくんびくんッ! わおーん!」
「うるさい」
大会当日。
一回戦の相手は前回の優勝者。
「おいおい、あの小僧もかわいそうに」
「一回戦から前回の優勝者だもんな。下手したらあいつ、死ぬぜ?」
「しかもあいつ、Fランクらしいぜ」
「F? 最弱じゃねえか、かわいそうに」
「ふふん、かわいそうなのはどっちかしら。大丈夫、私たちだけはあなたが勝つことを信じてるわ!」
「びくんっ! わ、わふ……へっへっへっへ」
この街の大会は国内でも人気のイベントで、国王と姫も見に来ていた。
「今回の優勝者をお前の夫にしよう」
「あまりにも唐突ですわお父様。あらでもあの男の子、私と同じくらいの年でかわいい。あの子が優勝してくれたらいいのに。でも無理ねだって相手は前回の優勝者だもの」
試合開始。
「うおー、俺の大剣は一発でも当たったらあの世行きだぜ気をつけな小僧!」
「魔法どかーん」
「ぐわー、やられたー」
「なんだと、勝ちやがった! あの小僧、ほんとにFランクか!?」
「スゲー」
「スゲー」
「Fランクまじスゲー」
その後も順調に勝ち進んで優勝しました。やったね!
「これが優勝賞品のドラゴンでーす」
「でかくって、黒くって、固くって、かっちょいいぜ!」
「よかったわね。あれ、でもこの子女の子みたいよ。カッコイイより、可愛いがいいんじゃないかしら?」
「ウウウウウ、わんっ、わんっ!」
「お座り」
「わふ」
「しかしメスのドラゴンか」
「どうしたの?」
「いや、これはどうしてか全くわからないんだが、そのうちこの子は人間の女の子になる気がするんだ」
「そんなまさか、と言いたいところだけどどうしてかしら。私もそんな気がしてきたわ」
「ペット兼美少女枠は私で埋まってるんですが……しかしどうしてでしょう。私もそんな気がしてきたワン」
「キャラ付けくどくなってるぞ」
その時、突如ドラゴンの体が光る。次の瞬間、ドラゴンの巨体はなくなり、小さな女の子がその場に現れる。
「がっはっは! わらわはドラゴンなのじゃ! 見た目は黒髪の美幼女じゃがしかし、千歳を優に超えるこの中での最年長者なのじゃ! ご主人様よろしくおねがいしますなのじゃ!」
「キャラ付けくどすぎワロタ」
ペット確保。
~ それから少し ~
大会の後、その街の冒険者ギルドへ向かうと国王陛下から伝言が残されていた。
『わしの娘と結婚してもらいたい』
「唐突すぎクソワロ」
「ちょ、ちょっと! け、けけけけけ結婚ってほんとなの!」
「ぶっちゃけその『けけけけ』って動揺の仕方、変だよね」
「うん。顎がすごく疲れる」
「あ、あの! 結婚ってほんとなんですかワン!?」
「がおー、がおーなのじゃー」
「なにこのサファリパーク」
とりあえず、王都へ向かうことに。
~ 王都 ~
「おぬしには娘と結婚してもらう」
「ちょっと待ってくれ、それはあまりにも急すぎないか? そもそも会ったこともないのに急に結婚なんて、お姫様がかわいそうだぜ」
「ため口かい」
「いいえ、いいんです。優勝した人」
「あんたは?」
「私はこの国の姫です。そして先程のあなたの言葉、自分だって急のことで混乱しているはずなのにまず私を気遣うやさしさ、心に染みました。結婚してください」
美女冒険者、第二夫人へ降格。
犬耳受付嬢、ペット1に降格。
がおー、ペット2に降格。
NEW! 姫、第一夫人に!
姫と結婚し王族の仲間入りを果たした矢先、魔人たちが攻めてくる。
「魔人国との戦争の始まりじゃ……」
「前世では一介の学生に過ぎなかった俺だけど、なんか勝てる気がするから最前線で指揮とるわ」
「なんだかお前ならやってくれそうだから任せる」
「俺の奇策をお見舞いしてやるぜ!」
山に囲まれた盆地、そこで魔人たちは天幕を張っている。
「なんだか流れで来ちゃったけど、これからどうするの?」
「うーん、とりあえず」
魔法どかーん。
「これが俺の奇策だぜ!」ドン!
「スゲー」
「スゲー」
「奇策まじスゲー」
「さすがね。ますますときめいちゃうわ、きゅんきゅん。抱いて!」
「わんわんっ! 私も抱いてください!」
「がおー、抱いてがおー」
「待ってください皆さん、まずは第一夫人の私からですよう!」
「はっはっは、焦らなくても良いぜ、子猫ちゃんたち」
「犬ですが」
「竜ですが」
「あ、なんかすみません……」
・
・
・
・
感想欄
・最初の頃は勢いがあってよかったが、王族に平気でため口使ってるあたりで辛くなってきた。少なくともこの世界で十年過ごしている主人公の言動としてはどうなの?
・奇策が奇策じゃなくてワロタ
・正直、すべての展開が「敵が出る」→「あいつには倒せっこない」→「魔法どかーん」→「スゲー、まじスゲー」の流れでいい加減飽きてくる。まあ作者の頭が悪いからそれ以外の展開が考えられんのかもしれんが。
・がおーかわいいよがおー
・なんか感想欄におかしな人が湧いてますね。ああいうのは気にしなくていいですよ。私は面白いと思ってますし、他にもブックマークの数だけ、面白いと思ってる人がいるはずです。これからもどうか、自分のペースでいいので完結目指してください。応援してます。
*
この連載小説は未完結のまま約半年以上の間、更新されていません。
今後、次話投稿されない可能性があります。予めご了承下さい。
*
私は鞄から煙草を取り出し、そっとガスライターで火をつけた。メンソールがすっと抜け、仕事の疲れをほんの少しだけ紛らわせてくれる。
「また『エターナル』、か」
「あ、どうもお疲れ様です」
声に顔を向けると、すでに着替えをすませた主人公役の男の子が立っていて、こちらにぺこりと頭を下げる。その仕草は年相応で、妙にかわいらしい。役に入っている間にはあんなにも上から目線なのにね。こっちの方がずっといいわ。
男の子がこちらを窺っているようなので、手招きして隣に座らせた。
「終わっちゃいましたね」
「まあ、まだわからないけどね。一年後とかにまた、ふっと続きが出たりリメイクされたりするかもしれないし。ところできみはこの小説の後は大丈夫なの? 次の小説とか、ある?」
「ああ、僕ですか。えっと、はい。大丈夫です。次は『異世界転生 ~魔導士だけど物理で殴る~』ってのに出る予定ですね」
「え、君もなんだ」
それは奇遇だ。私の次の小説も、それだから。
「また主人公?」
「そうですね。なんだか僕のイメージがぴったりらしくって」
「私の方もよ。また主人公のお姉さん的なポジション。そう言えばこの前の小説もそうだったかしら。なんだか最近、似たような役が多いのよね」
いつからだろうか。
少しドジで、主人公にひそかに思いを寄せる素直じゃない年上の女性。そんな役ばかりが回ってくるようになった。
作品に応じて髪の毛の色を染めたり武器を変えたりするが、その中身は変わらない。物語が途中でエタらなかったとしても、後半追加されるキャラクターの強いヒロインたちに押されハーレムの中では最も地味になる、そんな役。
「なんかたまにはさ、悲劇的に死んでみたりもしたいわよね」
「はは、でも僕らが出る小説って、メインキャラはほとんど死なないじゃないですか。ましてヒロインなら、死んだりなんかしませんよ」
「そうなのよね……あーあ、死にたいなー」
「物騒なこと言ってるわねー」
横からそんな声をかけられ見る。どうもシャワーを浴びてきたらしい。犬耳がしんなりとした少女が立っていた。
「あ、受付嬢」
「やめてよ。私今度の小説でも受付嬢なんだから」
「なんてやつ?」
「物理で殴る」
「一緒じゃない」
三人一緒、か。さすがに全員一緒ってことはないだろうけど、あと一人くらいは一緒に出る人がいるかもね。たとえば、そう。王様とか?
私はずっと手に持っていた、半分以上灰になった煙草を灰皿に押し付けた。それから立ち上がり、ぐっと背中を伸ばす。
「ん……っと。よし、じゃあ、次の現場に行こうか。三人だし、タクシー使う?」
「そうね。それに賛成だワン」
「役残ってる、残ってる」
「ははは」
笑いながら、楽屋を出る。さあ、次の小説へ向かおう。
今までと変わらない、判子を押したみたいなお姉さんキャラを演じるために、次へ――