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ある勇者の物語  作者: 立住正吾
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旅立ちの決意

クロとの邂逅から二月ほどが経った。その間に俺は、色々と情報を整理し、旅立ちの準備を整えていった。

アンナを助けなければ!クロが言っていたことが本当であれば、アンナの魂は邪神に囚われている。問題は邪神が何処に居るかも分からないことと、この世界の地理には全くといって良いほど無知であること。アリクにそれとなく邪神と呼ばれる存在についてに訊ねてみたところ、王都の連中が熱心に拝んでいる神に仇成す邪神がいるらしいことを教えてくれたが、それ以上は彼も知らないらしい。


圧倒的に情報が足りないな。クロはあのとき以来呼び掛けに答えないし。


頭に来る話だが、クロはあの晩以来、沈黙を続けている。だが、クロの言った「力」とやらは役に立ちそうだ。


あの晩以来、俺は精霊が見えるようになり、彼らの囁きも耳に入るようになった。最初は魔物かと思ったが、木々には風や土の精霊が見え、火には火の精霊の姿を見ることができる。ただ、俺が怖いのかクロのせいなのか、近寄ると直ぐに何処かに逃げてしまう。アリクにも小さな女の子の火の精霊が見えたが、こちらと目があった瞬間、直ぐさま隠れてしまった。


別にとって食ったりしないのにな。


何度か精霊たちとコミュニケーションを取ろうと悪戦苦闘したが、端から見たら怪しい奴だっただろう、どうしてもダメだった。まぁ、精霊たちの話が聞こえると言うことは、今後大きな手助けになるだろう。

ただ、精霊たちの話に聞き耳を立ててみたものの、有用な話は得られず、やはり情報不足なことには変わりなかった。


情報を得るためには、やはり人の多い所でないとダメか。


俺はそう考え、俺は王都に行くことを決意し、ここ暫くを旅立ちの準備に充てていた。といっても畑での収穫の手伝いと、僅かばかりの小遣いでの身の回り品の調達が殆んどだったが。


アリクは薄々気付いているみたいだ。一度、自警団の訓練に誘われたが丁重に断っておいた。どうやら自警団に加えることで思い止まらせようとしているらしい。アリクとダビッド隊長とは手合わせしてみたい誘惑には駆られたものの、高慢なようではあるがアリクの自尊心を傷付けるが嫌だったし、何より村人たちとの関係がおかしくなることが怖かったのだ。



ある晩、畑仕事を終え、晩飯の席についた俺は、アリクとメイアに話を切り出した。


「王都に行ってみたい。」


アリクとメイアはスプーンを止め、こちらをまじまじと見る。アリクは「やはりか」という顔で、メイアは悲しそうな顔をして。


メイア、そんな顔で見られると決心が鈍る・・・。


彼女とは大分仲良くなっていた。多分、自惚れではなく好いてくれているだろう。二人で家事をこなしていると好意を感じる時が度々あった。

だが俺の決意は固い。

そのままアリクの目をまっすぐに見る。

少ししてアリクが口を開いた。

「いつ、行くんだ?」

「次に王都に行く行商隊があるだろ?それに付いていこうと思う。」

「そうか・・・」

アリクはそのまま黙ってスプーンを口に運ぶ。メイアはすがるようにこちらを見ていた。


「向こうで何するんだ?アテはあるのか?」

「知人が商売をやってるらしいんだ。その人を頼りに仲間を探そうと思う。」

アリクには仲間たちと森ではぐれたことにしている。無論、知人の件も適当だ。


ふーっと溜め息をつき、アリクは続けた。

「いつまで居るんだ?帰って来るんだろうな?」

「仲間が見つかったら一度帰ってくるよ。ただ、いつになるかは分からない。」

俺は正直に答えた。

アリク再びふーっと溜め息をつき、メイアをちらりと見てこちらに言った。

「六月、いや五月で帰ってこい。それが命の恩人に対する礼の一つだと思え。」

「分かったよ。帰ってくるよ。」

「あと、手紙は送れ。行商隊が届けてくれる筈だ。」

「寂しいの?アリク。」

ややおどけて俺は言った。

「バカを言え!誰がオメェなんぞに!」

笑いながらアリクは少し寂しそうに答えた。


ほら、やっぱり寂しいんじゃないか。


そう答えようとして、メイアの少し寂しそうな目と合い、慌てて口をつぐんだ。


次の行商隊まで、後半月だ!

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