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ある勇者の物語  作者: 立住正吾
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黒き蛇

村から離れた真っ暗な林の中でヒロは一人立っていた。月の光と左手に込めた魔力の光で周りがぼんやりと明るい。

ヒロはアリクの話を聞いて思い立ったことを試してみようと思っていた。

ヒロは目を瞑り左手に意識を集中すると共に、複雑な発音で詠唱を始める。


「Estr mo yolsts ep...」


ゆっくりと突き出される左手の光が徐々に力強くなる。


「Jo up zprup...ファイアボール!」


最後の詠唱と共にヒロは光輝く左の掌を上に向けると、音と共に幾つもの火の玉がその掌から10センチほど浮いた状態で現れる。

ヒロは目を開け、お手玉のように火の玉をぐるぐると回すと、満足そうに少し笑った。そして少し息を吐き掌を閉じると、火の玉は掻き消すように消える。


ヒロが自分の魔術を試してみようと思ったのは、昼に見たアリクの魔法への僅かばかりの対抗心があったのと、自分の立てた仮説を実証しようとしたからだ。


コイツ、精霊なんじゃないか??


ヒロはアリクの話を聞きながら、自分の右腕に張り付いた蛇のような紋様について考えたのだ。

精霊ならば魔力を与えれば反応するはず。現に一度魔力を込めたら身動ぎしたように見えたではないか。

ヒロはそう考え皆が寝静まった頃を見計り、林の中に一人来たのだ。


ヒロの身体は、この世界に徐々に馴染み、今ではほぼ元の世界のようにマナを魔力として取り込めるようになっていた。今のヒロの魔力は、鈍ってはいるものの、かつて魔王と死闘を演じた時ほどまで回復していた。

仮にコイツがヤバい呪いの類いであったとしても、今の自分ならなんとかなるだろう。背中に背負う家から拝借してきた槍を左手で持ち、穂先を見ながらヒロは考えた。この槍はアリクが魔物を倒すときに使ったもので、刃先は潰されていないものだ。


ヒロは大きく息を吸い息を止める。目を閉じ自分の回りのマナを感じながら、慎重に右手に意識を集中させる。ふーっと鋭く息を少し吐き、徐に息を止め、眉間に少し皺を寄せる。ヒロは自らの魔力量の中から、針の穴に糸を通すように少しずつ魔力を右腕の蛇の紋様に注ぎ込んでいった。心なしか蛇が動き、暗闇よりも更に暗い滑りのある黒い光がヒロの右腕から放たれるのが見える。

ヒロはゆっくりと息を吐きつつ眉間の皺を深くしていき、少しずつ注ぎ込む魔力量を増やしていった。



これ以上は止めておくか。


20分程の時間が経ったとき、右腕の黒い光を見つめながらヒロは考えた。まだ魔力は半分以上残ってはいるものの、何かあったときに残った魔力だけでは心許ない。そう考えたヒロが意識を右腕から意識を逸らそうとしたときに異変に気づいた。


魔力の流入が止まらない!


ヒロが意識の集中を止めたにも関わらず、魔力が、まるで紋様に吸い込まれるように、加速しながら右腕に流れ込んでいく。


「くっ!」

焦りの色を露にしたヒロが魔力の流入を止めるべく、槍を持った左手で右腕を掴む。左手に意識を集中させ、左手を媒介し右腕に流れ込む魔力を懸命に止めようとするが止まらない。ヒロの右腕を中心として幾つもの滑る黒い光の奔流が迸り、紋様の蛇が狂ったように踊る。急速な脱力感。


もうダメか!


左手の槍の刃先で右腕を切り落とそうとしたときに、不意に黒い光が止んだ。


「うっ・・・。」

殆どの魔力が吸いとられ、耐えられずがっくりと膝を着くヒロの頭に、声が響いた。


『お呼びでしょうか?我が主よ。』


ヒロがはっと目を上げ、右腕の蛇の紋様を見ると、闇のような真っ黒な双眸が、ヒロを見ていた。

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