魔術と魔法
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良いものが見れた!
畑に戻る道中で俺は少し興奮する頭でそう考えた。アリクとダビッドの戦いは勿論、見所のある戦いであったし、何より自分の知らない体系の魔術に出会えたからだ。
あれは何だろうか?ルーンの詠唱が聞こえなかったから、自分の知る魔術とは異なるようだ。何やら呼び掛けをしているようにも聞こえた。
なにより、小さかったとはいえ、複数の火の玉を自在に操るというのは余程の練度が必要だ。アリクにそこまでの魔術の才能があったとは!帰ったらアリクに聞かねばならないな。
逸る心を抑え小走りに畑に向かい、恐らくは過去最高の記録で仕事を終わらせた俺は、足早に家路に着いた。
「今日は凄かったね!」
夕飯を食べながら俺はお世辞抜きにアリクを称賛する。
「なんだ、見てたのか。」
茶色の髪をかきあげ、アリクは照れ臭そうに精悍な顔をほころばせた。
妹のメイアもニコニコとアリクの顔を見ている。
「隊長も凄かったけど、アリクの槍も凄かったよ。」
これは本当の気持ちだ。少なくとも俺の知る騎士達の腕前と、何ら遜色の無いように見えた。
「それに、あの火の玉も凄かったよ!」
「おー、あれか。ようやっと精霊も力を貸してくれるようになってなぁ。」
アリクは食べる手を止めニヤニヤしながら答える。
「精霊??」
「何だ知らんのか??」
アリクは怪訝そうな顔をして答えた。
「そういうことには疎くって・・・。」
適当に誤魔化す。
「そうか、お前んとこの村では魔法を使えるやつがいなかったのか。」
ウンウンと頷き、やや得意気な顔をしながらアリクは精霊について語り始めた。
聞けば精霊とは、万物のあらゆるものに宿る存在であり、それこそ道端に転がっている石や、耕している畑にも宿っているらしい。らしい、というのは、アリクも聞いただけで、見たことはないとのこと。上級の魔法使いやドルイドであれば、それこそ精霊たちと会話をし、時にはその姿を垣間見ることも出来るという。
「俺もまだ精霊の存在を感じることは出来るんだけど、まだ会話をするほどにもなっていないんだよなぁ。」
アリクは残念そうに言った。
「さっきの、魔法、というのは、精霊に力を貸してもらって使ったの?」
「おぉ、そうだ。ちょっと魔力をあげるから、力を貸して欲しいってお願いしたんだよ。」
なるほど。何かに呼び掛けをしていたと感じたのは間違いではなかったらしい。
夕飯を食べながらアリクの精霊談義は続いた。まず、精霊には大きく分けて6つ、火、水、風、土、光、闇が存在し、それぞれの精霊に対して魔力を提供することで、その精霊から力を借りるらしい。ただ精霊は酷く嫉妬深く、複数の精霊から力を得ることは難しいらしい。例えば、アリクは火の精霊とは仲が良いが、他の精霊とは仲が悪く、アリクは火の魔法以外は使えない。ただ精霊に好かれると言うのも一種の才能で、万人が出来るものではない、とアリクは得意満面に続けた。
ふむ。俺の知る魔術とはかなり違うな、、、。
魔術は術式と呼ばれるルーンの詠唱により体内の魔力を利用する方法だ。当然、威力のある魔術ほど多くの魔力と、複雑な術式が必要となる。また魔力量や一度に放出できる魔力にも個人差がある。俺の魔力量も相当なものらしいが、俺の仲間だった女魔術師には足元にも及ばない。それこそ魔王なんぞは、どれ程までの魔力量があったのだろうか。
色々と試してみる必要があるな。あることを考え、最後の果物をつつきながらアリクの自慢話を聞く俺を、気のせいかメイアが不安そうに見ていた。
その晩遅く、皆が寝静まった頃、俺はベッドから起き出した。二人を起こさぬように忍び足で外に出て、林の中へと向かった。