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ある勇者の物語  作者: 立住正吾
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勇者はどこに行ったのか?

あるところに勇者が居た。勇者が居たということは、とどのつまりは魔王が居たということであった。


魔王は、所謂魔を統べる王ということもあり、強大な魔力を持ち、凶悪な軍勢を従えていた。魔王の侵攻は衰えることを知らず、人々のみならず妖精たち、精霊たち、獣族たちを恐怖のドン底に叩き落としていた。

曾ては人々の間でも争いがあったりもしたが、この魔王の出現により、手に手を取りこの強力無比な魔王の軍勢に対抗した。また、決して人々と仲が良かったとは言えない妖精たち、獣族たちも、一時的にとはいえ反魔王のために人々と共闘をすることすらしたのだ。とはいえ魔王の軍勢は強力で、反魔王の勢力は一進二退の戦いを余儀なくさせられていた。


勇者は反魔王の勢力が劣勢に陥っているときに誕生した。よくあるお伽噺にあるように、片田舎の農村の、とある慎ましい農家の夫婦の間に産まれた。彼は、産まれたときから勇者と呼ばれていた訳では当然なかった。ただ剣術や魔術といったものに非凡な才能を有していたが、18の時までは牧神への讃美歌を歌いつつ、彼の両親を支え、日々の労働の喜びを謳歌していた。


彼が魔王の討伐を心に決めたのは、ついに住んでいた片田舎の農村に、魔王の軍勢が現れた時であった。幸いにも片田舎とはいえ、それなりに腕の立つ守備隊がおり、彼自身もその時には精悍な青年となっていたこと、なにより魔王の軍勢についても片田舎の農村に現れる程度であったことから、幾人かの死者を出したもののこれを撃退することに成功した。


この死者の中に彼の親しいものがいたことが、魔王の討伐への道を進ませる結果となったのだ。

彼の両親はいたく反対したようであるが、若者にありがちな血気盛んな意見に押し切られる形で、彼の旅路を見送ることとなった。旅の最中に出会った得難い仲間たちと共に、幾つかの海と大陸を超え、魔王の討伐にむかったのだ。

時には竜族すらも味方につけ、魔王の軍勢と戦った彼を、人々はいつしか勇者と呼ぶようになった。勇者は魔王の軍勢を次々と打ち破り、時には仲間との今生の別れもあったものの、遂には魔王の潜む魔城へと到達し、魔王と雌雄を決することとなった。


勇者たちと魔王の戦いは熾烈を極め、勇者たちが魔王に迫れば魔王がこれを撃退し、魔王が勇者たちに迫ればこれもまた勇者たちが撃退する、その繰り返しであった。勇者とその仲間たちの力は素晴らしいものがあったが、魔王もまた恐るべき力の使い手であったのだ。


勇者がいつ、どのように魔王を倒したのかは誰も知らぬ。いや魔王が倒されたのは明白で、これもよくあるお伽噺のように、暗雲立ち込めていた空が開け、荒れていた海が穏やかな海となったことから、誰もが魔王が倒されたことを知った。何より魔城の玉座で事切れた巨大な魔王の姿と、その首に深々と刺さった聖剣を、王都から調査に来たへっぴり腰の騎士どもが発見したのだ。ただそこに勇者の姿はなく、勇者の仲間たちも皆倒れ、誰も勇者がいつ、どのように魔王を倒したのか分からぬのであった。だが一部を除いた人々にとって、勇者が行方不明となったことや、魔王がどのように倒されたのかなどということは、世が平和になったことに比べれば些末なことな過ぎなかった。一部の人々、勇者の両親や勇者と親しかった人々は、彼の帰還を願ったものの、その他大勢の歓喜に流されるまま、遂には諦めがつき、自らの家に勇者の肖像画を飾ったりするようになった。また吟遊詩人なんぞは、勇者が行方不明となったことやその魔王との戦いの様子を、誰も知らぬことを良いことに、これもまたありがちな英雄譚に仕立て上げ、まるで自らが見聞きしてきたかのように各国の王に聞かせることで、自らの売名に余念がなかったりもした。




勇者はどこに行ったのか。それは誰も分からぬ。

とりあえず序章です。

次から勇者目線になります。

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