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第十四話 今の自分にできること

 ガキン――――ッ!


「させま、せんわ……!」


 目を覆う一瞬の発光。ついで響き渡る金属音。弾ける火花。そして、竜人形の前に立つ巨大な白い騎士。今まさに押しつぶされそうになっていた小さな子供が、目を丸くして自分の前に立つ金髪の少女を見つめた。


「皆さんに、手は……出させませんの!」


 誰もが目を疑う。自分達が責め立てた少女が、自分達を守るために竜人形の前に立つ姿に。


「ダルク!」


 飛び出しかけていたジャンは、目の前のアルタイルと彼女の乗る竜人形から目を離さず、ダルクの名を呼ぶ。だが、そんなジャンの叫びを聞くこともなく、ダルクは動きを止めた竜人形を無視し、召喚した白い騎士人形の胸部に飛び込んだ。


「ジャン! ダルクさんがあの魔法人形に……!」

「分かってるよそんなこと!」


 エリーの怒声を耳に受けながらも、ジャンは現状を打破する方法に思案を巡らせる。

 だが、状況は最悪だ。目の前にはアルタイルと竜人形。背後には逃げ遅れた人達とそれを襲う竜人形。その竜人形に立ち向かおうとする、壊れたままの白い騎士人形を駆るダルク。


「彼女も学ばないわね。勝てないから、今までずっと逃げ回ってたくせに」

『それでも、町の人を傷つけたことは許せませんわ!』


 アルタイルの挑発に乗ったダルクが、白い騎士人形を立ち上がらせる。傍で腰を抜かせていた子供は母親に抱かれて逃げ出し、ダルクは地面に突き刺さっていたあの巨大な剣を手にする。

 手にした剣は、いくら巨大とはいえ、白い騎士人形のサイズにはあっていない。

 それでは無理だと叫ぼうとしたジャンだったが、白い騎士人形の腕が淡い光を放ったかと思うと、手にした巨大な剣がみるみるそのサイズを変える。


「あの剣、召喚以外のテンプレートも乗っていたのか……!」


 ダルクの魔力に晒されたであろうその剣は、既に白い騎士人形の武器へと姿を変えた。巨大だった剣は、もはや巨大などという言葉では表せない。竜人形ですら一撃で叩き伏せてしまうであろうサイズに変貌した。


「ふふっ、そうでなくちゃ面白くないわよね」


 臨戦態勢を整えたダルクとその白い騎士人形を見つめたアルタイルが、自身の乗る竜と共に空へと飛びあがる。巻き起こった風にバランスを崩しそうになったジャンだったが、そんなことよりもダルクの無謀な行動に叫び続けた。


「よせ、よすんだダルク! その魔法人形のテンプレートは死んでしまってる! 君がよく知ってるだろ!? その騎士人形じゃ、戦えないんだ!」


 だが、そんなジャンの声もダルクには届かない。


『逃げてばかりじゃ変われないって。私はジャンからそう教わったから! 私は、戦わなきゃダメなんですの! この街を守りたいから、この街が好きだから! 一人でだって、戦わなきゃ……!』


 人形越しに聞こえるダルクの切なる叫び。

 それに呼応するように、白い騎士人形が大きく剣を振り被った。


「エリー、伏せろッ!」

「きゃああ!」


 そこらの建物よりはるかに巨大な魔法人形の攻防。地震でも起こったかのように揺れる大地の上で、ジャンはエリーを庇いながらもダルクと竜人形の戦いを見つめる。

 逃げ遅れる人々を庇うようにして戦う白い騎士人形は、竜人形の攻撃にまるでついていけない。振り下ろす剣はやすやすと竜人形に受け止められ、竜人形の強靭な尾の薙ぎに騎士人形の膝が崩れる。


「……やっぱり駄目だ……っ」


 竜人形の動きに、ダルクの騎士人形が追い付いていけてない。ダルクの駆る白い騎士人形の剣は、その重さに振り回されるようにして竜に掠りもしない。

当然だ。テンプレートの補佐無しで無理矢理動かしているのだ。反応速度は普通の騎士人形の百分の一以下。まともに戦えるはずなんてないのだ。


『あああああ!』


 白騎士の中からダルクの叫び声が聞こえる。もはやこの場にいる誰もが、冷静さを欠いてしまっていた。そして、だからこそジャンは必死に自身に言い聞かせる。


(落ち着け、落ち着くんだ! 俺の仕事はなんだ、俺の今やるべきことは……!)


 何よりも優先すべきは、人々の避難。このタイミングを逃すわけにはいかない。すぐにジャンはあたりで言葉を失っている人々に向って大声を張った。


「ぼーっとしてないで、直ぐに逃げてください! ダルクが時間を稼いでいるう

ちに!」


 ジャンの言葉に、皆がすぐに正気を取り戻す。大型魔法人形の激しい攻防で揺れる大地を這うようにして、人々は一目散に逃げ出していく。


『きゃあああ!?』


 ダルクの悲鳴に、ジャンはすぐさま振り返った。

 竜人形の太い尾で、白い騎士人形がウォール街の外壁に叩き付けられたのだ。半ばめり込むような形で騎士人形はその動きを止めてしまう。


「あっさりとしたものね。粋がってても。折角そこの優しい魔法人形技師さんが忠告してくれたのに」


 外壁の上に降り立つもう一体の竜人形。そして、街の中央から飛び上がってきた最後の一体の竜人形。

 外壁に寄り掛かるようにして倒れ込む白い騎士人形の周囲を、三体の竜人形が舞う。街の中央から飛んできた竜の姿を見たジャンは、すぐさま大門の中を覗きこむ。

 そして中央広場で上がる黒い炎を見て息を飲んだ。


「……そんな」


 ライールの駆っていただろう騎士人形が、遠目に見える。片腕がもがれ、天を見上げたまままるで動かなくなってしまったその騎士人形を目にし、ジャンの拳から力が抜けていった。


「さて、あっちの邪魔もなくなったし、こっちも静かになったようね」


 力なく膝をついたジャンの目の前で、アルタイルが髪の毛をかき上げて外壁に降り立つ。

 彼女に付き従う形で、二体の竜人形が外壁に舞い降りた。外壁から左の竜人形の背に飛び乗ったアルタイルは、レイピアを竜人形の背に突き立てた。ゆっくりと突き刺したレイピアを引き抜いたアルタイルは、呆然とするジャン達を無視して残る二体の竜人形にも同じようにレイピアを突き立てていく。


(……なんだ、何をしてるんだ、あれは?)


 だらしなく地面に崩れ落ちたジャンは、力なくアルタイルの姿を眺める。

 だが、直ぐに再び瞳に火を灯した左右の竜人形たちが、白騎士の両腕を捕えた。アルタイルはダルクの乗る白い騎士人形の肩にから降り、周囲を飛んでいた竜人形に指示を出す。


「うっふふ。このままここでジャンヌちゃんをテンプレート化してもいいんだけれど、また貴方に邪魔されるのも興ざめだものね、ふふっ」


 呆然と見つめる人々の前でアルタイルは歓喜に笑い、竜人形を引き連れ、騎士人形と共に空に飛びあがっていく。


「…………っ」


 もはや手など届かない空高くに、竜人形とアルタイルによってダルクとその魔法人形が連れ去られていく。

 せめて、せめてダルクの魔法人形に乗っているテンプレートが完全な状態だったのなら。

だが、そんな希望などすべて打ち砕かれてしまった。もう、ジャンには残された手はない。逃げ遅れた人々もそう。皆が唯、言葉を無くしたまま、連れ去られるダルクの姿を見ていることしかできない。

 地面に力なく膝をついて、連れて行かれるダルクの様子をジャンは黙って見送る。

 もう駄目なのだ。全て諦めるしか――、




「……いつでも君の傍に、か」




 遠い空に昇っていく竜人形を見上げたジャンは、両拳を強く握りしめた。


「……俺は、魔法人形技師だ」


 ダルクの白騎士に搭載されたテンプレートの末尾の一文を思い出す。

 自分に出来る事は、戦うことじゃない。守ることでもない。犯人を捕まえる事でもない。自分に出来る事は何時だって変わらない。

 魔法人形技師ジャンスヴァイル・アウトラクトの、唯一無二の力。


 それは――魔法人形を直すこと。


「そうだ。俺は魔法人形技師だ。俺は、ダルクの魔法人形を直すと、そう約束した……!」


 失いかけた力が戻る。

 だらしなく下を向いていた背を起こす。震える両足に力を込め立ち上がり、空を見上げてジャンは瞳を閉じる。そして、ゆっくりと目を見開いた先にあるソレを見つけ、口端を吊り上げた。


「そうだ。まだある。まだあるじゃないか」

「じゃ、ジャン? これ以上、一体どうするの……?」


 背後からかかったエリーの弱弱しい声に、ジャンは振り返る。


「あの白い騎士人形を、直してくる」

「な、何言ってるのよ!? ジャンだって見たじゃない! あんな大きな騎士人形でも歯が立たなかったのよ! それにそれに、ダルクさんはあんなに高い場所に……!」


 そう言ってエリーが空を指差す。三体の竜人形とアルタイルは、街の中央広場の上空に向って飛んでいる。もう一刻の猶予もない。


「大丈夫。皆の力を借りれれば、きっとあそこまで行ける」

「そんなの、どうやって……!」


 エリーの問いを無視し、ジャンはその場で力なく倒れ伏していた街の人々に向かい合い、強い声を上げた。


「聞いてますか、皆さん! 俺に力を貸してください!」


 ジャンの声に、一人、また一人と顔を上げていく。だが、皆の顔には困惑と絶望が見て取れた。そんな彼らの視線を受け止めてなお、ジャンはその顔に絶望を見せはしない。


「ダルクは俺達を守ろうとしてくれた。あんなに酷いことをした俺達を。俺には、その気持ちがよく分かる。俺も、彼女と同じように一人だった時代があるから」

「あ……」


 顔を逸らす町の人。小さな子供は困惑したように首を傾げる。顔を逸らしたのは、幼い頃のジャンを知っている人たちだった。


「けど、みんなは俺を受け入れてくれた! だから、俺はみんなのために頑張ってくることができた! でも、あいつはまだ一人で戦ってる! アイツはまだ、自分が一人だと思ってる……!」


 こんな上手くもない演説などで人の心を動かすことなどできない。ジャン自身、そんなことは百も承知だった。だが、それでも伝えなければいけない。

 彼女を助けに行くために。自分の約束を守りに行くために。


「だから、今度は俺達がダルクに見せつけてやらなきゃいけない! お前は一人じゃないって、お前はこの世界に生きてるって!」

「ジャン……」


 エリーがジャンの服の裾を握る。彼女の瞳を見つめ返すジャンは、大きく頷いた。


「俺はジャンスヴァイル・アウトラクトだ! 魔法人形技師だ! 俺は俺の信じたものを、絶望になんて染めさせない。魔力とテンプレートさえあれば、どんな奇跡だって起こして見せる! だから皆の力を貸してくれ!」


 そう叫んで、ジャンは頭を下げた。

 動揺が街の人々の間を駆け抜けていくのがわかる。皆、今すぐにでもこの街を逃げ出したいのも分かる。

 だから、強制はできない。



 自分にできるのは、唯真摯な思いを伝える事だけだった。

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