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プロローグ

 地獄だった。


 外壁に囲まれていた街の中からは黒煙が舞い上がり、外壁外にいるというのに燃え上がる炎の音が聞こえる。整地されていたはずの大地は波打つように姿を変えてしまい、もはや立って歩く事さえままならない。

 周囲では悲鳴や泣き声が響き渡り、絶望という言葉がそこかしこに渦巻いていた。

 そして、そんな中で青年はただ一人、地に倒れることなくなっていた。


「ジャン! ダルクさんがあの魔法人形に……!」

「分かってるよそんなこと!」


 傍に居る亜麻色髪の少女が、青年の服を引っ張る。青年は彼女の声に耳を傾けながらも、状況を把握するのに手一杯だった。

 辺りには逃げ遅れた街の人々が力なく地面に座り込み、そこを見上げている。青年もまた、彼らと同じようにそこにいるソレを見上げた。


 竜――。


 鈍い光を放つ銀色の牙。眼光鋭く、強靭な肉体で雄々しさを体現し、人一人ゆうに喰い尽くすだろう大きな口。体躯よりさらに強大で巨大な翼。悍ましさを超え、むしろ神々しささえ見せる巨大な竜だ。

 街を囲う高い外壁に降り立つその竜は、天に向かって吼えた。たったそれだけの所作で周囲には空振が走り、地面に座り込む人々が耳を覆う。

 そして、そんな竜の前に立つのは、巨大な白騎士。スマートな体躯に純白の外套を揺らせる騎士である。鎧の隙間から見える筋肉は銀色の光を放ち、頭部には巨大な羽飾りを。竜に負けず劣らず巨大な騎士である。

 傍で地に突き刺した巨大な剣を握るその騎士が、ゆっくりと竜を睨み付けた。白騎士の傍に立っていた青年は、自分の傍で倒れ込む少女を隠すようにして叫ぶ。


「よせ、よすんだダルク!」


 青年は悲鳴を上げるように叫び続ける。そんな青年の傍で、白い騎士は静かに剣の切っ先を竜へと向けた。

 巻き起こる風にバランスを崩しながらも、青年は騎士が睨み付ける先――竜の背を見つめる。

 

 竜の背には誰かが立っていた。

 遠く姿が確認できないその人物は、白騎士とその傍に居る青年をもの欲しそうに眺める。


 そして、その誰かが歪に笑みを歪めると同時に、白騎士と竜の決戦が始まった――。

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