卒業
「もうすぐ卒業だね」
そういう君の後ろ姿を、私はただ眺めていた。
高校生活というのは早いもので、私たちはもう卒業しなければならい。大好きな部活も、大好きな人達とも、私たちは離れ離れになる。そして君とも、私は別れなければならない。
「悲しいね」
無意識のうちに発した言葉に、君はこちらを振り返る。
ひらひらと降っている雪のせいで、君に向けたカメラは、君にピントを合わせてくれない。私はレンズ越しに、君の顔を見る。君は少しだけ驚いたような顔をしたけれど、すぐにいつものように笑顔を作った。
「…俺は悲しいと思わないな」
「どうして?」
「一期一会って言うだろ」
「いや、意味わかんないんだけど」
君は満足そうに笑って、私の前を歩き出す。私は君の背中をカメラで撮る。
もう何回、君の背中を見たかな。
あと何回、君の背中を見れるかな。
「卒業したら、離れ離れになっちゃうね」
カメラのシャッターを押しながら、そんな言葉が口から出てきた。
今度は、君は振り返ってくれなかった。
「そんなもんだろ」
そんな言葉で、君は私との三年をまとめてしまった。
それが無性に悲しくて、私はカメラを空へと向けた。
降り注ぐ雪は、レンズに落ちたとたんにただの水へと戻ってしまった。
私は、明日卒業する。
(そして君は、いつか私という存在がいたことを忘れてしまうんだ。レンズに落ちた雪が水になってしまったように、君も私も、変わってしまう。)