みっつめの消失
車内はすぐに人で溢れたが、
僕の周りには、少し壁があるようだった。
人がすぐ近くにいるように感じない。
……それくらい、周りを気にしないくらい、彼女のことを考えていたのかもしれない。
見慣れない景色が続く。
1つ目の駅。
2つ目の駅。
人が減ったかと思えばすぐにたくさん乗ってきて
酸素が供給されるのはドアが開いた時だけ。
3つ目の駅。
はっとして、僕は開いたドアめがけて走る。
人に全くぶつからず、避けてくれたのだろうかと外に出た瞬間、振り返る。
「……あ」
僕は見覚えのない道に突っ立っていた。
周りを確認したけれど、通り過ぎる電車も、線路もない。
ましてや駅すらも見当たらない。
「どこ……」
ここは、どこ。
誰もいない。
この道はずうっと遠くまで続いている。
後ろを振り返っても
前をもう一度見ても
ただただ続く、僕だけの線路。
「お兄さん、そこで何突っ立っとるんだい?」
突然、背後から声がした。
「うわっ!……え、えと」
見ると皺に包まれた笑顔のお婆さんが立っていた。
「何しに来たん?ここは春霧町だよ。間違ってきたんか?」
お婆さんの笑顔には呆れが含まれている。
「い、いや……人を探してて」
「人?ああ、そうかい」
そう言うと、お婆さんは僕の横を通り過ぎていく。
ちりん、ちりんという音が鳴り、
下を見るとお婆さんの履いている靴は小さな鈴がついていた。
「あんた、誰を探してるんだい?」
「あの、この人です」
僕はすぐに彼女の写真を見せた。
お婆さんは顔色を変えず、僕の方を向いてまた歩き始める。
「ちょっと待ってください!」
「こっちだよ、こっち」
何か知ってるんだろうか、そう思うと足早に僕はついていった。
何もないように思えた道の先には、小さな村があった。
村に着く頃、ふと子どもの声が耳に届く。
「おばーちゃんお帰りー!」
「はいよはいよ、ほれ、飴玉は食べたかい」
「食べてない!ありがとう!」
少年は手に飴玉を溢れさせると近くにいたもう一人の少年と走って行った。
僕は少年の行く先を見届けていたが、すぐさまお婆さんのいる方へと振り返る。
「あんた、な」
「はい」
「探しもんは、自分で見つけなきゃあ見つからん」
「……?はい」
「ここにいる間、村のみんながあんたを助けてやるさ。
でもな、探しもんの手伝いはなんもできん」
「探しもん、って……人を探してるんですけれども」
「おんなじだあ。物も人も、あんたが探してるんは、“そういう”もんさ。
他の人間がそれを見つけようと、他の人間にゃあ、わかりっこない。そういうなあ。」
「……はあ」
『いつまでいてもいい。いついなくなってもいい。
あんたの気が済むまで探しもんを探しゃあいい』
婆さんは最後にそういって、僕をある家へと引き渡した。
キレイなご婦人の家だった。