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幸せな生き方  作者: 凛々
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ふたつめの消失。



彼女が消えた。


嘘だ。


「お、おい……」


慌てて玄関へと走る。

彼女のいつも履いていた靴はない。

果たして彼女の靴はあの1足しかなかっただろうか?

ふと部屋の中を見渡せば

彼女の衣類は見当たらない。

そこにかけてあったはずのコートも、

椅子の背もたれにかけてあったストールも、

彼女を彷彿とさせる幾つかのものが、ここからは欠落していた。


「消え……た?」


馬鹿か。

そんな話はありえない。

「消えた」じゃない、「どこかへ行った」だ。

そうだ、どこかへ。

きっとどこかへ。


でもどこに……。


「そうだ」


僕は即座に握りしめていた携帯電話からある電話番号を呼び出す。


何度かコール音が聞こえたのち、繋がった。


「もしもし?須原です」

「も、もしもし!あの、そっちに、行ってませんか!」

「え?」

「え、えっと……ミ、ミナが!そっちに、行ってませんか!?」

「ミナ?ミナ……。いや、来てないわ。どうしたの?そんな声荒げちゃって。また喧嘩?」

電話の向こうから聞こえてきた少し声の若い婦人の声は心配そうに僕に聞いた。

「喧嘩、ではないです。いや、僕にも何なのか……」

「うーん、とにかくこっちに連絡が来たりしたら教えてあげるわね」

「はい、すみません。では失礼します」

「コウ君もしっかりね?じゃあ」


……以前、彼女と喧嘩をしたことがある。

彼女はとうとう僕との言い合いに堪えきれなくなり、この部屋を出て行ってしまったのだが……

少し離れた実家に帰っていたようだった。

だが、今回は実家に帰っているわけでもなさそうだ。


僕は春物のコートを羽織り、財布と携帯とミナから貰った猫のキーホルダーがついている鍵をポケットに滑り込ませた。



  * * *


とにかく、今はミナの行きそうな所を全て当たってみよう。

アパートの近くのカフェにはいなかった。

次は、駅の方か?


僕は最寄の駅へと向かった。


駅周辺の店には全て行ってみたが、彼女はいない。

駅員に携帯で写真を見せて聞いてみたが、わからないという。


「どこに行ったんだ……」


「兄ちゃん、人探しかい?」


突如、足元から声が聞こえた。

ふと下を見ると、壁によしかかり、地面に座っている老人がいた。

「わわっ」

「何驚いてんだい」

「お、驚きますよ。こんな、窓口の下に座ってられちゃあ」


そう、この老人が座っていたのは

改札の横にある窓口……の、真下なのだ。

中の駅員からはちょうど見えないが、傍から見れば明らかに、変。


「驚いたのは、今だろう?あんた、儂のことが見えとらんじゃったようだが」

「見えてなかった……?」


そうだ、こんな所にいられたらすぐに気が付くはずだ。

なんで、わからなかった?


「あんた、人探ししてるんじゃろ?」

「え、あ、そうです。その、この子なんですけど……見ましたか?」

僕はすぐに彼女の写真を老人に見せた。

「ほう……この娘さんか。見たぞ。この改札を通っていったよ」

「本当ですか!」

「ああ、本当だよ」

そう言うと、老人はすごく柔らかい表情、と同時に悲しく笑って見せた。


「どこに行ったか、なんて……わかりませんよね?」

「春霧町」

「はる……?」

「そこ、行ってみんさい」

「彼女はそこに行ったんですか?」

「さあ……まあ、行ったかもしれんね」

なんなんだ、この老人は……。

でも、もしそれが手掛かりなんだとしたら、今の所すがれるのはそれだけだ。

行ってみる、か。

「でも春霧町なんて聞いたことな」

「そっちだよ、そっちから出る電車に乗るんだ。駅は3つ目だよ」

老人は右の方を指差した。

その先は奥のホームへと続く階段がある。

僕は不可思議に思いながらも、3駅目まで乗れる分の切符を買った。

「じゃあ、どうも」

一応、と老人にぺこりと頭を下げると


「婆さんに、会ってきてくれ」


老人はまた、意図を汲み取れない言葉を発した。




彼女は、春霧町にいるのだろうか。



ここから、僕の短い旅が始まる。


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