姉さん、僕らは青空の下……(デート編)
啓介ルート。こっちは補足的な話で読み飛ばしOKのつもりだったんですが、本筋思いきり絡めてしまいました。
シリアス注意。
快晴という言葉がピッタリの天気だ。
絶好の行楽日和、と天気キャスターが太鼓判を押しただけあって、街は人で溢れかえっている。
もう少しマイナーなところで待ち合わせすれば良かったと思いながら、定番の待ち合わせスポットである駅のシンボル像に向かう少女。
そこで待っていたのは、
本日約束をした少年ではなく、彼女の天敵だった。
「てめぇぇ、鮎川!!!なんで此処にいるんだよ!!!」
快晴という言葉がピッタリの天気だ。
絶好の行楽日和、と天気キャスターが太鼓判を押しただけあって、街は人で溢れかえっている。
活気に溢れた街も嫌いではないが、なかなか思うように進めないのは困りものだ。時計を見ると、約束の時間から3分ばかりがオーバーしていた。
もう少し早く家を出れば良かったと思いながら、一人の少年が小走りで駆けていく。
「……バカだろ、お前ら」
待ち合わせ場所に着いた啓介が最初に見たものは、七海にプロレス技をかまされてる智希の姿だった。
「啓クン遅いよー!3分23秒遅刻ー!あいたたたっ!痛いって」
「死ね!くたばれ!臓物千切れろ!」
なんかもう帰っていいですか?
そんな考えが頭をよぎるが、放っておくとマジで智希の臓物が千切れ兼ねないので止めなければ。
ツッコミ役の小森がいないのが悔やまれる。
「えーと……やめたまえ?」
「なんで疑問系?!」
「つーかひねりが全然ないじゃん!つまんね!」
「やり直し!」
即座にツッコミが入る。結局、面白おかしく止めに入れるまで、20分あまりダメ出しをされる啓介。
「くそぉ、こういう不条理な事は小森の担当なのに……」
「甘いな啓クン。コモちん不在の今、その役割を担うのは……」
「テレビの前のあなたたちです!!」
「えぇー!そこでオンバト?!!」
君ら十分仲良しじゃん。
「ま、小森の不足は相方である櫻外君が補うのが世の常識ってことね」
最早何をしに来たのかわからなくなりつつある啓介だった。
「小森、離れてみてお前の大切さが良く分かったよ……」
月9ドラマ顔負けのセリフを吐く珍しく殊勝な相方に、今頃小森はくしゃみでもしていることだろう。
いや、悪寒を感じてるかもしれない。
「さて、挨拶代わりに櫻外君も軽く凹ましたことだし、そろそろ行きますか」
「はーい!モス行きたい!俺モスの新メニュー食いたい!」
「お前に主導権ねーだろ」
「あー、別にモスでもいいよ わたし」
てっきり再度大戦勃発かと思いきや、七海は意外にもあっさりと承諾した。
「た・だ・し!鮎川の奢りでな!」
「Non!やっぱそーゆーオチですか!」
駅から少し離れたハンバーガーショップに到着し、やっと腰を落ち着ける3人。
宣言通り智希の奢りで、木目調のテーブルには様々な食材で彩られている。
「ひっでぇ……。おめーら頼みすぎだろ」
財布を確認してしょんぼりしつつの呟きは丸無視で。
「ところで、そろそろ聞きたいんだけど──智希は何しにきたんだ?」
ウーロン茶で喉を潤した啓介が尋ねると、智希は少々焦りながら答えた。
「えっと……、ほら、二人で会うっつーからてっきりコモちんの試合応援に行くんだと思って!」
「ふーん」
明らかにとってつけた理由くさいが、よく物事を考えない啓介は気づいていない。七海はそもそも智希が居ること自体がもう不本意なのでどうでもいいらしい。
「ま、来ちゃったもんは仕方ないからいいけどさ。俺ら小森の試合観に行く予定なんぞ立ててなかったんだけど」
「えぇぇぇ!?じゃこれマジデートだったの?」
「そーだよ!てめーが来るからせっかくのデートが台無しじゃねーか!」
そのお邪魔虫の奢りを幸せそうに食べるのはどうよ、とツッコミたくなったが啓介の言葉にさえぎられる。
「で、入谷も。今回の目的は何だ?」
「え?」
不意をつかれ一瞬目を見開くが、すぐにいつもの笑顔に戻る。
「イケメンとデートしたかったって、他の依頼主と同じ理由じゃ納得しない?」
「うん。納得しない」
手厳しいなぁ、と苦笑いを浮かべながら七海は言う。
「別になんか企んでる訳じゃないよ。櫻外くんと遊びたかったのはホント。どんな人かなぁって気になってたから。小森を……」
「初めて本気にさせた相手が、どんな人なのかってね」
「………………」
軽い沈黙が訪れた。
「お前……それって……」
「取り方によっちゃあ、恐ろしい事に……」
唖然としてしまった二人に、七海が慌てて付け加える。
「ちょっ、違う違う!別に小森が櫻外くんに恋してるとかそーゆーんじゃないから!」
本人が聞いたらふざけんなと怒り出しそうな勘違いである。
「なんて言うんだろ……小森ってさ、割と冷めたとこない?」
「あー、そういえば体育会系バカのわりには熱くないっていうか」
「なんか客観的なとこあるよねー」
二人がうんうんと頷く。
「でしょ?今は『言われてみれば〜』程度だけど、中学の時はもっとアレだったわけ。バカなテンションに隠れて分かりづらいけどアイツね、昔から物事に真剣になれない性格っつーか何かに没頭する事が出来ないんだって」
少々冷めたライスバーガーを一口食べてから、七海は話を続ける。
「ううん、実際は──真剣になるのが怖いのかもしれない」
「怖い?」
啓介が思わず聞き返すと、七海は頷いた。
「ほら、小森って運動系だけはすごいじゃん?あれってホント生まれつきの才能なんだよね。スポーツと名のつくものなら、なんでもこなせる。例え馴染み無いものでも、小森は平然と出来ちゃうの。……努力なんてしなくてもね」
以前、七海は小森に言った事がある。何でも出来て羨ましい、と。
『こんなの、気持ち悪ィだけだよ』
小森は自嘲気味に笑った。いつもバカやってる奴が、初めてみせる大人びた表情だった。
その時はその意味が分からなかったが、今ならなんとなく分かる気がする。
「……もしかしてコモちんは、自分の運動能力が伸びていく事を恐れてる……ってこと?」
「そ。スポーツに熱中すればするほど、当然力は伸びていく。でも、他人がその何十倍努力しても……周りはその才能に追いつけないんだよ。もう、人より出来る、上手いの次元じゃない。
だから本気で取り組むことなんて出来っこないんじゃないかと思う。それでいつの間にか、自分に制御をつけるクセがついちゃったのね」
先程とはまた違った沈黙が訪れる。
小森の意外な話に、智希と啓介は戸惑っている様だった。
三人が三人とも手持ち無沙汰に、目の前の食べ物をもそもそと口に運んだりしている。
「天才ゆえの孤独ってやつか」
何と無しに啓介が呟くと、他の二人も同意した。
「バカだよねー。運動以外は凡人なのに抑える癖がついちゃったから、何にも夢中になれなかったみたい。
……わたしさ、衝動的に自殺しちゃう人って小森みたいなタイプなんじゃないかなって思うんだ。だから、けっこうヒヤヒヤしてたの」
「……でも、今は違うよね?」
智希の言葉に七海は頷き、啓介の方を見る。
「櫻外くんに会ってから、アイツ変わった。二人で部活やるようになって、生き生きしてる」
啓介は少し首を傾げると、ちょっと困った顔で笑った。
「俺、何にもしてないよ?」
「うん。でもきっと何かやったんだろうね」
そっか。
それだけ呟くと、啓介は再びハンバーガーを食べ始めた。
二人も後に続き、再び静かな食事が繰り広げられる。
「あーあ。思わずしんみりしちゃった」
「小森のせいだな」
「小森のせいだね」
「こりゃ責任取ってもらうしかねぇな」
「行くか、野球場」
微妙に面白みのない話ですいません。
次は野球編です。