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姉さん、唐突ですいません

時は昼休み。


入谷七海は呆れていた。

いつもバカ全開のあの男が、今日は何故か大人しい。

いや、正確には大人しいと思いきや騒がしくなり、また大人しくなったのだが。

身体の具合でも良く無いのだろうかと、少しでも心配した自分が馬鹿だった。

あの男──春日小森は、たかが食べ物を食われただけで意気消沈していたのだ。


「何そんな事で落ち込んでんのよ、うざってぇな」

「うっせぇ!お前にはわかんねーだろ、あのクッキーの素晴らしさが!」

「わかんねーよ」

バカだ、こいつは。今更ながら再認識だ。

横で智希がケラケラ笑っている。

「コモちん、段々啓クンに似てきたよなー!主に食い意地とか」

「黙れ!元はと言えばお前がくだらねー事言ってるから悪いんだろーが!」

明らかに八当たりである。仮に彼らが会話に集中していなくとも、啓介はクッキーを食べ尽していただろう。

「ま、ま。そんなにおなごの手作り菓子が食いたいならさ、入谷に頼めばいーじゃん?一応美少女に属する生き物なんだし」

「誰が……」

「はぁ?!バカ言ってんじゃねぇ!てめーが女装して作れよ、このエセジャニーズが!」

反論しようとした小森の言葉は、七海にかき消されてしまった。

……何倍も酷い言葉で。

七海も紗香同様、人目を惹く美少女ではあるが、如何せん口が悪いのが難点だ。

とりわけ、何故か敵対している智希への対応は容赦ない。出席番号順で近い位置にいる二人は何かと接点が多いのだが、その度に(七海が一方的に)険悪なムードだったりする。

今も(七海が一方的に)諍いが勃発している。

二人に何があったのかは、小森たちも知らない。

甘いルックスと明るい性格──まぁ明るいというよりバカなんだが──で女子にモテる智希にとってはある意味新鮮な反応で、本人もある意味楽しんでいるようだ。

あくまで“ある意味”であって、たまに本気でヘコんでるけれども。

とりあえず先に進まないので助け舟を出す事にした。

「七海よー、お前わざわざ智希いじりに来たわけ?」

「バッカ!ちげーよ。私は櫻外君に話があんの。このバカはどうでもいいの」

「啓介に?」

「そ。明日の事でちょっとね」

「明日?」

首を傾げる小森を見て、これまた首を傾げる啓介と七海。

「あれ?話通ってない?」

「あー言い忘れてた」

ゴメン、と表面上の謝罪をして、啓介は言葉を続ける。

「明日、いつもの如く森部へ依頼入ってるって言ったじゃん?」

「んー、聞いたような気がする」

「依頼主、私」

「あー、そういう事かー……って、えぇ!?マジで?」

「ウソついてどーすんだよ。放課後になるとバタバタするだろうから、こうして昼休みの間に話し合いしとこうと思って」

一応部活動の一環と言う事もあって、啓介にデートを依頼する時は小森も同伴で詳細を決めることになっている。

何しろ変人とはいえ啓介はモテる。予定がブッキングでもしようものなら、醜い争いに発展しかねないからだ。

曖昧に生きている啓介に任せておくのは心配なので、デートの日程から詳細──主な事務的内容は小森が決めることにしている。全く、気分はマネージャーみたいなものだ。

「ん?ちょっと待て。今何つった?」

「え?どの辺?」

「今って、……もしかして昼休み?」

とんだ大ボケ発言を聞いて、一同が呆れ顔になる。

「もしかしなくても昼休みだけど」

「コモちん、授業受けた記憶すらねーのか。ヒデェ」

「へこみすぎなんだよ、バーカ」

大人しいと思ったら、思考まで遮断していた模様。


「やっべぇぇぇl!!!大事な用事忘れてた……!!!」


それぞれの発言はもう耳に入っていない。勢いよく椅子から飛び上がると、ダッシュでドアに向かって行った。

「おい小森!こっちは……」

「いい!七海なら俺いなくてもいいから!とりあえず適当に決めとけ!」

思いっきり無責任な発言をすると、小森は自慢の俊足で教室を出ていく。

残された三人は状況がわからず、ただポカンとドアの方向を見つめていた。


「何でしょうかね あれは……」

「さぁ……」


さて、小森がたどり着いた場所──それは野球部の部室だった。

コホンとひとつ咳払いをすると、ドアをノックする。

「一年F組の春日小森です。失礼しまーす」

ドアを開けると、すでに到着していた部員たちが机を囲んでいた。

同学年の部員達はホッとした表情を見せるが、上級生たちの目はあまり友好的ではない。

少々緊迫感のある空間だ。

「すいません。遅くなりました」

待たせた非礼を詫び頭を下げると、勧められたままに席に着く。

「春日ー、待ってたよ。もしかしたら来ないかと思ったじゃん」

隣に座っている同じ一年の部員が、こっそり耳打ちする。

「わりぃ、ちょっとヤボ用で遅くなった」

実際はボーッとしてて昼休みに気づかなかっただけなんだけど。さすがにこの雰囲気では言えないので、心の中だけで謝罪することに。


小森が席に着いたのを確認すると、部長らしき人間が口を開いた。

「さて。森部も来たことだし、ミーティングを始めようか。春日、話は聞いてるな」

「あ、はい。だいたいですけど」

明日の試合の代理ピッチャー、それが野球部から受けた依頼だった。

正規レギュラーの3年がそろって怪我をし、代わりを満足に勤められる部員が居ないから。そう聞いていた。

なんでもピッチャーの層が薄い上に、二学年が極端に少ない部なので一年で補わなければいけないらしい。

ただ、助っ人で来たのにあまり歓迎されていないのは、依頼主が一年の部員たち──どうやら上の学年に話を通したのは事後承諾だったかららしい。

色々な運動部の手助けをしているので定評はあるが、所詮は片手間でスポーツをやっている奴

というイメージを拭えない助っ人稼業。こういう硬い部活ではあまり良い顔されないのは分かっていたのだが。

(なーんかやりづれぇなぁ……)

ユルい世界の住人は、この手の空気にめっぽう弱い。

「俺はコイツにピッチャーを任せるのは反対だ」

ほーらきたきた、反対派。見れば二、三年の半数は頷いている。

「でも、俺たちなんかよりよっぽど春日のが……」

一年がそうフォローしてくれるが、状況は良くならない。

「お前らは野球部のプライドってのがねーのかよ!こんな他所者にレギュラー譲って!」

「人助け部、なんてお遊びでやってる連中に任せるなんてどうかしてるだろ!」

少々傍観モードだった小森は、この言葉にいささかムッとした。

自分の事を言われるのは(まぁムカツクけど)いいとして、後輩へのこのセリフ。

正論かもしれないけど、試合を優先した彼らの気持ちは考えないのかと。

ただの試合ではないことを聞いていたからこそ、こういう展開を予想しながらも引き受けたのだ。

「いいっすよ。俺もお遊びでない証拠に約束しましょう」



「今回の試合に負けたら、『チーム☆森鴎外』解散します」



──啓介、勝手にすまん。



次は、2ルートに別れます。話の流れは一緒なんですが、小森編と啓介編で。

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