姉さん、青春の裏側です
──一目惚れしました。
一目合ったその日から、恋の花咲く時もある……そんなバカな話があるかと思っていたけど、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ。
彼女は美しかった。ふわりと揺れる長い髪や、真珠の様に白い肌、そして花のように可憐な笑顔。
少ないボキャブラリーでは到底表現することが出来ない。
ともかく俺は、出会ったばかりの彼女に心奪われ…………
「……って勝手なナレーション入れてんじゃねぇー!!」
「痛い痛いいたいいたたた痛いって!コモちん、ギブギブ!!」
智希の降伏は受理されず、小森は容赦なく拳でこめかみをグリグリと痛めつける。
決して筋肉質ではないのに、さすがは運動の申し子。ものすごい馬鹿力である。
「啓クーン 見てないで助けてー!」
「ナレーションの出来がイマイチだったからパス」
「ひっでぇー!!!」
仲間に見捨てられた智希は、その後3分間制裁を受けたのだった。
「俺はさー、ただ単に不器用なコモちんの初恋を応援したげようと思っただけなんよ」
ひどいよなーと痛むこめかみをさすりながら、智希はしれっと言う。
「だーれが初恋だ!俺だって過去に恋愛くらいしたわーっ!」
「わわわ、ゲンコツ勘弁!調子こいてすいません……!でもさぁ、サヤカちゃん可愛かったよねー。コモちん気に入ってたみたいじゃん?」
「まぁ、確かに可愛くて良い子だったし知り合えて嬉しいとは思うけど、別にお前の期待してる展開では無いな」
何を一人で盛り上がってるんだか、と小森はため息をつく。
そりゃ、青春真っ盛りのお年頃だもの。可愛い女の子に手作り贈り物をされて悪い気はしないし、(小森的には)そんなに頻繁にある経験でもないから照れもする。
でも、名前しか知らない子なのだ。そう漫画みたいな展開にはならないだろう。
ヒーローの存在意義を通して変に現実を知ってしまった彼は、ひどく現実主義である。
「ちぇっ。ロマンのない男だなぁー」
智希は心底つまらなさそうだ。
「脳みそフワフワのお前と一緒にすんな。……つーか随分大人しいな啓介」
「うん。レモンの隠し味がよく効いてるからね」
「はぁ?何言ってんのお前……って、ああっ!?何クッキー一人で食いまくってんだよ!!」
先ほどから会話に絡んでこなかった啓介は、クッキーを食すのに夢中だったらしい。
見れば九割は片付けられている。
「あああ〜!俺のクッキーがぁぁ!」
「目の前に食べ物がある限り全力を尽くす、それが俺」
「変にかっこよく言ってんじゃねぇーー!」
お菓子を囲んで騒ぐバカ二人を、もう一人のバカは苦笑いしながら眺めていた。
「ホントにロマンがないなぁ……」
──色気より食い気、チーム☆森鴎外の明日はどっちだ!?
「ってか小森、胃は?」
「美少女と美味しそうなお菓子みたら治った」
バカは本当にミラクルである。