姉さん、平和な午後の一コマです
小森と啓介、そして担任以外誰も知らない廃部騒動は無事鎮火し、『チーム☆森鴎外』は何事も無かったかのように普段通り活動していた。
相変わらずどうでもいい雑用に追われる毎日だったが、もうそれも運命なのかもしれないと半ば諦めモードで。
うん、人々に従事する青春も良いかもね!なんて一般男子高校生としてはいささか可哀想な自己犠牲愛が芽生えてきた二人が幸せかどうかはともかく、日々は毎日単調に流れていく。
「あ〜眠ぃ……」
欠伸をかみ殺し、小森は体を大きく伸ばした。
その横では啓介が心地よい風に吹かれ、静かに体を休めている。
昼休みの騒がしさも静まり、辺りにはまったりした空気が漂う。
只今授業5時間目。
そして二人がいるのは当然教室……ではなく校庭の片隅にあるプール裏の芝生──ようするにサボリである。
この場所は二人のお気に入りの場所だ。日なた日陰両完備の上に人に見つかりにくい穴場スポットで、ゆっくり羽を伸ばしたい時はここで過ごす事にしている。
多少狭いものの、それもまた隠れ家みたいで良い感じ。
今日は特に疲れた。
昼休み返上で女生徒がなくしたという財布を捜すのに協力していたからだ。
結局彼女の家族に電話によってもたらされた報告──家に忘れていたという最悪のパターンで事は幕を降ろした。それが授業開始5分前の事。
昼飯も食わずに勉強が出来るかぁ!という啓介の意見に小森が賛同し、現在に至る。
泣く子も黙るイケメンのくせに、どこまでも食欲で動く男──それが櫻外啓介16歳。
「小森ー、パンとパンとパン、今はどれの気分?」
「あ?全部選択肢一緒じゃねーか」
つーか俺たち、つい先ほど昼食食べ終わったばっかりじゃなかったっけ?
相棒の燃費の悪さ、というか消化の早さにいささか呆れる小森を尻目に、啓介はカバンからパンを取り出していた。
「違ぇよ。ちょっと省略したけど、ジャムパンとメロンパンとカスタード餡子カレーパン」
「……そこ、肝心なとこ省略しないように」
とりあえずあからさまに怪しい三番目のパンだけは徹底スルーで。
小森は二つを見比べて、ジャムパンを選択した。
「んじゃあジャムパン」
「だよなぁ。そうくると思った」
何が「だよな」なのかは謎だが。てっきり手渡されると思ったジャムパンは、小森の手に渡ることなく啓介の口へと運ばれていった。
「おいコラ!俺に選ばしといて自分で食うのかよ……!」
「まぁまぁ。親友と今の気分を分かち合おうとした健気な俺心を察してクダサイ」
「察したくもねぇーー!!」
「まぁまぁ。コレやるから落ち着けって。世の中ギブアンドテイク、求めるだけじゃ駄目だよね」
「ちょっ……!これ!?」
啓介が笑顔で差し出したのは、言わずもがなカスタード餡子カレーパン。
ここで小森は気づく。
こいつ、最初からこの愚かパンを俺に食わす気だったな!ジャムとメロンはフェイクかよ!
つまり最初の選択でカスタード餡子カレーパンを選べば素直に渡し、選ばなくてもこうして押し付ける魂胆だったようだ。
「因みに俺手作り」
「当たり前だ!!こんなもん売っててたまるかぁー!!」
手先の器用さをこんな下らないことで披露するアホな男──それが櫻外啓介16歳。
そうこうしている内にも啓介は、惚れ惚れするような爽やかスマイルで劇物(カスタード餡子カレーパン)を無理やり食べさせようとしている。
「おわっ!ちょ、待て!察します心中お察ししますから……!!それを近づけるのだけはやめ…!ぎゃああああ……!!」
今、春日小森が切実に欲しい物。
愛のエプ○ンに出てくる、愛のバケツ(※)
──姉さん、僕はもう駄目です……
※)様するに、食うに耐えない食べ物を吐き出すためのバケツ缶。