姉さん、大変なことになりました(下)
かくして、のっけから『チーム☆森鴎外』をやめることを決意してしまった二人。
しかし腐っても学校所属団体。いくら自由といっても、さすがに「ハイ、やめました」の一言で終了とかいかないだろう。
そこで二人は先生の元に相談に行くことにした。当然顧問なんぞ居ないB級部なので、担任の所へ。
「ちーっす。三上センセーいる?」
あまりお行儀の良くない挨拶で国語科準備室のドアを開けると、三上先生は少々遅い昼食を取っていた。
流しそうめんキットで。
思わずありえねぇー!と叫びそうになったが、相手は教師だと思い出してグッとこらえる。
「先生、それ……」
「あぁ、君たちも一緒にどう?」
「や、遠慮します……っておい啓介!お前も食ってんじゃねぇよ!!」
啓介はいつの間にか麺汁を手にし、先生と共にそうめんを食べている。
コレに疑問を抱かないのか?!一人で流しそうめんだぞ!?つーかどんだけ欠食児童なんだ、お前は!!
呆れる小森を置いてきぼりで、二人は色つきの麺を奪い合って楽しそうにはしゃぐ。
「バカばっかだな、この学校……」
そうめんパーティーが終わるまで待つしかなさそうだった。
「で、俺たち先生に相談があってきたんですけど」
流しそうめんキットを片付けていつもの準備室に戻ったところで、二人はやっと本題に入った。
先生もいつもの穏やかな笑みで、耳を傾けている。
そう、たまに珍妙な行動を取る以外は実にいい先生なのだ。
年こそ生徒たちとあまり変わらない新米だが、人柄の良さで慕われている。
おまけに結構美人なので、こっそりファンがいるとかいないとか。
「実は──部活やめようと思って」
「部活って……森部を?」
「はい」
三上先生は少し考えると、静かな口調で問いかけた。
「満足いく活動は出来たの?」
「え?」
意味を図りかねて、思わず聞き返してしまう。
「春日君と櫻外君が活動に満足して終わらすっていうんなら良いけど、もし本当にやりたかったことをしないままやめちゃうんだったら……先生すごくもったいないと思うのね」
もちろん止める権利は無いけど、と付け足す。
「でも、俺たちは正義のヒーローみたいに人助けがしたかったのに。実際はそんなこと望んでる人なんていないんじゃないかって」
啓介が少々俯きながら言った。多少事実と異なる言い分だが仕方ない。さすがに女の子とデートの日々が嫌です、とは言えないもんな。
「櫻外君、ヒーローって危険にさらされた人達を助けるだけが仕事なのかしら?」
「はい?」
「私はね、それだけじゃないと思う。周りを元気にする存在、それもまた一つのヒーローじゃないのかなぁ。現に二人の周りには笑顔が溢れてるじゃない。やってる仕事があなたたちにとっては雑用でも、感謝してる人はいっぱいいるの」
不覚にも感動してしまった。
自分たちが無駄だと思っていた事が、必ずしも無駄でないと言って貰った事に。
そんな二人に先生は優しく笑う。
「貴方達は立派なヒーローよ。部活、まだ続けてくれるわよね?」
「先生……」
「俺たち、もう少し頑張ってみます!」
ああ良かった!と三上先生は殊更にっこり笑うと、一束のプリントを取り出した。
「じゃあこれ、明日までにコピー50部お願いね」
コピー機の前に立ちながら、二人はただ静かに与えられた任務をこなしていく。
「なぁ、俺たちって……」
「いい、それ以上言うな。落ち込むから」
コピーしたプリントが、やけに重く感じるのが悲しい。
「でも……よく考えれば無茶苦茶な理論で言いくるめるなんて、さすがは国語教師だよな」
「うん……」
とりあえず『チーム☆森鴎外』を解散するのは、あの担任に負けない口上を身につけてからだと思った二人であった。