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姉さん、僕らは青空の下……(野球編・下)

すっかり間が空いてしまいましたが、前回の続きです。

ズバン!


球場にミットの心地よい音が響く。

(なんかよくわからないうちに)吹っ切れた小森の活躍は凄まじかった。

相手チームに次々と三振を取り、点差はどんどん開いていく。

強豪と言われていた度都留高校の部員たちは、たかが一年のピッチャー相手にアウトを重ねていく事実に悔しそうな顔だ。

相手にはちょっと悪いとは思うが、知ったことか。

今回の依頼は、試合に勝つこと。軽くパフォーマンスとして試合を盛り上げる程度に力は調整するが、こちらのペースでやらせてもらう。

始めは小森の事を良く思っていなかった味方チームの部員たちも、その実力は認めざるをえないようだ。

高平なんかはコントロールの正確さが面白いらしく、様々なバリエーションに富んだサインを出してくる。

(先輩、完全に遊んでんな)

小森は苦笑しながら、彼の指示通りに投げる。

相手の選手をカーブで押さえ、スリーアウト。

満足気な高平のハイタッチに付き合いながら、小森はベンチへと戻っていった。


「よくやってくれてるな、春日」

ベンチに戻った小森に部長がかけた言葉は意外な労いの言葉だった。

この部で春日反対派の筆頭は間違いなくこの人だったから、好意的な言葉に少々驚く。

ベンチの席を詰めたので隣に座る。

部長は小森の方を向かず前を見つめたまま、ポツリと言った。

「部外者のお前に八つ当たりしてすまなかった」

「いえ、」

まったくですね!そう返してやりたい気満々だったが、生憎平和主義者なのでそれは心の中でだけで留めておく。

多分啓介や七海ならば遠慮なく言い放つのだろう。七海に至ってはオプションでもっとキツイ言葉が飛び出しそうな。

智希は……やっぱり言うんだろうな。腹立つくらい爽やかな笑顔で。

うわー、俺の周りやな奴らばっかだなオイ!

なんて一人考えてるうちに、再び部長が口を開く。

「悪いとは思ってる。でもな、まだお前の力を借りる事に完全に賛成な訳ではないんだ」

「森部の……というか俺のやり方が気に食いませんか?」

「いや、そうじゃなくてな。一年の部員の事だよ」

カキン!

ボールを打つ小気味良い音が響く。今のは結構良い当たりみたいだ。

「一年連中が、俺たちの為に助っ人を頼んだのは分かってる。でもな、ただ勝ちたいってだけじゃなくて……なんていうんだろうな。俺はこのチームが好きなんだよ。実力とかそういうの関係なしに、この部員たちが」

「つまり、皆でする試合が一番の思い出になる、と」

「そういうことだ」

小森は一呼吸置き、静かに告げた。

「先輩は一年が分かってないと思ってるかもしれませんけど、ちゃんと理解してますよ皆」

「え?」

ずっとグラウンドに目を向けたままだった部長が、小森の方へ向き直る。

「俺ね、今度の試合に勝ってくれとは言われたんですけど、大会で優勝させてくれとは依頼されてないですよ」

「?どういう事だ?」

「これ、単発試合じゃなくて何校かのトーナメント式なんですよね?だから今回勝てば引退ラスト試合って訳じゃない。正規レギュラーで挑んでも勝てるかわからない相手だから、忘れてたかもしれないですけど」

まだ頭の整理がついてない様子の部長に、小森は答え合わせをするように言う。

「つまり俺が依頼されたのは、勝って野球部の寿命を延ばすこと。次の試合までには復帰出来るんでしょ、こちらのエースビッチャーは」

あ、と声にもならない小さな声を出す。どうやら気づいた様だ。

小森は悪戯っぽく笑う。

「正義の味方が涼しい顔して優勝かっさらっちゃうのも良いけど、スポ根の基本は苦楽を共にした仲間と勝ち取る勝利、ですよね」

「だな」

同じ様にやっと笑顔を見せた彼に、内心ホッとする。

一度も笑いもしない部長に実は結構びびってました、なんて絶対言えないが。

ま、まだ終わってはいないけど今回も一件落着かな。

軽やかな気持ちで打席の準備をする。

ワンアウト・塁には2人、次の打者がアウトでも充分いける。

「さて、一丁ホームランでもいってみますか!」

なんか天気崩れまくってきてるけど。


…………?

微妙な引っかかりを感じて、小森は後ろで静かに事を見守ってた高平に問いかけた。

「先輩、今日って快晴だって言ってましたよね?」

「あぁ。降水確率は0だって天気予報で言ってたんだけどなぁ」

「それにしてはこの天気……」


「コモちん、やっほー!アイファインセンキューアンジュー?」

小森たちの会話は、ばかでかい能天気な声に遮られる。

よーく知ってる声。言わずもがな奴らだ。

「アンジュー?じゃねぇよ。なんでおめーらがここ居んだよ?!」

「あのバカに私のデート邪魔されたから、小森の試合も邪魔してやろうと思って」

「ロクでもねぇ提案してんじゃねぇー!!」

「頭に響く声に導かれるまま、気がついたら此処にいました」

「病院行けよ、このチーム☆電波塔が!!!」

一通りツッコミを入れると、大げさにため息をつき諭すように言う。

「あのね、君たち。今試合中なの。だから部外者は出てけよ」

「部外者なんて……俺らとコモちんの仲はそんな他人行儀なものじゃないじゃないの!!」

「や、部外者だろ」

あんまり大騒ぎすると俺が部長に怒られるだろーが!やっと和やかになり始めたのに!

そう思いながら小森がベンチに座る部員たちを見ると、明らかに顔色が変わっている。やばい。

「すいません、すぐ追い出しま……」

「春日……お前なんて事してくれたんだぁー!!」

とっさに謝った小森の言葉を遮る様に、部長の大声が飛んできた。

「え?え?部外者入れたのってそんなにマズイの?」

「違う!それも良くないが、そいつだ、そいつ!!」

部長が指を指した先には、智希がいた。

「一年F組鮎川智希!お前運動部に出入りしてるのに、コイツの噂をしらないのか!?」

頭に?マークを浮かべている小森に、部長は畳み掛けるように説明する。

「いいか、春日。お前が仮に運動部のカリスマならば、この男は運動部の死神!こいつを絶対試合に招いてはいけないというのが運動部の中では暗黙の了解なんだ!鮎川智希が来た試合は必ず、どんなありえない確率であろうとも」

「とも?」


「100%雨になる」


まさか、と言いかけた小森の言葉はそのまま飲み込むことになる。

絶妙のタイミングで、バケツの水をひっくり返したような大雨が降り注いできたからだ。

「うっそー……」

ザザザーという大げさな雨音のBGMの中、部員たちはうなだれる。

「終わった……」



試合が中止になった後、大雨は嘘のように引き、再び快晴の空が広がった。

「くっそー、結局俺がものすごい怒られたじゃねーか……」

「ま、ま。どっちにしろ試合は延期になってレギュラー復活の時間稼ぎが出来たんだから、依頼的にはオッケーだったんでしょ?」

珍しく優しい七海のフォローが痛々しい。

運動部の結束をなめてはいけない。結束して小森に憤慨したエネルギーは、それだけ凄まじいものだったのだ。

「なんか納得いかねぇ……。つか智希!なんでお前はそんな大事なこと言わなかったんだよ!?」

大元の原因である智希はケロリとしている。

「ごっめんねー。俺も初耳だったよ、そんなこと」

反省どころか、新たな自分発見☆とばかりにちょっと楽しそうなのが腹立たしい。

「いやぁ、世の中漫画みたいなことって意外とあるもんなんだねぇ。そういうの、コモちんや啓クンの変人コンビだけかと思ってた」

「変人いうなぁ!!……って啓介、お前なんでずっと黙ってんの?」

「……ハラガヘッテハキソウデス」

「!!片言で吐きそうとか言うな……!」

「よーし、んじゃあ急いでご飯食べに行こ!もちろん、」


「「「小森の奢りで」」」



……こんなオチってあんまりだ。

自分はもしかして不幸の星の元生まれたんじゃないだろうか、そう考え一人落ち込む小森だった。



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