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Electric World  作者: 静野月
晴天の霹靂
8/31

第一話

ガツ!



頬を殴られ、裕平はアスファルトの上に転倒した。

人通りの少ない路地裏。

明かりは乏しく、仄かに浮かび上がる顔は、苦悶の表情だ。



殴った少年が、倒れている少年のカバンを漁る。


「お、まったコイツ、こんなに持ってるぜ」


財布から札を抜き取り、乱暴に、カバンを少年の体に叩きつけるように返した。


昭成(アキナリ)(マコト)に、二千円づつ。残りの五千円は俺な」


多少不公平な分配だがニヤケ顔で受け取る二人の少年は、楽しそうに倒れている少年に手を振っている。


「いつもいつも、俺たちにお小遣いあんがとねー」

「いやー、悪いねぇ。入野くん」


入野裕平(イリノ ユウヘイ)は、冷たい壁に寄りかかったまま、視点の定まらない瞳で大柄な少年を見上げている。


関口礼二(セキグチ レイジ)は、その裕平の抵抗するワケでもない、無気力な態度に再びイラっとした。




始めのうちは「止めてくれ」とか「金ならあげるから」など、泣きながらも叫んでいたのに、最近は黙って殴られる一方だ。


礼二にとってイジメとは――――、無力なものが無駄な抵抗をするから楽しいのであって、人形のようにただ黙って殴られているヤツを構ってもつまらない。

ぐったりとした祐平の胸倉を掴み、ぺっと顔に唾を吐く。


「お前さ、生きてて楽しいの?」


その無慈悲な質問に、裕平は答えなかった。

どうせ、何か言い返せば、更に殴られる。

だから痛いと顔を顰める事もなく、無表情に徹するしかない。


礼二の不良グループが、裕平をイジメのターゲットにしたのは高校に入学してから間もない頃だ。

始めは、休み時間の使い走り。

その内、機嫌が悪くなると殴るようになった。

持ち金が無いと言ってはカツアゲされる。

出さなかったら、精神的な苦痛を伴うイジメをされた。



礼二は体格が良く、気性が激しくて近所の不良仲間とも繋がりがある。

下手に反抗したら、界隈を歩くことさえできなくなる。

裕平は、このまま地獄のような日々を送りたくは無かったが、卒業するまでの辛抱だ、と諦めていた。


学校が変われば飽きるだろう。

だから、それまで我慢するしかない。



クラスメイトは、自分達に火の粉がかからないように見てみぬふりをしていた。


先生たちも、面倒くさそうに知らないふりをしている。




「お前さ、もう死んじゃえよ」

礼二が、ぐったりとした裕平に向けて拳を握った。

さすがに、昭成と誠がギョッと目を剥く。


ガッツーーーーーン!!


頬を殴打され、目の前に星が散った。

裕平の眼鏡が壊れて吹き飛んだ。


「お、おい。礼二、やり過ぎだってば」

「まずいよ、通報されるぞ?」


裕平の口元から、紅い糸が垂れ下がる。

口の中が、じゃりじゃりして、錆びた鉄の味がした。


「俺、コイツ見てると、無性にイラつくんだ。ほんと、いらねーヤツって感じでさ」

殴った礼二は、しれっとしている。

昭成と誠は顔を見合わせて、肩を竦めた。

祐平の頬は赤を通り越して紫に腫れ、完全に視点が合っていない。

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